■ 論文ID: 49 ■ タイトル: 個人的な小さな幸せを実現するブラウザ上での動画編集・共有手法 ■ 著者: 中村聡史(明治大),石川直樹(農工大),渡邊恵太(明治大) ------------------------------------------------------------------ レビューサマリ ------------------------------------------------------------------ Web上の動画コンテンツに対するちょっとした編集を共有するというアイディアは,2人の査読者には高く評価されています.しかし,もう一人の査読者の指摘にありますように,オリジナルのコンテンツは触らずに,追加の編集を行うというアイディアそのものは,すでに多くのシステムが存在しているようです.本論文の新規性は,それをYoutubeやニコニコ動画という投稿サイト上の映像を対象にした点にあると思います.逆に「ちょっとした編集を共有」という部分の新規性は,ほとんどないものと思われます. また,2人の査読者には,その実装形式に対する学術的価値に疑問が生じています.一人の査読者は,実装方式について説明が全くない点を問題視しております.もう一人の査読者は,提案システムが標準化技術の上で実装されたものではないため,その学術的価値の低さを指摘しております.固有のアプリケーションやサービス上で実現したから不採録になるわけではありませんが,追加的な編集ができるというアイディアそのものが高い新規性を持つわけではないため,学術的価値をもたせるには,それが普遍的に実現できる方式やフレームワークを提案しなければならないと思います. 上記の議論から,学術分野の論文としては採録は難しいと思います. しかし,一方無視できない本論文の貢献としては,Youtubeとニコニコ動画という,最も人気のある二大動画サイトを対象としてアプリケーションを実装した点にあります.現在,両サービスにおいては,このようなちょっとした編集を共有するような仕組みはありません.N次創作に係わりたくても,自分のスキルが高くないために諦めているような潜在的ユーザも多いと思われるため,提案するアプリケーションがサービスインされれば,その社会的インパクトは小さくはないように思います. メタ査読者としては,現時点での学術的価値は大きくはないものの,二大動画サイトに対して実装済みであることから産業界からの興味は大きいと思われること,このような仕組みができた時に何ができるかはWISS参加者にも興味を持って議論してもらえそうなこと,そしてそれがサービスインされた時の社会的インパクトの大きさを考慮して,採録と判断したいと思います. ------------------------------------------------------------------ reviewer 1 ------------------------------------------------------------------ ■ 総合点: 3 ■ 確信度: 3 ■ 査読コメント: 本論文の貢献は,軽い動画編集を元の動画ファイルを上書きすることなくアドホックに実現することを提案したアイディアそのものにあると思います. Webの出現以降,このようなアドホックな仕組みは数多く提案されてきました.例えば,Webページ中のコンテンツに対してアノテーションを付けるような仕組みであるとか,Webページ中のコンテンツに対する操作を録画するような仕組みであるとか,その操作を共有するような仕組みです.これらは,W3Cが策定する標準化技術を使って実現されてきました.例えば以下の研究が代表的です. [1] Creating Web−based Presentations by Demonstration, Yoshinori Aoki , Fumio Ando , Amane Nakajima, 情報処理学会論文誌,42(2),155−165 (2001−02−15) , 1882−7764 [2] Building a Collaborative Web Environment for Supporting End Users, Yoshinori Aoki, 情報処理学会論文誌,43(2),530−542 (2002−02−15) , 1882−7764 本論文は,動画共有サービスである,YouTubeとニコニコ動画の上で,上記のアイディアを実現しています.本論文の技術的貢献を考えるうえで重要なのは,本論文で実現したことは,果たして普遍的であるかどうかということです.すなわち,上記の動画共有サービス以外の動画共有サービスにおいても,ほとんどプログラムコードを変更することなく,本システムを動作させることができるのでしょうか?