MagNail:爪装着型磁石を用いたモバイル端末インタラクション

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review comment 1
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■ 総合点
4
■ 確信度
3
■ 査読コメント
まず始めに、WISSの投稿規定(査読方針:http://www.wiss.org/WISS2014/review_policy.html )に書かれているように、国際学会発表予定があるものはその元論文を引用してください。投稿時にはまだ発表されていなかったと思いますが、発表が決まっているのであれば、引用するべきかと思います。

MagNail: Augmenting Nails with a Magnet to Detect User Actions using a Smart Device
Azusa Kadomura, Itiro Siio

本論文は小型ネオジム磁石を爪に取り付けるだけで、磁気センサ内蔵の小型デバイス(スマートフォンなど)のインタフェースとして利用でき、かつ手の形(正確には、手の形が変化することによる、ネオジム磁石の位置変化)を認識することで、機能を変化させることができることを確認した研究の報告です。

これまでにも磁石と磁気センサ内蔵の小型デバイスを利用したインタフェースは研究がされてきていますが(例えば、[A]の論文は参照されていませんが、関連すると思います)、爪に付けるというアイデアは新規性があり、またインタラクション手法としても新しいものであると思います。総じて、論文についても(わかりにくい部分は多々ありますが)良く書けており、十分に採録に足るものであると思います。

[A] Sungjae Hwang, Andrea Bianchi, Myungwook Ahn, and Kwangyun Wohn. 2013. MagPen: magnetically driven pen interactions on and around conventional smartphones. In Proceedings of the 15th international conference on Human-computer interaction with mobile devices and services (MobileHCI '13). ACM, New York, NY, USA, 412-415. DOI=10.1145/2493190.2493194 http://doi.acm.org/10.1145/2493190.2493194

以下は、論文を良くするためのコメントです:
- pg2. 「2 マグネイル」は「2 マグネイルの設計」とか具体的に書いた方が良いです。

- pg2. 図3で示されたインタラクション手法の選び方が、現状では不明であり、もしくは恣意的な印象があります。研究手法としては、この段階で何らかの発見的手法によって選択されるべきかと思います。

- pg3. 「そこで,図 4 の通り, スマートフォンの画面領域を 6 つに分割し」に関して、実験方法がアドホックな印象があります。また、結果として何回タッチしたのかが曖昧になっています。明確に示して下さい。

- pg3. 「表 1(左)からは,各画面領域上における 曲げた状態と伸ばした状態では,各 x,y,z 軸の値 ごとに差が生じたことが示された.」それぞれについて50回タッチ操作をしているのでれば、統計的に差を確認するほうが説得力があります。現状では客観性に欠けます。

-pg3. 表1が読みにくいです。まず、これは表ではなく図であると思います。また、x,y,zの値が読み取りにくいです(凡例とグラフ中の色が異なるので、直感的ではありません)。それぞれの領域の間に棒線で良いので区切りが欲しいです。

-pg4. 指の状態検出について、磁気方向のベクトルg1,g2はどの段階で得られるのでしょうか。「タッチしたときに、マグネイルで生じる磁気方向ベクトル」がg1,g2のようですが、ということはg1=g2ということでしょうか。総じて、3.1.1と3.1.2の説明がわかりにくいです。

関連して、マグネイルのスマートフォン上での実装方法がわかりません。何かしらの機械学習的な手法を利用したのでしょうか?絵を描くアプリの例が混乱するのですが、画面を6分割し、それぞれの領域における磁気センサの値を求める基礎実験をしていましたが、これをどう応用すると絵を描くアプリが作れるのでしょうか。現状では、基礎実験と応用アプリの繋がりが曖昧でわかりにくく、読みにくいです。

- pg8. 「ウェアラブルコンピューティングは,成長の期待 値が高い分野であり」から始まる段落に関して、特に内容がないので、これについて言及するよりは、本手法のリミテーションを追加したほうが良いです。また、空いたスペースを利用して、実装方法について詳しく説明してください。
■ レビューサマリー
査読者同士の議論の結果、本論文は不採録が妥当であると判断しました。

この論文に対しては査読者の意見が割れていて、判断が難しいものでした。ネガティブな意見としては、主として「新規性が足りない」「一般性がない」「磁石を利用したインタフェースの危険性について議論がない」ということですが、一方でポジティブな意見としては「新しいインタラクションスタイルを提案している」「磁石一つで手の状態を推定することができていることは新規性がある」ということで真っ向から意見が対立しています。

私はメタ査読者であり、査読者でもありますが、査読者として4点を付けたので、2点を付けた他の査読者に説得を試みましたが、現状の論文からは彼らを十分に説得できるだけの材料がなく、よって結論として不採録となりました。

