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査読者 1

総合点

4

確信度

3

コメント

深く考えるためのインタフェース,特に問題の複雑さを気づかせるためのインタフェースを開発するという,試みそのものは高く評価したいと思います.しかし,その試みを実現するためのインタフェースデザインという観点からは,今一つ工夫が感じられないというのが正直なところです.
システムの特徴としては,
(1) アイディアノートからの検索とWebからの検索の融合
(2) Web検索においては文字列の自動分割による,全文完全一致検索
(3) ユーザ操作からのリアルタイムな情報更新(記事の削除操作とともに,類似記事の自動削除)
(4) 一定画面内での情報提示
が挙げられると思います.
しかし,(1)はEvernoteで拡張機能として実現されています.
(2)はGorotteからの差分になると思いますが,システムデザイン(あるいは技術)的には,単純に文を一定数(4つ)に分割しているだけにすぎません.問題の複雑さを知覚させるという目的に対して,どのような情報を提示すべきかということについては,もっと深い議論が必要だと思います.単純に文を短く区切るというのは,多様性を増すというよりも,単に曖昧性を増しているにすぎないように思います.また,Webを検索するにあたり,既存の検索エンジンを用いています.しかし,著者も指摘しているように「素早く妥当な答え」に到達することを目標にしたシステムで,問題の複雑さを増して提示するものではありません.なぜ,情報を検索するという根本的な部分に,一般的なWeb検索エンジンを使用しているのか,読者を納得させるだけの理由が必要だと思います.命題分割アルゴリズムにおいてもWeb検索エンジンを使用していますが,重要単語とはどういう観点で重要なのか,フィロソフィーを説明すべきだと思います.検索エンジンの結果に多く出てくるということは,多くの人が素早く解にありつくために重要と考えているということかと思います.
(3)の基本的な概念は,Gardsで提案されています.
また,(4)については,選択したフレーズが増えれば検索結果の情報を表示するスペースを減らすというだけのものであり,特に工夫とは認められません.

運用結果ですが,おそらくこれは開発者本人の運用結果だと思いますが,提案インタフェースの利用は,命題の入力,フレーズの選択,提示された情報に対する深い考察など,インタラクションのほとんどが利用者のスキルやモチベーションに依存しています.提案システムが本当に使えそうかどうかを判断するには,バックグラウンドの異なる複数名のユーザに使用してもらうことが必須だと思います.また,何を考えて,これらのフレーズを残したのかや最終的にユーザはどのような考えに至ったのかなどの説明がないと,これが考えるために有効なのかどうか,分からないと思います.

採録判定時のコメント

「深い思考を促すIF」というアイディアは高く評価され、命題分割と検索結果表示部への制約の二つの機能が、深い思考を促すのに役立つ可能性があることは否定できません。一方で、上記のようなシステムデザインに至った背景やフィロソフィーが明確に書かれていない点がマイナス評価となりました。最終的に、(提案方式に限らず)「深い思考を促すインタフェースとは何か」について、WISSの参加者間で深い議論が行われることが期待できるため、「議論枠採録」と判定されました。

レビューサマリ

「深い思考を促すIF」というアイディアは高く評価されました.命題分割と検索結果表示部への制約の二つの機能が,深い思考を促すのに役立つ可能性があることは否定できないと考えられます.一方,上記のようなシステムデザインに至った背景やフィロソフィーが明確に書かれていない点や、命題分割の実現方法がシンプルすぎる点がネガティブに評価されました. 命題分割については,検索結果で出力すべき解を曖昧にすることで,人によって答えが変わりうる内容が提示できる期待が持てるという点が良いと評価されました.検索結果表示部への制約については,表示スペースの制約から,厳選したフレーズを残すということが自然に行われ,常にフレーズを目にすることにより深い思考が期待されるという点が良いと評価されました.今後は,これらの狙い(仮説)が本当に正しいかどうかを検証してほしいと思います. また,命題分割の実現方法ですが,どのように分割すれば深い思考を促すことができるのか,もう少しこの問題に直接的に取り組んで欲しく思います.特に,既存のWeb検索エンジンをそのまま利用すべきかどうかについて検討してもらいたいと思います.また,多様で深い内容を伴う結果が得られたら良いのですが,検索クエリをあいまいにするだけでは,単に多様であいまいな結果しか得られないかもしれません.深い内容を提示するための工夫が入ってくれば,もっと良い研究になると思います.

