■ 論文ID: 33 ■ タイトル: ネイティブ英語発話の日本人風の発音への変換による国際的な意識の促進 ■ 著者: 西田健志(神戸大) ------------------------------------------------------------------ レビューサマリ ------------------------------------------------------------------ 今回は外部査読者として投稿論文の研究分野の専門家の方にも査読をして頂きました。全ての査読者で採録に対して反論が無いため、採録が妥当であると結論します。 カメラレディ版では各査読者からのコメントに可能な限り対応し、より良い論文となるように努めてください。 ===== PC委員会後のコメント ===== 本論文はPC委員会で議論され、採録となりました。おめでとうございます。 WISSではソフトウェア科学会学会誌への論文推薦を行っていますが、貴殿の投稿論文については以下の修正がなされた場合には推薦の可能性があります(このため、現段階では推薦論文をお約束するものではありません)。 − review comment 1について 主として1番のコメントに対応してもらいたく思っています。つまり「大枠としての主張には正当なエビデンスがあるかと思うのですが、一方で節々に著者の思い入れが強く入っているため、現状のもので採録することには抵抗があります。」の部分です。 総じて、参考文献を挙げながら丁寧に議論はされていると思うのですが、節々で強すぎる(と感じる)主張があります(例えば、「高すぎる教育目標」「アメリカ英語のネイティブと同等の発音ができることを目標として指導されることが通例となっている」「歩み寄りの精神が求められるのは当然のことと思われる.」など)。 もちろん、すべての変更を求めている訳ではなく、主張の方法・内容は著者がすべて決めることができますし、同時に責任を負うものだと思っています。あくまでも論文をより広い読者へ届けるためのコメントであり、それがコミュニティとして共有するべき知見として適切ではないかと思ってコメントしています。 − review comment 2について 「どういう利用状況で効果的なのか具体例をもとに説明があればより説得力が高まると思います.」について紙面に余裕があれば対応してください。 − review comment 3について 「5章の説明が不十分」であり、また「1〜4章と重複する部分が多い」ように感じる。また、「章の順番も再考の余地がある」とありました。あまり時間がないため、これの全てに対応することは難しいと思いますが、できるかぎり試行錯誤をして頂ければと思います。 − review comment 4について コメント中の「このnativeの意識改革を促すという点について補足説明があると,より本研究の独創性が際立ち,面白い内容になると思います.」について対応してください。 また、2つめのコメント「「(non−nativeの)美しい発音への憧れを強化してはいけない」ということと「相手に一番通じやすい発音へ変換する」という異なる目標を同時に掲げているように見えたことです.」についても議論を整理するように修正をして頂くのが良いと思います。 ------------------------------------------------------------------ reviewer 1 ------------------------------------------------------------------ ■ 総合点: 3 ■ 確信度: 3 ■ 査読コメント: ネイティブな英語話者との会話において、発音が聞き取りにくい問題に対して、システムを介することで日本人話者の英語に近い発音にすることで、英語話者との会話の心理的障壁を下げようとする試みです。 1. 大枠としての主張には正当なエビデンスがあるかと思うのですが、一方で節々に著者の思い入れが強く入っているため、現状のもので採録することには抵抗があります。具体的には: − アブスト:「高すぎる非現実的な教育目標の中で自分の発音に自信が持てなくなることが」とありますが、あまりそういう教育目標を実感したことはありません。 − p1, 左段:「また,発音についてはアメリカ英語のネイティブと同等の発音ができることを目標として指導されることが通例となっているが」とありますが、一般論としてそのようになっているとは思いません。 − p1, 左段:「英米などのネイティブからも,相手が聞き取りやすいように話す,相手の訛った英語を聞き取れるように努力するといった歩み寄りの精神が求められるのは当然のことと思われる.」とありますが、ネイティブ話者が一般的に歩み寄っていないとは思いません。個人に依存する問題のように思います。 他にもありますが、総じて「我々非ネイティブ(特に日本人)はある程度頑張って英語を勉強しているんだから、ネイティブにもこちらに妥協するべき余地がある。というか、妥協して欲しい。」ということを主張されたいのだと思うのですが、(本論文は、ある種著者の個人的な主張で成り立っている部分があるので、少しだけ個人的な意見を言いますが)ネイティブの方々も色々な人がいて、そういう意味では個性・性格に依存する部分が多くあり、よって一般的な事象と言えるほどではないのではないかと思います。個人的な経験では歩み寄ってくれる人も多く居たと思っています。 2. 