今回は不採録となりましたが、将来性のある研究であると思いますので、査読者の意見も考慮した上で、研究をお進め頂き、再投稿を期待しています。

==== PC委員会後のコメント ====
本論文はPC委員会で議論され、結論としてはショートでの採録となりました。

採録されましたが、現状としては査読者が指摘しているように問題点は多くあると思います。カメラレディではしっかりと修正した上で、WISS当日の発表でも問題点の解決策等を示してください。



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review comment 2
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■ 総合点
2
■ 確信度
3
■ 査読コメント
磁気センサ(スマートホン内蔵、あるいは近傍に配置)を用いて磁石もしくは磁性体の位置を検出し、インタラクションに用いる研究は、refer されている MagiTact の他にも数多く行われています(後に掲載)。

例えば MagiTact と提案手法は、どちらもスマートホン内蔵のセンサ (1個) を使っており、違いは磁石の装着位置だけです(指輪やペン先 vs 爪先)。
この場合、得られるデータの精度はほぼ同じなので、後はアプリケーションの違いだけになります。
論文で言及されている2種類のアプリケーション(描画時の鉛筆-消しゴムの切り替え、及び左右把持手の検出によるメニュー切り替え)には、若干の新規性はあるものの、同様の昨日は他の検出機構(例:スマートホン側面に設置した光学センサやタッチセンサ)によって既に実現されています。実現手法の違いによる操作性の向上も定量的に示されておらず、フルペーパとして独立できるほどではありません(デモが相当)。

なお、爪先に強力なネオジム磁石を埋め込んで日常生活を送ることは、クレジットカードや磁気切符などに深刻なダメージを与える危険性があります。特に指先はモノを把持する時に最も近い位置となるので、指輪やスタイラスに比べ危険性が高まります。
論文末尾に「ファッション性を持ったウェアラブルコンピューティングの未来を切り開くために,今後もボディアタッチコンピューティング,ならびにマグネイルの可能性を追求していきたい」と書かれていますが、爪先に磁石が埋め込まれた機器の氾濫は、情報社会に対するテロ行為にもなりかねないので、進め方には注意して頂きたいと思います。

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参考(磁石+スマートホン の例):

山本 涼太,宮下 芳明,磁気センシングに基づくスマートフォン近辺でのイヤホン位置推定と非接触入力デバイスとしての活用,WISS2012, 第20回インタラクティブシステムとソフトウェアに関するワークショップ論文集,2012.

Pham Thanh Son; 田中二郎; 高橋 伸, 磁気センサ配列を利用したイヤホンインタラクション, WISS2012, 第20回インタラクティブシステムとソフトウェアに関するワークショップ論文集,2012.

Pham Thanh Son; 高橋 伸; 田中二郎, G-Shark: 磁石を利用した携帯端末3次元入力インタフェース, インタラクション2013

Rong-Hao Liang, Kai-Yin Cheng, Chao-Huai Su, Chien-Ting Weng, Bing-Yu Chen, De-Nian Yang, GaussSense: Attachable Stylus Sensing Using Magnetic Sensor Grid, ACM UIST 2012, pp.319--326, MA, USA.



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■ 総合点
2
■ 確信度
3
■ 査読コメント
爪に装着された磁石の磁力をスマートフォンの磁気センサでセンシングすることにより、タッチする手の状態や把持しているほうの手を認識する手法を提案しています。スマートフォンの磁気センサを使って磁性体を近づけたときの変化を検出してインタラクションに役立てるというアイデアそのものは既にありましたが、ネイルというウェアラブルな特性に着目し、手の状態認識に使うという点については新規性が認められます。

論文に示されている実験内容が特定機種での検証に限られており、一般性に欠けるため、アルゴリズムや実験データについての有用性は高いとは言い難いです。

提案内容を再現・応用可能な一般性のある情報にするためには、センサの計測範囲に対して地磁気はどの程度の割合を占めているのかということや、磁石の距離とセンサ値の関係などの特性について明らかにし、提案するインタラクションが成り立つためのセンサ配置の条件などについて検証することが必要だと考えます。

[追加の参考文献]

山本 涼太,宮下 芳明,イヤホンを用いたスマートフォンの操作と個人認証,インタラクション2013論文集, pp.626-656, 2013.

Rong-Hao Liang, Chao-Huai Su, Chien-Ting Weng, Kai-Yin Cheng, Bing-Yu Chen, and De-Nian Yang. 2012. GaussBrush: Drawing with Magnetic Stylus. In SIGGRAPH Asia 2012 Emerging Technologies (SA '12). ACM, New York, NY, USA, , Article 11 , 2 pages. DOI=10.1145/2407707.2407718 http://doi.acm.org/10.1145/2407707.2407718