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査読者 1

総合点

7

確信度

2

コメント

本論文では,スマートデバイスに搭載されている3軸磁気センサを1つだけ用いた,複数の磁石の位置検出手法を提案しています.
著者らが述べているように,スマートデバイスの磁気センサと外部の磁石を用いたインタラクション手法は様々提案されています.本研究は,複数の磁石の連続的な位置を推定できる,という点で従来手法とは異なります.
評価実験や複数のアプリケーションへの実装が行われており(動画でも提案手法が動作していることが確認しました),本論文を高く評価することができます.

しかし一方で,気になる点が多数あります.
まず,モデルが適切なのかどうかが不明です.なぜ(1)式では行列を使わずに,xyzそれぞれ独立な係数をかけているのでしょうか?また,なぜHから磁石の位置や姿勢が求められるのでしょか?
また,どのような学習データを取得する必要があり,実際にどのように取得したのか,どの範囲の位置推定が可能なのか(磁石の3次元位置や姿勢まで推定できるのか)なども不明です.
評価は1つの学習データを用いて8種類の動作パターンの位置推定を行ったのでしょうか(数式から考えると,それが可能であるように思われますが,この理解で正しいのでしょうか).
図2では含有強度がスカラの値となっていますが,式から考えれば含有強度は3次元のはずです.
既存研究を「磁力線の変化に大胆な線形性を仮定したアルゴリズムである」と書いている以上,提案手法ではより適切で合理的なモデルが適用されていることがわかりやすく記述されている必要があります.
論文に記述されていないことが多く,多くの暗黙の前提があるように感じています.不良設定問題であるため,仮定や前提が必要であることは理解します.仮定や前提を明記することが必要です.
なお査読者は,常識的に考えれば不適当な仮定や前提があったとしても,その仮定や前提を設けることでインタラクションに適用可能な精度で磁石位置を推定できるのであれば,価値のあることだと考えます.

また,ビデオや本文中の図は,磁石の位置を2つもしくは3つに分類しているだけのように見受けられ,本手法と既存手法の違いである,連続的な位置を推定できることの利点がわかりづらくなっています.磁石の連続位置を用いてどのようなインタラクションが実現されるのか,どのような応用が期待されるのかについての記述があると,主張点が明確になると感じました.

採録判定時のコメント

単一の磁気センサを用いて、2つの磁石の位置を推定するというチャレンジングな課題に取り組み、インタラクションに適用可能なレベルで実装されていることは高く評価できる。一方で、手法の記述が不十分であり、詳細把握が困難である(提案の数式からは、未知数全ての決定は不可能)。本論文は議論枠での採録とし、会場での活発な議論を求めたい。
※当判定結果は、提案手法の合理性・妥当性・再現性を担保するものではありません。

レビューサマリ

本論文は,2つの磁石の位置を1つの磁気センサだけで推定する手法を提案している.1つの磁気センサから磁石の連続的な位置を推定することは不良設定問題であり,一般に解くことはできない.著者らの手法では,混合されて観測された磁力線を分離し,得られた磁力線から磁石の位置を推定している.2つの磁石の位置をスマートデバイスで検出することで,ぬいぐるみやゲームコントローラへの適用が容易に実現される.

実現されるインタラクションの有用性やプロトタイプが実際に動作している点は高く評価できるが,提案手法に関する記述が不足していること,不明点が多いことがレビュアーから指摘されており,そのままでの採録は難しい.
指摘事項に対応し,適切な修正がなされることが強く望まれる.


採録判定後のコメント:
論文の修正は採録の条件ではありませんが,カメラレディ原稿では,査読コメントで指摘された点の修正や暗黙のうちに仮定されている前提条件を明記されることを強く希望します.また,発表時には十分な議論が行えるよう,手法の仮定や前提条件、必要な学習データ、インタラクションに適用する際の制約や限界などについて明らかにしてください.

その他コメント

本論文は,議論枠での採録と判断されました.
提案手法の妥当性に強い疑念はあるものの,プロトタイプが実際に動作している点を高く評価したためです.
論文に記載されていない暗黙の前提が数多くあるように感じます.発表では議論が深まるよう,手法の仮定や前提条件,必要な学習データ、インタラクションに適用する際の制約や限界などについて明らかにしてください.
また,このような判定はレビューコメントを公開し,議論を重視するWISSだからできたことをご理解ください(通常の論文であれば,手法の合理性や妥当性が理解されなければ不採録となります).

査読者 2

総合点

4

確信度

1

コメント

本論文は単一の3軸磁気センサを用いて,複数の磁石の運動概略を測定する手法に関するものである.概念として興味深く,実際に動くと推定されることから,上記の評価となった.


