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査読者 1

総合点

5

確信度

1

採否理由

 本研究では,視覚障害者の自由な歩行を支援するため,深度センサによる障害物検知,障害物情報をもとにした経路生成,方位センサと振動子を備えたデバイスによる経路の伝達の3つの要素からなるリアルタイムに動作する歩行補助デバイスを提案し,障害物検知結果による障害物情報を用いた経路生成手法の評価と,経路生成と行い,それに基づいた視覚障害者を実験参加者とした経路伝達手法の評価を行い,単純な障害物がある状況下での経路生成が正しく行われること,経路伝達時も安心して,自然に使えるという肯定的な使用感が得られることを確認した.
 既存手法では,白杖やロボット,手押車など,道具を用いた歩行の支援が行われているが,本研究では,深度センサや,経路伝達のためのデバイスを身につける必要はあるものの,歩行に影響する道具を用いる必要がない点や,経路通りに必ずしも歩行する必要があるわけではないという点で他の研究よりも自由度が高い歩行支援手法であり,新規性ありと判断できると考えます.また,提案手法は,実際に使用する対象である視覚障害者への歩行支援の際の条件のヒアリング結果をもとに,設計されており,その設計に基づき実装したものの評価で使用感について肯定的な評価を得たという点から,有用性の点で評価できると考えます.
 その他,最低限の正確性や論文自体の記述の質にも問題はありませんが,既存手法と比較した際の本研究の優位性がわかりにくい点,提案デバイスの3つの要素のうちの経路生成について,階段や段差がある環境での性能が保証できるのかが不明である点,経路伝達についても,評価では警告状況の伝達の評価が行われていないため,通常歩行時と警告時の振動の識別に問題がないのか,警告タイミングは適切なのか等の判断ができない点,利用時に使用者のどの部分に深度センサや経路伝達デバイスが取り付けられるのかや,歩行時にどのように利用するかの点での記述不足があるように思いました.

この研究をよくするためのコメント

 本研究では,視覚障害者の自由な歩行を支援するため,深度センサによる障害物検知,障害物情報をもとにした経路生成,方位センサと振動子を備えたデバイスによる経路の伝達の3つの要素からなるリアルタイムに動作する歩行補助デバイスを提案し,障害物検知結果による障害物情報を用いた経路生成手法の評価と,経路生成と行い,それに基づいた視覚障害者を実験参加者とした経路伝達手法の評価を行い,単純な障害物がある状況下での経路生成が正しく行われること,経路伝達時も安心して,自然に使えるという肯定的な使用感が得られることを確認した.
 既存手法では,白杖やロボット,手押車など,道具を用いた歩行の支援が行われているが,本研究では,深度センサや,経路伝達のためのデバイスを身につける必要はあるものの,歩行に影響する道具を用いる必要がない点や,経路通りに必ずしも歩行する必要があるわけではないという点で他の研究よりも自由度が高い歩行支援手法であり,新規性が認められると判断しました.また,提案手法は,実際に使用する対象である視覚障害者への歩行支援の際の条件のヒアリング結果をもとに,設計されており,その設計に基づき実装したものの評価で使用感について肯定的な評価を得たという点から,有用性の点で評価できると考えます.
 ただし,既存手法と比較した際の本研究の優位性がわかりにくい点,提案デバイスの3つの要素のうちの経路生成について,階段や段差がある環境での性能が保証できるのかが不明である点,経路伝達についても,評価では警告状況の伝達の評価が行われていないため,通常歩行時と警告時の振動の識別に問題がないのか,警告タイミングは適切なのか等の判断ができない点,利用時に使用者のどの部分に深度センサや経路伝達デバイスが取り付けられるのかや,歩行時にどのように利用するかの点での記述不足があるように思いました.
 その他,以下に気になった点をあげますので,今後の参考にしていただければと思います.

