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査読者 1

総合点

5

確信度

3

コメント

幾何図形の正確な模写を練習するために、図形の特徴を捉えやすい線を描いてから不要な線を消すという描画スタイルを提案し、それを支援するシステムを実装して評価を行った研究である。同内容のIECE 2017での発表が確定している6ページの論文である。

模写能力の育成というゴールをどう評価するかにあいまいな点が残り、模写能力の応用例として挙げられている絵描き歌が応用になっていないようにも見える(少なくとも説明が不足している)ので、ロング採録は難しいと考える。消去指向型描画スタイルそのものは面白いので、その周囲のロジックをしっかり書いてほしかった。

一番の問題は、言葉の定義が曖昧で、前提条件があやふやになっていることにあると思う。本論文では「模写」は「(1) 記号的な図形形状を (2) なるべく同じ形で写し取ること」を指しているようだが、そのような定義が最後まで出てこない。

絵描き歌への応用を提案しているが、絵描き歌は言葉によって図形を意味論的に説明していくものなので、提案手法の(1)はマッチするが(2)との相性がよくないように思える。絵描き歌では、描かれる丸の大きさなどは曖昧でよい一方で、描かれる線同士のトポロジなどが保持されやすいように工夫なっているのではないだろうか。

提案手法は記号的な図形形状のみに適用されており、描き方(プロセス)でなく描かれた形状の一致度(結果)によって評価を行っている。「はじめに」で絵画やイラストの描き方を学習する話に触れているが、これはいずれも有機的な形状(≠記号的な図形形状)を描くプロセス(結果)を真似るもので、提案手法との接続が不明瞭である。

消去指向型描画スタイルをもう少し一般化していくと、空間領域構成法(Constructive Solid Geometry)のようなコンピュータのためのモデリング技法を人の練習法に活かす、つまりアルゴリズム体操のように人の動作を手順化することで、個人差のない綺麗な図形が描けるというような話になるのではないだろうか。今後の研究の進展に期待している。

その他細かい指摘は以下の通り。
- 「概要」は1パラグラフにするのが一般的と思われる。
- p.3 「4.3.1 距離」手本に置いた基準点はどう決めたのか?汎用的な手法はないのか?議論すべきである。

採録判定時のコメント

イラストの練習(模写)を目的に、図形の特徴を捉えやすい線を一旦描いてから不要な線を消すという描画スタイルの提案。描画スタイル自体は興味深く、システム実装と評価も一通り行われている。一方、何をもって「模写能力が育った」と見なすのかのゴールがはっきりしておらず、「絵描き歌」が適切な応用例である理由もロジカルに説明されていないなど、論文としての完成度に疑問があり、条件付のショート採録と判断された(採録条件はレビューサマリに記載)。※修正版の再査読の結果、条件を満たしていると判断され、採録となった。

レビューサマリ

本論文が提案する消去指向型描画スタイルについては査読者全員が好意的に評価しており、予備実験の内容と結果も評価されている。しかしながら、模写能力の向上を目指すというゴールをより詳細に定義し、応用例などもそれに対応するかたちでなぜ適切な応用例と言えるのかロジカルに説明してほしい。

採録の条件は以下3点とするが、その他のコメントも可能な限り反映してカメラレディ原稿として投稿してほしい。

"本論文では「模写」は「(1) 記号的な図形形状を (2) なるべく同じ形で写し取ること」を指しているようだが、そのような定義が最後まで出てこない。" - review 133

→本論文における模写能力の育成が何を指しているのか(何であって、何でないのか)イントロなどではっきり明記してください。

"絵描き歌への応用を提案しているが、絵描き歌は言葉によって図形を意味論的に説明していくものなので、提案手法の(1)はマッチするが(2)との相性がよくないように思える。" - review 133

"5節の冒頭で絵描き歌の効用に関する議論がなされているようにも見えますが,模写能力を育成するという観点には立っていないと思います." - review 48

→絵描き歌と提案手法の関係を明らかにしてください。うまく接続できないと判断される場合は絵描き歌に関する記述を削っても構いません。(それ以外の部分でショート採録相当と判断されているため、削ることで不採録になることはありません。)

"5.3節の冒頭に「本研究では,提案システムから与えられる情報から,学習者が自ら改善点に気づくことを重要としている」とありますが,これ以前にこのようなことは書かれていないと思います.本当に重要と考えているのであれば,論文の早い段階で明記すべきです." - review 48

→このようなデザイン指針をシステムの説明の前に箇条書きに近い形でまとめてください。

--- 以下、修正版に対するレビューサマリ ---

本論文が提案する消去指向型描画スタイルについては査読者全員が好意的に評価している。予備実験では、この手法によって狭義の模写(記号的な図形をなるべく同じ形状で写し取る)を安定して行えることを示しているが、課題イラストと被験者による模写の形状一致度を計算する手法には不安が残る。