評点の根拠:
単一の3軸磁気センサで多数の磁石運動を認識するということで,大変興味深い.
ただ,地磁気を既知のものとして扱っているが,これは場所や姿勢が変わった際に,再学習が必要とされるということなのであろうか.もし再学習が必要ということであれば,そのコストについての議論が求められる.また,位置認識精度の評価に関して,図3を含め,単位が記載されておらず,具体的な精度が不明瞭である.この点については改善が必要とかんがえられる.

査読者 3

総合点

2

確信度

2

コメント

本研究では音源分離等で用いられる技術を磁石の影響の分離の問題に適用することで、磁石のモーショントラッキングを実現する手法を提案しています。この技術を用いて、ぬいぐるみに磁石とスマートフォンを取り付けることでぬいぐるみの姿勢をトラッキングする応用を提案しています。このぬいぐるみトラッキング手法の利点として、既存の手法に比べて、ぬいぐるみを引き裂く必要がない、スマートフォン以外に特殊なセンサを取り付ける必要がないなどが挙げられています。

トラッキング手法に多くの疑問が残り、現状の原稿のまま採択することは難しいと考えました。

まず教師あり機械学習だとありますが、どのように教師データが指定されるのかの記述が見当たらず、アルゴリズムを理解できませんでした。「事前登録した磁力線$X_{i, \phi}$」とは何でしょうか。$i$は磁石のインデックス ($i \in \{ 1, 2 \}$) でしょうか。だとすると、$X_{i, \phi}$を観測する方法が自明ではないように思います。何らかの学習フェーズのようなものがあり、そのときのスマートフォンの地磁気センサーの値から$X_{i, \phi}$を推定するのだとしても、そもそもここで磁力線分離問題を解く必要があるはずです。また、これは磁石がどの姿勢にあるときの磁力線を指しているのでしょうか。例えば図1のくまのぬいぐるみの例では手を挙げたときの磁石の姿勢が$X_{i, \phi}$の推定に使われるということでしょうか。その場合、手を下げたときの姿勢は教師データに含まれないということでしょうか。

含有強度$H_{i, \phi}$が各座標軸 (xyz) ごとに値を持つ定式化になっていますが、各軸ごとに含有強度を求めたあと、どのようにそれらを統合するのかに関する記述がありません。これは全く自明な問題ではないように思いますので、省略せず記述して欲しいです。

(そもそも学習データや含有強度に関して私が誤解しているのかもしれませんが)式 (1) の仮定は妥当性に欠けると感じます。このように仮定して良い根拠はあるのでしょうか。磁石の姿勢が変化したとき観測点における磁界はその向きは変えずに強さだけが変化する、という仮定だと解釈しましたが、実際にはそのような変化をすることはないと思います。向きのみが変わったり、学習データに含まれる状態よりも強い磁界となることも考えられ、特にそのような場合にはこの仮定は現実を妥当にモデル化できているとは言えません。また、学習データに含まれない姿勢 (くまのぬいぐるみの例でいえば手を下げたとき) のとき観測される磁界は、この仮定のもとではゼロになるということでしょうか。そのあたりもよく理解できませんでした。

磁石の取り付け方、たとえばS極をどちらに向けるかなどに関する議論がありませんが、これは性能に大きく寄与すると思われます。直感的には、2つの磁石の作る磁界が地磁気センサー付近で概ね直交するようになっていると分離はより精度良く行えそうに思えます。一方で地磁気センサー付近で概ね同じ方向を向くようになっていると、分離は本質的に難しくなると思われます。

地磁気について「$C_{\phi}$は既知であるため」とありますが、どのようにして知るのでしょうか。スマートフォンの姿勢に連動してその値は動的に変わると思いますが、地磁気センサーからは磁石からの磁力を混合した値が得られるため、$C_{\phi}$を抽出することはできないと思います。

「磁力線を分離することで、ぬいぐるみの各部位の位置を推定できる」とありますが、含有強度から位置へ変換するプロセスに関する記述が見受けられませんでした。

NMFに基づく手法とありますが、どの部分でどのように行列が構成され、行列分解が行われたのか分かりませんでした。また確率モデルをベースとしたとありますがどのような確率モデルをどの部分で使用したのか分かりませんでした。


採録判定会議後の追加コメント:

上記の通り手法の妥当性や記述の正確性、手法の仮定や制約などに疑問が残るものの、インタラクションという観点からは非常に興味深いと思います。カメラレディ原稿や発表では上述の点ができる限り明確になることを期待します。