論文一覧に戻る

査読者 1

総合点

7

確信度

3

コメント

下顎運動を検出するイヤホン型の入力デバイスを提案しています.
著者らが述べているように,イヤホン型(外耳装着型)の入力デバイスはこれまでにもありましたが,提案手法は外耳道内の気圧変化を検出する点に新規性があります.
まだ予備実験という段階であるものの,評価実験の結果やデモビデオから,期待通りに動作することがわかります.
興味深い手法の提案であり高く評価しますが,以下に示す点を改善すれば論文の品質が向上すると考えます.また,以下の点は採録された場合の発表内容に対するリクエストでもあります.
・インタラクションという観点から見ると,"みみスイッチ"[21]とほぼ同等であるように見えます(技術的に異なっていることは理解しています)."みみスイッチ"と比較して,どのような点で優れているのか/劣っているのかを検討してみてください.
・記述内容が不足していたり,読みにくい部分が散見されます.
 ・フレームという単語を使用していますが,サンプリング周波数が記述されていないので,どの程度の時間間隔なのか把握できません.
 ・図4,5で,"口を開ける"というのは,途中まで閉じていてある時刻から開け続けることを指しているのか,開け続けるのではなく再び閉じるのかのどちらであるのかわかりません.前者だろうと予測していますが,そうであるならば,気圧が元に戻ってしまう理由を考察するとなお良いと思います.
 ・学習フェーズと分類フェーズの分け方がうまく理解できませんでした.学習フェーズでは,機械学習の学習ではなく特徴量抽出だけ行っているように見えます.
 ・認識を行っている16フレームは,オーバーラップさせているのか,させていないのかも明記すべきです.
 ・実験時に,同一日内のデータだけを用いて学習と認識を回したのか理由も明記してください.異なる日のデータで学習を行うと認識率に影響があるのか,ないのかは手法の有用性を評価する上で重要です.
 ・式(1)の意味がよく理解できません.この式だと,F(4,8)=(g9-g4)/4となり,サンプリング周波数を落とすのと等価になるように思えます.
 ・音なし条件と音あり条件で,"音による認識率への影響はないと考えられる"と書かれていますが,これだけ小さな結果から"影響がない"と結論づけるのはかなり雑な印象を受けます."今回の結果からは影響が見られなかった"とでもした方がよい気がします.
 ・図が分かりづらいです.図4,5は横軸が共通なのであれば,両者を比較できるように見せてください(図を左右ではなく上下に配置するだとか,1つの図にまとめてしまうだとか).図6は日と音の2つの変数を簡単に比較できるようにしてください(例えば,日は同じ色で,音の有無を線種やシンボルで変えるだとか)

採録判定時のコメント

イヤホン型デバイスで外耳道内の気圧変化を検出し、下顎運動を認識するというアイデアには新規性があり、大変興味深い。製作したプロトタイプも期待通りに動作しており、音楽プレーヤの操作が可能であることが示されているなど、ロング採録にふさわしいと判断されました。一方で、被験者が1名のみであるなど不十分な点が何点かあるため、さらなる検証を期待します。

レビューサマリ

全体の構成: イヤホン型デバイスに内蔵した気圧センサで検出した外耳道内の気圧変化から下顎運動を認識し、ハンズフリーかつアイズフリーな入力操作を行う手法を提案している。提案手法には新規性・有用性が認められ、研究背景・関連研究・提案手法の原理・実装・実験・アプリケーションが概ね適切に記述されている。また、プロトタイプもきちんと製作されていることが確認できる。 改良に向けたコメント等: ・被験者の数が1名のみと少ない。予備実験という段階であることは理解するものの、本論文の主張をより強固にするために、さらなる検証を強く希望する。 ・環境側の気圧変化の影響や、下顎運動を伴わない外耳道内の気圧変化(例:耳抜き動作)、誤動作(例えば運動・咀嚼・嚥下時等)についての実験や考察の充実が望まれる。 ・不明瞭な文章や図の記述が散見される(詳細は査読コメント参照)ので、投稿前の推敲をしっかりと行って欲しい。

その他コメント

査読者 2

総合点

8

確信度

2

コメント

本論文は,両耳気圧変化を利用した,下顎運動認識システムの提案とその応用に関すして書かれています.著者は気圧センサ内蔵のイヤホンを作成し,そこから得られる気圧変化情報に基づいて,下顎の上下・左右運動を識別可能なシステムを開発しました.その応用例として,音楽プレイヤのコントローラを開発.また,幾つかの応用例を提案しています.

評点の根拠:
研究の新規性・有用性,記述については大きな問題もとくに見当たらず,ロングペーパーに相応しいレベルになっていると評価します.
一方で,特に気圧を使うことの難しさとその対応に関して,より詳細な考察があるとよかったのではないかと考えます.例えば周囲の気圧変動の影響とその対応,飲食動作の影響の有無,下顎動作を伴わない耳抜きなど,入力を意図した動作とそれ以外の動作の識別方法,といった点は気になります.とくに周囲気圧に関しては,台風の影響で認識率が低下したという記述もありますし,適切な考察,対応方法の提案が求められると考えます.

論文改善のためのコメント、疑問:
査読結果には影響しませんが,やはり認識実験の被験者が著者のみ1名というのは少なく,発表までにデータの追加が行われることを期待します.

査読者 3

総合点

8

確信度

2

コメント

 本研究は、イヤホン内に内蔵された気圧センサによって、口の開閉や顎を左右に動かすといった下顎運動するシステムの提案です。一般のイヤホンでも実装可能で、音を出した状態でも運動を認識可能(であると思われる)という点が魅力的です。本当に高い精度を有しているのであれば、非常に実用性・普及可能性の高いシステムであると言えます。

 全体を通して詳細かつわかりやすい文章と図で説明されています。認識精度の検証のための実験は被験者が著者1名のみなので、さらなる検証を期待します。議論において、現状で考えられる可能性について熟考されている点は良いです。

●参考:ハンズフリーな操作に関する研究
・谷口ら, こめかみスイッチ:瞬きパチパチでスイッチカチカチな常時装用入力装置, インタラクション2008
・中村ら, F.A.R. Vision :拡張現実感の情報量を制御する眉間フェーダー, インタラクション2010
・ソニー、スマホを声やうなずきで操作できるイヤホン型の「Xperia Ear」
 http://news.mynavi.jp/news/2016/09/02/459/