論文一覧に戻る

査読者 1

総合点

5

確信度

1

コメント

[新規性]
複数の手書き文字から平均化された文字を生成する手法は[3]やWISS2016の「Mojivator:手書き文字の自動融合により書きたくなる練習支援システム」で既に提案されていることから、平均化の対象が自身の過去の手書き文字か他者の手書き文字かを選べるようにした手法を提案している点には十分な新規性はないと判断しました。調合率をスライダで指定できるようにした点、手書き文字から融合後の手書き文字へとアニメーションで変化させるようにした点だけでは新規性は低いと判断しました。

[有用性・正確性]
融合した手書き文字がユーザに好まれることは過去の研究[3][4]で示されており、そうした知見を元にして過去の自分や他人との平均文字を生成すること自体の有用性は高いと判断しました。また、提案システムを100人規模で使用してもらい、アンケートの結果からシステムの有用性を示している点を高く評価します。
一方で、特に自分のためにメモやノートを書く状況において、実際にシステムを使用するモチベーションについては議論が不十分であると感じました。「本手法により,文字を書くことに自信のない人でも手書きでノートやメモを積極的にとるようになると期待される.」という記述がありますが、論理に飛躍があるように思います。というのは、字が綺麗であってもなくても、必要であればメモやノートはとるはずであり、字が綺麗になったから沢山書く、というのは自明ではないためです。むしろ、自分の過去のメモやノートを見返したときに見やすくなるから、自分のためのメモ書きであっても綺麗に書けることが重要である、という説明の方が説得力があるように思います。
他人に見せる文字を綺麗に書きたい、というのはモチベーションとしては十分説得力がありますが、利用シーンの議論が不十分であると感じました。お礼状など他人に見せる文字は紙で書くことがまだまだ多いというのが現状であるため、提案システムが活かされる状況を明確にすることを望みます。いずれは電子端末に文字を書いてやり取りされることが普通になる社会の到来が予想されるため、将来的な活用を見据えての提案であれば、読者にそのように読み取ってもらうことを期待するのではなく、明示的に記述すべきです。

[論文自体の記述の質]
2章、5章、6章、7章の見出しの左にスペースが挿入されており、その他の章との統一がなされていない点を除き、全体を通して分かりやすく明確に書かれており、高く評価します。

以上のことから、どういう状況で、何のために、どのように使用するかの議論は十分では無いものの、プロトタイプを作り込んでいる点、大規模なユーザスタディを実施した点、論文の記述の質を評価し、「5: ショート採録が妥当」と判断しました。

以下は論文改善のためのコメントです。評価のうえではマイナスにはしていません。

1. 融合の対象が過去の自分の文字であっても他人の文字であっても、提案システムでは手法の性質上、現在書いている文字が過去に書かれていないと融合できないという制約があると読み取れます。現時点でこの問題を解決できている必要はないですが、大きな制約であると言えるので、現在のシステムの限界点として本文中で明記することをおすすめします。具体的な解決案があれば、「今後の課題」に含める形で記述するのも良いかと思います。

2. 図3中のスライダがどこにあるか分かりづらいため、図中で吹き出し等を用いるとスライダがあることが分かりやすくなるかと思います。また、図の上部にある各アイコンについても、吹き出し等で説明を加えると読者の理解を促進できるかと思います。

採録判定時のコメント

過去の自分や他人との平均文字が好まれるという、筆者らの従来の研究結果に基づいたメモシステムの提案。実際にプロトタイプを作っている点や、数百人規模でのユーザスタディを行った点が評価された。一方で、手法自体の技術的差分は限定的であり、提案システムが有効である利用シーンの具体的な記述も不十分なことから、ショート採録と判断された。

レビューサマリ

平均文字が好まれることは過去の研究で示されていますが、実際にシステムを利用するシーンやモチベーションの議論が不十分であったことが響き、ショート採録という判断になりました。必ずしも現時点で実現できるものではなくても良いので、提案システムが有効に働く例を具体的に(誰が・何のために・どのように使用するのかなどの観点から)記述することで、提案システムの有用性がより理解されると思われます。

カメラレディの作成にあたっては、WISS2016の「Mojivator:手書き文字の自動融合により書きたくなる練習支援システム」を引用し、本研究との差異を記述することを推奨します。

その他コメント

WISSでの口頭発表時に、聴衆から「去年も同じような発表を聞いたなあ」と思われる可能性は高いと思うのですが、そのように思われっぱなしなのは非常にもったいないので、発表中に一言で良いので、昨年の発表との違いを明確に伝えることをおすすめします。
発表中にその点に触れなくても、質疑で聞かれる可能性はありますが、質疑ではより本質的な議論ができた方が良いと思うので、上記のようにコメントしました。

査読者 2

総合点

確信度

コメント

査読者 3

総合点

8

確信度

1

コメント

発想も実装も実用性も優れていると思います。字の整形の部分に関して、どのように整形されていくのかが図示されているとさらにわかりやすいと思います。
「メモで綺麗な字を書きたい」と思っている人がどれぐらいいるのでしょうか。また、文字以外の記号を混ぜたテキストを手書きする場合はどうなるのでしょうか? モード切り替えが必要なら利用をためらうような気がします。

査読者 4

総合点

4

確信度

2

コメント

提案システムを利用する場面が想像できません.手書き文字の必要性を1章で述べていますが,手書きのほうが良い場面と手書きではないほうが良い場面があると思います.また,文字を書く場合と文字以外を書く場合があり,手書きの自由度の高さは文字以外を書く場合に発揮されるように思われます.それらの点が区別されずに「手書きは重要である」として話を進めており,かつ研究の対象が文字であるため,いささか疑問を感じます.加えて,手書き文字の「美しさ」の観点でも話が進められており,文字を他人に見せる環境を想定されているように思いますが,例えば冠婚葬祭でアナログで記帳する場面が想像されますが,コンピュータを介する場面が想像できません.

「コンピュータ」で「手書き」で「文字」を入力することが有用である場面を明確にしてください.本研究は新しいシステムを提案するものであるため,想定環境を著者と読者で明確に共有する必要があります.