■ 論文ID: 62 ■ タイトル: SuprIME: IMEによるテキスト編集機能の統合 ■ 著者: 中園翔(慶大),増井俊之(慶大) ------------------------------------------------------------------ レビューサマリ ------------------------------------------------------------------ 有用性は認めるものの,技術的な説明が不足しているために,正確さを評価できません.採択された場合は,大幅な加筆を求めます. ------------------------------------------------------------------ reviewer 1 ------------------------------------------------------------------ ■ 総合点: 4 ■ 確信度: 3 ■ 査読コメント: 本論文が解決しようと試みている問題は,これまで長い間よく知られていた未解決問題であり,それに取り組むことは非常に意欲的であると評価する.これが未解決であった理由の一つが,解決法が「きれいごと」では済まされない複雑なOSとAPIの設計に踏み込まなければならなかったからで,著者も3.3で述べている通りである. 本論文で欠けている部分は,このアプローチでどの範囲までのアプリケーションの編集部分をカバーすることができるのか,という客観的な記述である.例えばブラウザにしても,アドレスバー,コンテンツ内のtextarea,ダイアログ中のテキストボックスなどテキスト編集が必要な部分は複数ある.MacRubyのソースコードを編集すればすべてに対応できる,というのではなく,あるバージョンにおいて,100%対応していることが確認できたアプリ,部分的な対応ができたアプリなどの一覧を開示して欲しい.対応が取れていない部分についてはどの程度のコードの追加で対応できるのかといった情報も欲しい. Dynamic macroやインデントなどの処理は,emacsではバッファに対して後から機能を追加したり外したりできていた.これらをどのようにシステムとして構築して行くのか.emacsとはまた違った考え方を導入しなければならない気がする.それらに対する考察もぜひ加えて欲しい. パスワードの入力エリアのように,途中でログが取られないことが保証される,デリケートな扱いをしなければならない場所ではどのような対応をするのか. 特定のアプリ向け拡張や,dynamic macroのような汎用な拡張などは,その部分だけ単独で拡張機能として流通できる必要がある(emacs の .el) .そこに悪意のあるコードがまぎれる可能性について,考える必要がある.サンドボックスや,挙動の可視化など.この論文のアプローチで当然予想されることであるから,何か対策があるなら加えて欲しい. ------------------------------------------------------------------ reviewer 2 ------------------------------------------------------------------ ■ 総合点: 3 ■ 確信度: 1 ■ 査読コメント: 興味深い試みだと思います. しかし,内容の正確性や議論については大いに不満です.2節に記述された内容は一般的な編集機能であり,そこに新規性は認められません.この論文で興味深いことは実現した機能の列挙ではなく,その実装手法と実装の限界だと思います.その意味で,実装について形ばかりしか触れていない3節の内容は非常に残念です. MacRuby のどのような API を利用したのか,特に連続インデント,コピー&ペースト,名前つきバッファ(もし実装していたら)のように,複数のアクションの組み合わせから構成される一連の編集操作を適切に実装する上では苦労があったことと思いますが,その説明が一切なされていないために,この論文の技術的な価値を失われています. 論文は単なる宣伝の場ではありません.専門家が追試するために十分な技術的な提供するように努力して始めて,その正確性が評価されます.採択された場合には,大幅な加筆をお願いいたします. 4.5 でシステムの限界について説明がなされていますが,実装の詳細が不明なために,単なる経験的な結果としてしか理解できず,この限界が実装の稚拙さによるものか,IME を利用する方式に本質的なものなのか判断することができません. 3.2: 「機能衝突」の意味がわかりません.アプリケーションが修飾キーに割り当てた機能を呼び出すことができなくなるのであれば,アプリケーションの機能が失われるという意味で不都合なことではないでしょうか. 3.3: もっと詳しく書いてください. typo: p. 3−L: あらかじめめ ------------------------------------------------------------------ reviewer 3 ------------------------------------------------------------------ ■ 総合点: 3 ■ 確信度: 2 ■ 査読コメント: テキスト編集における基本操作の共通化を試みるSuprIMEの試作と考察の論文です。 IMEはほとんどすべてのキーボード入力を担うため、インタフェースとして考えるべき非常に重要な部分であると考えられます。 論じられているようにIMEに機能を実装することによって様々な操作を共通化できると考えることができます。 そして、個別のソフトウェアに左右されない操作性を得られると考えられます。 ただ利便性は得られると考えられますが、議論となるのはIMEがどこまでの機能を持つかということではないかと思います。 英語圏ではIMEを常用しないこともあるため、IMEを中心に機能の共通化することは、アプリケーション側の設計が国ごとに異なる懸念も出てくるのではないでしょうか。そうなると、共通化は簡単な話ではなくなることになると思われます。たとえばスペルチェッカーはIMEではなく、テキストエディタ側の機能として備わっているのは、IMEを利用しない文化が設計したためにエディタ側にあるのだと思います。そしてスペルチェッカーはIMEに実装されずとも、利便性を得られていると思います。ですから、IMEに対する機能拡張という話だけでなく、テキストフィールドに対する共通機能の実装という視点のほうがよりユニバーサルである可能性も考察できるのではないでしょうか。このようなエディットに関するさまざまインタラクションを取り上げ、そこからIMEでやるべきこととテキストフィールドでやるべきことを議論することが、たとえば他のIME開発者やテキストエディタの開発者に対しても新しい知見を提供できるのではないかと考えます