また,音量の変化やスキップは,動画共有サービスでなくても,音楽試聴サービスでも実現できると思いますが,そのようなサービスにもプログラムコードを変更することなく,適用できるのでしょうか?本論文は,この点において上記のような研究と決定的に異なります. ただし,軽い動画編集を元の動画ファイルを上書きすることなくアドホックに実現するというアイディアそのものは,評価したいと思います.このようなサービスは現在,存在しておらず,なおかつその有用性はあると考えております.また,2つのメジャーな動画共有サイトと実現したということも高く評価したいと思います.ただ,それが学術的に価値のあることなのか?ということについては,疑問に思います.産業的には,上記のアイディアにいは価値があると思います. 上記の点から本論文は,強く採録を推すものではありません. ------------------------------------------------------------------ reviewer 2 ------------------------------------------------------------------ ■ 総合点: 2 ■ 確信度: 1 ■ 査読コメント: 動画共有サイトにおけるN次創作活動をより活性化するために,ウェブブラウザの試聴画面内での簡易編集機能を提案しています. 提案されたシステムは,音量制御,映像のリニア編集,メディアの追加,差分的編集,簡単な版管理の機能をウェブアプリケーションとして実装したものです.画像や映像の差分的編集はAdobe Lightroom, Apple Aperture などのデスクトップアプリケーションでは標準的な機能となりつつあります.また,一方,ウェブ上ではプログラミングメディアになりますが Scratch がN次創作を前提としたCreative Commons 表示−継承ライセンスに基づいてリミックスを許し,エコシステムを確立しています.Viscuit も同様だったような記憶がありますが,現時点で確認できませんでした.これらの意味で新規性は弱いと思います. 内容の正確性については,実装方式がまったく語られていないこと,ニコニコ動画においてリミックス需要についての根拠としたコメントの引用に疑わしい点があること,著作権に関わる議論が杜撰な点などから不正確と判断いたしました. システムの評価については,そもそもこのようなシステムのニーズがあるのか,またこのような機能を求める人々にとって十分な機能を提供しているのかという点が十分に明らかになっていないように思います. 以上を総合して採択の基準に達していないものと判断いたしました. 論文中に著作権について,技術的に可能となることをもって,法的問題がクリアーとなっているかのような議論が展開されています.論文が採択された場合には,法的根拠を示す精緻な議論を展開するか,著作権についてのグレーな記述を削除することを求めます. p.2−R: ここに掲載されているコメントは,本当にCSM上のコメントをそのまま引用したものなのでしょうか.妙にお行儀がよく,現場の迫力を感じさせず,むしろ,研究室内で作られたようなコメントが並んでいます.たとえば,いずれのコメントも「したい.」で終わる点など文体に個性がまったく見受けられません.わたしの認識違いであったらお詫びしますが,そうでないなら,オリジナルのコメントをそのまま掲載して下さい. p. 5−L: 「ダウンロードすることが著作権的に問題のあるような動画コンテンツ」と認識した時点で,視聴者はその著作物の二次的利用が違法であることを認識していると思われます.複製権を認めずに,二次利用を認めることは常識的に考えられませんので.この記述を残したまま採択してしまうと,本ワークショップの違法性が問われかねないと思います. システムの実装方式についても説明して下さい. タイトルに含まれる「個人的な小さな幸せ」について本文中で言及がありません.個人的な幸せが実現できたのか否かについての評価が求められます. typo: p.1−R: オリジアンル ------------------------------------------------------------------ reviewer 3 ------------------------------------------------------------------ ■ 総合点: 4 ■ 確信度: 1 ■ 査読コメント: web上の動画コンテンツに対するちょっとした編集を共有するというシステムはありそうでなかった物かと思います.動画共有の一つの形として有用な提案だと思います. 一方で現在までに実現しているシステムの完成度は(ビデオで拝見する限り)必ずしも高くなく,これは使いたい!というレベルでは無いようにも思われます.さらなる改善を期待したいと思います. p1「オリジアンル」⇒「オリジナル」 p2で出てくる「超個人化」という言葉の定義が不明です.