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■ 総合点
2
■ 確信度
3
■ 査読コメント
本論文は、自転車に搭載されたモバイルプロジェクタを用いて道路に動物を描画し、サイクリングのモチベーションを向上するものです。ペットとの散歩をモチベーション維持に活用する試みは面白く、WISSで議論すると盛り上がりそうな提案だと思います。

一方で、現状の実装においては夜にしか使えない点で、制約があります。また法律的に問題ないかも議論すべきと思います。わざわざプロジェクタから投影するよりも、スマホのアプリケーションにした場合でも、ペットと一緒に散歩をしている感覚は維持できるのではないでしょうか。その方が合理的で、すぐにでもリリースできると思います。両者はすぐに比較実験もできるため、両方実装して印象を抽出すべきだと思います。
■ レビューサマリー
平均点は低かったものの、点数は割れている状態でしたので、プログラム委員会の俎上に登り、賛同者を得ての再録となりました。アイディア自体は面白く、PC委員会の場でも盛り上がりました。一方で、論文の目的設定からシステムの導出までの論理構成や、関連研究の不足、さらに実験デザインなど、不十分な点が多く、これについては、最終原稿提出のときまでにできる限り修正をお願いしたく思います。






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■ 総合点
4
■ 確信度
3
■ 査読コメント
大変面白いエージェントの利用法だと思います。移動装置に設置するものですから、ユーザの視線の動き含めて、安全性の評価について十分な配慮が必要になると思われます(特に、デバイスの制約上夜間が中心になると思われます)が、その点がクリアできれば、極めて有用な研究であると思います。

また、エージェントと空間を共有している感覚を与えることで、被験者の評価が高まることがいくつかの研究より知られています。環境中の情報を何らかの形で測定し、測定した情報をもとにした動作をペットに対して付与すると、システムの効果がより高くなるのではないかと思われます。

David Robert and Cynthia Breazeal. 2012. Blended reality characters. ACM/IEEE international conference on Human-Robot Interaction, ACM Press, 359–366. http://doi.org/10.1145/2157689.2157810
Yusuke Kanai, Hirotaka Osawa, and Michita Imai. 2013. BReA : Potentials in Combining Reality and Virtual Communications with Blended Reality Agent. IEEE International Symposium on Robot and Human Interactive Communication, 605–609.



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■ 総合点
2
■ 確信度
2
■ 査読コメント
筆者らは小型プロジェクターとAndroid機を利用し、サイクリングのモチベーション向上(または維持)を目的とした自転車用モバイルアプリケーションおよびその提示システムである「CyclePet」を構築した。
アプリケーションを起動すると自転車前部に取り付けられたプロジェクターが、自転車操作者の行動に対して異なる仕草を示す「バーチャルペット」を表示する。
このバーチャルペットシステムを使用しサイクリングすることで、「走行前、走行中、走行後」のモチベーションに変化があったかを、アンケートを行い評価した。

本研究からは筆者らの高い実装力が伺える。またその高い実装力を以って本プロトタイプの制作およびパイロットテストを完了したことは評価に値する。しかし、本論文内の記述から、本システムがユーザのモチベーション向上を促しているという結論を支持することは容易ではない。その理由は大きく分けて三つある。

まず一つ目は関連研究の調査および記述である。本論では、運動のモチベーション向上を目的と謳っているが、「モチベーション」についての記述が不足している。
スマートフォン、スマートウオッチ向けのエクササイズアプリケーションを始め、トレッドミルなどのトレーニングマシンに内蔵される運動モチベーションの維持や向上を目的としたアプリケーションの前例は枚挙に暇がない。また、運動という括りに限らなければ、継続的なアクセスを稼ぐためのゲームデザインなどにもモチベーション維持に関する工夫やノウハウはある。
これらを踏まえ、以下に示す論文を参考に関連研究にモチベーションについて論じる項を設けること、及び『モチベーションの維持および向上になぜバーチャルペットが効果的であると考えるのか』についての説明を付加することを強く推奨する。

[1] 水野基樹, et al. "モチベーション研究における動機概念に関する理論的整理-McClelland の所説に基づいて." 千葉経済大学短期大学部研究紀要 4 (2008): 51-61.
[2] 根本啓一, et al. "ゲーミフィケーションを活用した自発的・持続的行動支援プラットフォームの試作と実践." 情報処理学会論文誌 55.6 (2014): 1600-1613.
[3] 山﨑将幸, and 杉山佳生. "バドミントン選手におけるモチベーションビデオの介入効果: 試合 1 時間前視聴タイミングからの検討, スポーツパフォーマンス研究." (2009): 275-288.