その他コメント

査読者 2

総合点

5

確信度

3

コメント

ある命題に対する熟考を支援するための検索インタフェースという考え方は非常に面白いと感じました.
また,フレーズの表示方法に関するインタラクションデザインについても,ある命題について思考を促す効果がありそうな興味深いデザインだと思います.

論文や参考ビデオで用いられている全てのクエリ例は,「答えが一つに定まらない,あるいは定めることが極めて困難である」ようなクエリだと思います.そのようなクエリについては,そもそも従来の検索エンジンで素早く答えを見つけることができるようなクエリではないと考えられます.中には,こうしたクエリでも検索結果の上位に出現する答えをそのまま自分の答えとするユーザもいるとは思いますが,そうしたユーザは提案システムを利用しないでしょうし,ウェブ検索結果から得た情報を元に自らで答えを出すようなユーザは,提案システムを用いずとも,その命題をそのまま検索エンジンに投入した検索結果を見ることでその命題について深く考えることができるのではないでしょうか?物事について深く考えたいという態度をもったユーザにとって,わざわざ命題を分割してあえて命題とあまり関係のない情報を返すことが,本当にそのユーザを支援しているのかどうかについては,さらなる考察や実験が必要ではないかと考えられます.

また,本研究と関連した研究としては,渡邊らのMemoriumがあります.Memoriumも,ユーザが投入したクエリとある程度関連するが異なるような検索結果を提示するシステムの1種だと考えられます.

[1] 渡邊恵太, 安村通晃 Memorium: 眺めるインタフェースの提案とその試作. 第10回 インタラクティブシステムとソフトウェアに関するワークショップ (WISS2002), pp.99-104, 2002.

査読者 3

総合点

5

確信度

3

コメント

著者はアイディアノートとWebを併用することで、ユーザに対して問題の複雑さに気付きを与え、より深く考えるためのインタフェースを提案しています。

アイディアノートとWebそれぞれが持つ特性を明確に述べたうえで、それらを相補的に使用することでユーザにより深く考えさせることを実現させるのは非常に説得力のあるアプローチだと感じました。
一方で、アイディアノートおよびWebの検索時に使用するアルゴリズムについては技術的な貢献は低く、命題の分割数や編集距離の閾値などがヒューリスティックに決定されている点も今後改善の余地があるかと思います。
「命題を分割し要素単位で関連のある多様な情報を提示することで、問題の複雑さに気づかせることができる」という仮説自体は、ある程度妥当性があるように思います。しかし、現状のように命題を単純に4つの要素に分割し検索するという手法では、仮説とその実現方法にギャップがあり、かつ現状の実現方法が単純すぎるように思います。
インタフェースに関しては、図1の検索結果表示画面では大きな工夫はないように感じました。
一方で、図2において、ユーザがフレーズを選択するほど検索結果の表示部が小さくなる点および、左にスワイプした結果は再検索後も残る点は、深く考えることをより促すために適したインタフェースであり、この研究の貢献であると言えます。
WISSでは、「より深く考える」ことの妨げになっている二つの要因を解決するための他のアプローチや、著者が述べている二点以外にどういった要因があるか、など多様な観点から議論が期待されます。

以下その他のコメントです。
- Web検索結果を表示する際に、MMR[1]などの検索結果の多様化手法を用いることで、ユーザがWeb検索結果を下位までスクロールせずとも、上位を見るだけで多様な検索結果に触れられるようになるかと思うので、参考にしてみてください。
- 誤植:1ページ目、右4段落目「あるこに気がつく」→「あることに気がつく」
[1] Carbonell, Jaime and Goldstein, Jade: "The Use of MMR, Diversity-based Reranking for Reordering Documents and Producing Summaries", In SIGIR, 1998