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査読者 1

総合点

5

確信度

3

採否理由

本研究では、クラフトバンド工作に特化したデザイン支援システムを実装し、このシステムを用いてデザインした作例をいくつか提示しています。このシステムは初心者を対象に設計されており、直方体または円筒に対応しています。本研究の貢献は、クラフトバンド工作という題材を扱った初めての研究であるため、そのような特殊なドメインに対してどのような制約を考慮してシステム実装をする必要があるか、どのようなシステム設計指針を持つことが妥当かの議論を示している点にあります。

考慮された制約とは、例えば本数の偶奇を考慮すること、曲率の範囲を制限すること、見栄えと強度の観点からバンドの間隔を選択することなどです。システム設計指針の議論とは、例えば既存の書籍やキットの調査に基づき対応すべき形状を選択したこと、ユーザを想定して編み方を選択したことなどです。これらは一定の貢献であると認められます。ただし、制約や設計指針の議論はやや曖昧な記述が多く(何点の作品のうち何割程度が直方体を基準としていたものだったのか、例外はどの程度あるのか、バンドの間隔の選択は本当に妥当なのか、など)、より具体的な根拠が示されていると強い貢献となったと思います。

パイロットスタディの結果、直方体基準のものは目的ありきのデザイン過程が、円筒形基準のものはより探索的なデザイン過程がそれぞれ観察されたということは、知見として面白いと思います。今後システム設計を改良していく際の指針として役立ちそうに思います。

論文の評価としてネガティブな意見を挙げるとすれば、
- 技術的にチャレンジングな問題を解いたようには読めない
- システム設計の根拠が弱く、数あるシステム設計の可能性の一つをまずは実装してみた段階のように思える
などがあると思いますが、それぞれ
- ティッシュケースの取り出し口のようなイレギュラな形状をどうシステムが解決するかに取り組む
- 初心者を対象としたワークショップを通して、初心者が苦労していた点・求めていた機能などをまとめ、それらをもとに更にシステムを改良していく
などを通して将来的にはより良い研究として発展可能かと想像します。

以上の通り、堅実で価値の高い研究へと発展する可能性があり、採択へはポジティブです。一方で、少なくとも投稿時の論文からは多くの後続研究を生むようなインパクトのあるアイデアや知見を示しているようにはあまり読み取れなかった点や、あくまで発展途上である点などを鑑みて、ショート採録が妥当と思います。

この研究をよくするためのコメント

上記の採否理由の欄の通り、
- システム設計指針の根拠を具体的にする
- 技術的にチャレンジングな形状にも取り組む
- ワークショップで得られた知見を元に、更にシステムを改良していく
などによってこの研究はより価値の高い研究へと発展していくと思います。

加えて、次のような可能性も検討してみると良いかもしれません。
- 探索的なデザイン過程において、ユーザの創造性を支援するために、多様なサジェストを提示する機能
- 目的指向のデザイン過程において、大きさのリファレンスとなる物体(手など)または環境(c.f., Situated Modeling [Lau et al. TEI '12])を提示する機能
- 写実的なレンダリングを行い実写との合成を行うことで、事前に利用シーンを想像することを容易にする機能
- 3Dプリントやレーザーカッターなど別のファブリケーション技術と組み合わせて作品制作することを支援する機能

採録判定時のコメント

手芸支援システムの研究はこれまでに提案されてきているが、クラフトバンドを対象にシステム設計と実装を行なった点に新規性が認められる。また、提案システムによって様々な作品が制作可能であることが実際に示されている。その一方で、提案システムを用いない場合の制作における問題点やシステムの対象者の習熟度などに関する議論が弱く、システム設計の根拠や有用性に疑問が残る。また技術的な革新性も弱い。以上を鑑みて、ショート採録が妥当と判断された。

レビューサマリ

査読者からは、本投稿について以下のように長所と短所の両方が指摘された。

[長所]
- 新規性のあるテーマを扱っている。
- コンピュータ上でデザインを試行錯誤する上で提案システムが有用であることが予想される。
- 提案システムによって多様な作品を制作可能であることが実際に示せている。

[短所]
- 現状の制作で問題となっている点が不明瞭であり、今回の提案システムの機能の設計の根拠も不明瞭となってしまっている。
- システムの対象者や習熟度についての議論が弱く、有用性について疑問が残る。
- 技術的な課題が残っている(たわみの考慮、イレギュラな形状への対応など)。
- 提案システムがなければデザインが難しかった例などが示されていない。

これらを鑑みて、ショート採録が妥当と判断された。今後の具体的な展望(どのような設計指針に基づきどのようなシステム改良を行う予定なのかなど)を会議で議論できることを期待する。

なお、手芸支援システムの研究はこれまでにも提案されてきているため本研究の新規性の大きさについての懸念もPC委員間で意見として上がったが、クラフトバンドを利用した紙工作ならではのシステム設計や工夫などが十分にあるため、一定の新規性があると判断された。

その他コメント

採録条件は特にありませんが、査読コメントを参考の上、最終原稿をご用意ください。

査読者 2

総合点

4

確信度

2

採否理由

本論文では、クラフトバンド工作のモデリング支援といった新規性のあるテーマを扱っており、また、独自の3 次元クラフトバンドモデルの生成アルゴリズムや提案ツールを使い多様なクラフトバンド作品が製作可能であることを示している。しかし、論文中ではクラフトバンドは子どもたちに人気があると言及があるものの、提案ツールの対象者や習熟度についての議論がなされておらず、システムの有用性について疑問が残る。また、提案手法では、クラフトバンドのたわみや、弾性を考慮するパラメータがなく、特に大型の作品は、シミュレーション結果と実際のクラフトバンド作品の形状が異なっている点が気になる(図16右上)。

この研究をよくするためのコメント

論文は簡潔で非常に理解しやすかったです。一方で、ツールの対象者や、クラフトバンド製作を行う際に現状問題となっている点を説明していただけると、今回なぜ提案している支援機能が必要なのかが明確になり、本ツールの有用性について理解が深まります。

査読者 3

総合点

6

確信度

2

採否理由

本論文は,クラフトバンド工作を容易にデザインするためのモデリング手法と
インタフェースを提案しています.

実際の工作を始める前に,様々な形状や配色をコンピュータ上で試行錯誤する
ことのできる本インタフェースは有用であると思います.

モデリング手法の構成方法については,妥当であるとは思うものの,素朴な範
囲に留まっているように思いました.実際,直方体形状については,幅,奥行
き,高さからデザインを決めるだけですし,円筒形状についても,基本的には
半径と高さを決め,さらにすぼめたり広げたりできるというものになっていま
す.配色機能も,便利であろうとは思いますが,手法としては特に困難性のあ
るものではないと思います.

これは,クラフトバンド工作という問題設定自体による制約なのかもしれませ
ん.例えば図15のようなデザインは,紙の上に絵を描いてもできると思います
し,そこからクラフトバンドの構造を決めることも特に難しいことではないよ
うに思われます.本論文のインタフェースがなければデザインできそうもな
かったというような例があれば,もっと面白くなると思います.

図16の下側の作品についてですが,本論文のインタフェースで詳細までモデリ
ングできるということでしょうか.もしそうでないのならば,誤解のないよう
に説明すべきです.

この研究をよくするためのコメント