なお、予備実験により、提案手法が模写にかかる手順を増やしてしまう問題が明らかになっており、本論文はさらに絵描き歌で手順を覚えやすくするという解決策を提案して、応用システムとして実装している。このように模写能力の向上という目的に対し反復的に手法を改善するアプローチ自体は評価できる。

一方で、必ずしも同じ形状で写し取る狭義の模写を目的としない(むしろトポロジ的な一致だけを重視する)絵描き歌と提案手法は本質的に相容れない点があり、この齟齬がもとで新たな問題が生じている。したがって、本論文は、綺麗な問題解決というより、試行錯誤の結果報告として読まれるべき内容となっている。

なお、元原稿にあった[9]が抜けていたり、日本語が読みづらくなってしまっている箇所が散見されるため、改めて原稿全体を読み直し、表現を修正して完成稿を投稿していただきたい。

例:p.1
「消去指向型描画スタイルの提案を目的とする.本研究では」
→
「消去指向型描画スタイルを提案する.なお,本研究では」

その他コメント

査読者 2

総合点

5

確信度

2

コメント

本論文は,簡単なイラストを模写する能力の育成を目的として,単純な幾何図
形を組み合わせ,不要な部分を消去するという消去指向型描画スタイルを提案
しています.

本論文が提案する消去指向型描画スタイルは面白いと思いますし,その有効性
を評価するために行った予備実験の内容と結果に関しても異存はありません.

しかし,消去指向型描画スタイルの応用例として5節で提示されている絵描き
歌システムには違和感を覚えました.本研究の目的はイラストの模写能力を育
成することであり,絵描き歌の絵をうまく描けるようになることではなかった
はずです.イラストの模写能力を育成するという意味では,様々なイラストを
消去指向型描画スタイルによって描けるようになることを支援するシステムを
提示すべきではないでしょうか.

5節の冒頭で絵描き歌の効用に関する議論がなされているようにも見えます
が,模写能力を育成するという観点には立っていないと思います.先行研究を
引用して議論したいのであれば,絵描き歌によって模写能力が育成されたとい
う内容の文献を見つけるべきです.

また,5.3節の冒頭に「本研究では,提案システムから与えられる情報から,
学習者が自ら改善点に気づくことを重要としている」とありますが,これ以前
にこのようなことは書かれていないと思います.本当に重要と考えているので
あれば,論文の早い段階で明記すべきです.

以下は詳細に関するコメントです.

- 2節で「Murakami et al」とありますが,「et al」ではなく,「et al.」で
  す.より細かいことを言えば,この論文の著者は2名のようですが,2名の場
  合には通常「et al.」を使いません.

- 2節の第3段落に「山田ら[5]」で始まる文が2つありますが,意図の通りで
  しょうか.

- 謝辞で「科研究」とありますが,「科研費」だと思います.

- 参考文献の書き方を統一すべきです.特に英文での著者の表現や,著者の並
  びでのコンマとピリオドの使い方,国際会議プロシーディングスの表現,
  ページ範囲を表現するダッシュ記号が一定していません.

- 文献[9]のタイトルにおける「教員養成機関における実践事例から」の前後
  は,ハイフンでなくダッシュにすべきです.

以上です.

査読者 3

総合点

5

確信度

2

コメント

本論文はイラスト等模写において、単純な形状の組みあわせとその一部の削除によって,形状の把握と実際の描画を支援するシステムの構築と評価を行っています.

単純な図形の結合や切り出しによって任意の図形を作成する手法はそこまで新規ではない(powerpoint等にも搭載されている)ですが,消去指向型の組み合わせを提案し,階段形状のように単純な2図形の組み合わせからはできないもの,線重視の形状への応用が行えるようにした点は高く評価できると考えられます.
また,システムの基礎評価とともに応用例も提示しています.「絵描き歌のメタファー」としつつも音楽は付与しないのは少し残念ですが,評価機能において合わせの基準となるパーツ位置を変更できる機能は,パーツ同士のサイズや配置の関係を考えるために非常に効果的な手法だと考えられます.
しいて言えば,組み合わせる図形の選択や、その位置関係をどのようにユーザが設定していくのかという点については,まだ検証の余地があると考えられますので.これらの点について,会場での実例を踏まえた議論を期待しています.

コメント
著者らは模写能力を育成するための手法として提案していますが,単純な図形の組み合わせによる形状把握能力は,模写に限らず絵画全般の上達に関与していると考えられます.
(例えば顔を書くときには、丸を上、四角を下で多少重なるように配置し、顎部を少し削除することで、あたりを付ける、という方法が紹介されています.https://sensei.pixiv.net/ja/lesson/2)
そのため,タイトルとしては模写能力~に代えて描画形状把握のための、とすることを勧めます.