一方で、考え方を変えれば非ネイティブを支援するために、我々の発音をネイティブっぽくする方法も考えられます。この場合「ネイティブ発音−>非ネイティブ発音」ではなく、「非ネイティブ−>ネイティブ」ということで、そもそも恩恵を受けたい非ネイティブが負担を請け負うほうが対話としては自然ではないでしょうか。 これは同時に、我々がどのように発音をすれば良いのかの練習にもなります。少なくとも、英語で会話が出来る程度にまで英語ができる人にとっては、最後の壁が発音だとするとこのほうがポジティブな問題解決方法ではないでしょうか。 3. まとめ 総じて、非ネイティブの英語話者として共感できる部分は多くあります。一方で、主張が少しネガティブすぎる印象があり、むしろもっとポジティブに解決できる方法があればそのほうが良いのではないかと思うところがあります。ただ、自分自身として本論文に対して採否を付けがたいと考え、3点と結論します。 ------------------------------------------------------------------ reviewer 2 ------------------------------------------------------------------ ■ 総合点: 4 ■ 確信度: 2 ■ 査読コメント:  本論文では,ネイティブ英語発話を日本人風の発音へと変換することで,「日本人の英語に対する心理的な障壁の緩和」および「ネイティブに対して訛った発話の方が日本人に通じやすい」という体験を通じた国際意識の促進を実現しています.動画が添付されていないがゆえに,実際の訛った発話を聴いてみたいと思いました.  査読者も英会話に関しては本論文に記述されていたように歯がゆい思いをしており問題意識は非常に同意できます.また,従来研究で多かった非ネイティブの熟達度を高めるアプローチではなく,ネイティブを非ネイティブ化するというアプローチは新しく斬新だと思います.しかし,例えば,ネイティブが大多数を占めるランチミーティングにおいて少人数の非ネイティブのために,矢継ぎ早に飛び交う会話をその都度止めて提案システムが生成する訛り発話を聴くという状況は想像しづらく,どういう利用状況で効果的なのか具体例をもとに説明があればより説得力が高まると思います.また,提案システムレベルの変換方法であれば,ネイティブにあらかじめ日本人が聴き取りやすい発音方法を伝えておけば良いように思われます.さらに,評価実験では,実際に聴取した学生は中国人であり,日本人訛りに変換された発話が日本人にとってどうだったか,目的を達成できたか気になりました.  上記で述べたように荒削りな研究で,提案手法が適切かどうかは賛否が分かれるところだと思いますが,アプローチは独創的でWISSで議論したい研究だと思いました. ------------------------------------------------------------------ reviewer 3 ------------------------------------------------------------------ ■ 総合点: 4 ■ 確信度: 3 ■ 査読コメント: 提案システムは、ある言語(特に英語)のネイティブによる発声を音声認識し、非ネイティブである聞き手の母国語らしい発音で音声合成することで、リスニングなどの学習支援を目指したものです。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 評点の根拠 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−  英語のリスニングや言語的なコミュニケーションを支援する方法として、ネイティブの発声を非ネイティブの聞きやすい発音に変換するという発想に新規性を感じます。また、非ネイティブが発音をネイティブ並みに向上させるだけでなく、ネイティブが非ネイティブに合わせるという相互の歩み寄りを促進させる重要性を指摘している点も評価できます。  実装においても、誤りが発声しやすかったり充実した発音辞書を必要とする英語から日本語への変換ではなく、音素単位の置換ルールに基づいた合成という発想が、とても素晴らしいと感じました。この発想によって、変換のロバスト性を確保するだけでなく、程度の調整ができるという可能性を述べている点も素晴らしいと思います。  また、音声認識してそれを音声合成して返すだけでなく、音声認識結果の履歴の確認や変換パラメータの変更によって合成結果の違いを聞き比べるというインタラクションも実現されていて、実用的な枠組みと感じました。デモビデオで聴いた音では、特に単語区切りの再生が日本人にとって聞きやすくなっていて、有用性を感じました。  しかし、インタラクティブシステムに関する論文として、もっと5章の説明を充実させていただきたいと感じました。例えば、第5.2.3項の説明や機能をもっと詳細に説明していただきたかったです。第1~4章の内容が重複しているように感じて、もっと推敲によって必要な説明だけに絞ることができるのではないかと思いました。  また、音素単位の置換ルールに基づいた合成は、柔軟性とロバスト性の観点からは素晴らしいと思いますし、発音辞書を用意する方法よりも良い方法だとは感じます。しかし、本当に妥当な方法なのかが十分に判断しきれませんでした。