ニ点目は、評価実験の結果に関する記述が極端に少ないことである。限られたページの中で全てを示すことは難しいかもしれないが、序章にて、『「あたかも一緒に走っているかのように感じられるバーチャルペット投影システム」が「サイクリングから離れてしまった者や、これから始めようとする者」に対し「サイクリングに対するモチベーションを向上・維持」させることに効果があるのか?』ということを問題として投げかけているが、本論文では、途中多くの分量を使って語られる「ペットの位置」や「仕草」について、どの機能がどのようにモチベーションに働きかけるために実装されたのかという記述がない。また評価においてその効果を明らかにしようという記述もみられず、ごく簡潔なアンケートをもって結論している。この点は非常に残念である。

三点目、これが非常に重要な点だが、仮説設定とその評価をどう行うか、という論文の理論的な設計の不足が指摘できる。現象や事象における因果関係を明らかにすべく、仮説を立て、パラメータを変えた時の変動を予測し、実験を行い、仮説と照らし合わせる、という研究の大きな枠組みの理論設計が不足している。実装がきちんと出来ているだけに、きちんとした仮説設定に基づく実装とその評価によって効果を明らかにして頂きたいと願うばかりである。


以上を踏まえ、本研究においては各章に以下の点についての考察および記述の追加・修正を推奨する。
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2.関連研究
- モチベーション研究についての概要
- 本論文おけるモチベーションの定義、及び注目する要素
- 先行事例との明確な新規性

3.提案手法
- 本研究の目的に対して具体的にどのような機能を実装するか
- その機能はどのように計測可能な数値に働きかけるのか
- それがどのように変化したときに「効果があった」と見なすのか
例1)任意に設定した目的地まで本システムなどを使って移動してもらう。被験者には「やめたくなったらいつでも」使用を中止できる旨を伝え、被験者が運動をやめるまでの時間と距離を計測。速度計、実際の犬、本システム、何もつけない場合、などの条件と比較することで本システムが「運動継続時間」にどのような影響があるかを示す。
例2)距離を伝えずに目的地まで向かってもらい、速度、回転数、消費カロリーを計測。実験後に複数の質問の中に「疲れを感じるか」「どれくらい距離を移動したと思うか」「どれくらいの時間運動していたと思うか」を聞く。本システムを使った場合と使わなかった場合で、運動量と疲労度、体感時間、体感移動距離にどのように影響があるかを調べる。
など

4.CyclePet
- それぞれの機能や仕草が何を目的として実装されたのかの記述。特に映像部以降。

5. 評価実験
- 実際に行った全ての評価とその結果の明確な提示。
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以上。



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■ 総合点
2
■ 確信度
2
■ 査読コメント
運動のためのサイクリングをする人口の低減の原因を継続的な動機づけに求め、それを改善する工夫として、サイクリング中のARを提案しています。ARとしてプロジェクターで照射したペットの映像を利用しています。

映像の様子は、ちょっと見は面白く、犬の仕草が可愛らしいです。

提案の有用性について、初歩的な評価を行っていますが、実験条件は不明瞭ながら強いバイアスがかかっている可能性を排除できません。また、継続性についての直接的な評価は実施していないため、被験者選択のバイアスとあわせてアンケート結果の信頼性は低いと思います。

技術面で特に新規な点を見出すことはできませんでした。以上より、採択は難しいものと判断します。

退屈な日常生活に日々、動機づけを与えることは重要な問題です。ただ、今回の試みでは十分な評価を行っているとは思えません。アンケートで良好な結果を得たとご主張なさっていますが、(著者の自宅を知らせたことから)親密な関係にある友人を被験者に選んだ(と想像される)こと、たった一往復しか実験を行っておらず、実際にモチベーションを日々、維持できているのか検証していないこと、CyclePet を用いないグループとの比較をしていないこと、アンケート結果の好感が (1) 日常とは異なるルートをサイクリングした効果、(2) 友人同士の集団心理から得られるある種の興奮状態の影響の可能性、(3) CyclePet の道案内機能の有用性とサイクリングの動機づけの効果との分離ができていないことなどの問題をはらんでいます。実験条件として、このような不安を除外するようなものを慎重に設定してください。

日常生活に動機づけを与える試みとしては、ゲーミフィケーションの考え方がありますので、それとの比較をして下さい。ご提案にはゲーミフィケーションの要素が含まれていません。ですので、最初の数日は面白いかもしれませんが、すぐに飽きるのではないかと思われます。古くは、たまごっち、最近では NIKE+GPS のアバターなどと比較されるといいでしょう。これらのシステムでは、アバターを日々、成長させることが目的として設定されており、いずれも努力を怠ると行動を促すとともに、徐々に見かけがぶざまに変化するなどの工夫がなされています。



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■ 総合点
2
■ 確信度
2
■ 査読コメント
自転車にプロジェクターを投影し、サイクリングに対するモチベーションを支援するという試みは興味深いです。
しかしながら、明るい状況では本システムが利用できず、利用シーンが限られており、また暗い状況で本システムを利用する場合、安全性がどれくらい確保できているのかが疑問です。
またご提案されている10パターンのしぐさをもつペット映像を投影することで、サイクリングに対するモチベーションが向上するのかはどうかは疑問が残ります。
使用するデータや投影する映像に対しても熟考が必要であると考えます。