第6.1節にあるように、またデモビデオで音を聞いた印象では、単語単位では聞き取りやすくなることはあっても、全体的に逆にわかりにくくなることもあるように感じました。  本システムを用いる場合の(非ネイティブ側の)一つの理想は、流れてくる音声を目で確認したりせずに、リアルタイムに聴き取りやすくできることではないかと査読者は推測します。しかし、単語毎に細かく聞き直したりする必要があるならば、音声認識した結果を視覚的に提示する方が単純で、しかも有用だったりしないでしょうか?  また、コミュニケーションの観点からは、ネイティブ並の発声は必ずしも必要ではないと思いますが、「ネイティブの英語発話を日本人風の訛った英語発話に変換するシステムを利用して,英会話の練習および実践を行うことを提案する.」のように、最初から訛った英語発音で練習するのが本当に良いことなのでしょうか?  ただし、一方で「相手の訛った英語を聞き取れるように努力する」というネイティブ側の歩み寄りに関しては、音声認識だけでは不十分そうで、今回提案された考え方がマッチするように感じます。つまり、非ネイティブを支援するより、ネイティブ側の歩み寄りを支援できる可能性の方が大きいようにも感じました。しかし、ネイティブがそれをやりたくなるインタラクションデザインとなっているかどうかがよく分かりませんでした(モチベーションの観点など)。 以上が評点の根拠です。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 論文改善のためのコメント、疑問 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ・第3章と第4章よりも、第5章を先に持ってきて説明すると良いのではないでしょうか? また上でも述べましたが、第1章~第4章が同じような説明が出ているように感じ、さらに推敲できる印象を受けました。 例えば、第5章と第3章、第2章と第4章がそれぞれ関連しているように思えるので、話題が行ったり来たりするように感じました。順序など論文の構造も含めて再検討いただければと思います。 ・表1の「前」「後」が分かりづらいと感じました。 「変換前」「変換後」でしょうか? 母音・子音の連続でも単語の例があると良いと思いました。 また、例において具体的にどれが相当するのか(f'a't)が下線などで明示されていると良いと思いました。 ------------------------------------------------------------------ reviewer 4 ------------------------------------------------------------------ ■ 総合点: 4 ■ 確信度: 3 ■ 査読コメント: 大変ユニークな発想による面白いご研究と拝見しました. 既存研究[11]と本研究の類似点・相違点について:nativeに負担を課すことによってnon−nativeを支援する(non−nativeの負担を軽減する)アプローチが似ていると思います.ただ,[11]がnativeにこっそり負担を課す(nativeが負担を課されていると感じないようにする)ことを狙っているのに対し,本研究ではnativeに明示的に負担を与え,それを意識させることによる効果も狙っている点が異なると感じました. このnativeの意識改革を促すという点について補足説明があると,より本研究の独創性が際立ち,面白い内容になると思います.本文中に,「(nativeに)自分の発話が訛った方がnon−nativeに伝わりやすかった」と気づかせることによって意識改革を促すとありましたが,単にnativeの発話に訛りを付加してnon−nativeに聞かせるだけでは,そのようなことを実現するのは難しい気がします.同期コミュニケーションの場合,nativeは自分の発話がnon−nativeにどのように聞こえているかすらわからないのではないでしょうか?nativeに,自分の発話がnon−nativeにどのように聞こえているかfeedbackして聞かせることによって意識させる方法もあるでしょうが,それでは話せなくなってしまうでしょうし,何かしら,UIを工夫するなど,もう一ひねり必要な気がします.あるいは,非同期コミュニケーションを想定されているのでしょうか? 最後に,一点気になったのは,「(non−nativeの)美しい発音への憧れを強化してはいけない」ということと「相手に一番通じやすい発音へ変換する」という異なる目標を同時に掲げているように見えたことです. non−nativeの美しい発音への憧れが強化することによって,発話意欲が低下してしまうことを懸念されていることは理解できるのですが,そのことと「相手に一番通じやすい発音」は別のことのように思います.たとえば,「相手に一番通じやすい発音」を目的にするならば,non−native−−>nativeに関しては,nativeに最も通じやすい訛り除去を行うべきではないでしょうか.それに,もしかすると,コミュニケーション的,あるいは人間関係形成上は,native−−>non−nativeには訛りを付加しnon−native−−>nativeには訛りを除去するのが良いかもしれません.コミュニケーションは相互作用的ですので,この辺は,どういった結果になるか,試してみないとわからないことが多いと思います. この辺,いろんなことが考えられて少し混乱を招きやすいので,少し整理された方が読者にとってわかりやすくて良いかもしれません.