・本提案システムを利用した際の利用方法の説明で,視覚障害者の白杖を利用した歩行状況を本稿の読み手が理解している前提でなされているように思いますが,(少なくとも当方は白杖を使い具体的にどう歩行しているのかを正確に把握できておらず),本システムを利用した際の歩行状況が想像しにくいように思いました.(特に,「利用者は白杖を振る時の要領で手を左右に振り〜」等「白杖を振る」という記述が説明に出てくる際に具体的にどうなるのかがイメージしにくかったです)ですので,視覚障害者が白杖を使って歩行する際の状況についての説明があったほうが良いように思いました.

・深度センサがどこに装着することになるのか,振動通知用の方位センサと振動子についても「手または腕に装着」とあるがどのように装着されることになるのかが説明されていないので装着感には問題がないのかどうかが想像しにくいように思いました.また,深度センサの取り付け位置によって経路生成の精度が異なることはないのかやや気になりました.

・上記の2つの内容とも関係しますが,やはり歩行時の利用者の状況がイメージしにくいように思いますので,発表時には,デモや動画で実際の状況を説明していただけると非常に良いと思います.

・経路生成の評価では,平面に障害物が置かれている状況のみを評価していましたが,階段や段差の場合,どのように経路生成されるのかが,4.2節の説明だけでは判断できないように思いました.階段や段差の場合というのも評価していないのであれば本文中で説明をしていただけると良いと思います.

・実験では障害物にぶつかりそうな場合の警告状態での伝達は含まれていないように見えるが,警告伝達のタイミングや通常時の振動との識別精度に問題がないのかがやや気になりました.

採録判定時のコメント

 本研究は,視覚障害者を対象とした障害物検知,経路生成,経路の伝達の3機能を有する自立的な歩行補助デバイスを提案,プロトタイプシステムを実装し,視覚障害者を実験参加者とした使用評価実験においてその有用性を確認している.今回の査読者間で以下の点について高く評価いたしました.
【評価ポイント】
・ターゲットユーザである視覚障害者やその支援者へのインタビューから歩行時に必要な機能を定義し,デバイス設計を進めている点
・上記の点について,評価実験にて,視覚障害を持つ実験参加者より肯定的な評価を得ており有用性が認められる点
・提案デバイスの個々の機能についての新規性は認められないが,補助デバイスとしてシステム運用している点に新規性が認められる点
・システム自体がシンプルかつ有効性がある点
・論文そのものの質,完成度が高い点

 一方で,以下について主に記述・考察不足が見受けられたため,ショート採録として判定いたしました.より良い論文にするために,以下について確認・改訂作業をご検討いただけたらと思います.
【ショート採録判定の理由に関わる点】
・既存手法との定量/定性的な比較がなされておらず,システムのオリジナリティと優位性が不明である点
・提案デバイスの利用/装着状況と位置や状況情報の取得方法について説明不足
・類似手法(デプスカメラによる地面や障害物検知機能を有するナビゲーションシステム,触覚情報によるナビゲーション)や実運用環境下(太陽光が強い屋外,階段や段差の多い路面状況)に対する記述・検討不足

レビューサマリ

 3名の査読者それぞれの評価は以下の通りで,全員が「ショート採録」の判定(うち2名はショート推し)でした.また,現状でショートの質はあると判定し,,最終的に採録条件なしのショート採録と判定しました.
評価者1 5: ショート採録を推す
評価者2 4: ショート採録に反対しない
評価者3 5: ショート採録を推す

 各評価者の具体的な評価の中で肯定的評価は以下内容で,特に(1),(2),(5)については複数名が評価できる点としてあげています.

【評価ポイント】
(1)ターゲットユーザである視覚障害者やその支援者へのインタビューから歩行時に必要な機能を定義し,デバイス設計を進めている点
(2)評価実験にて,視覚障害を持つ実験参加者より肯定的な評価を得ており有用性が認められる点
(3)提案デバイスの個々の機能についての新規性は認められないが,補助デバイスとしてシステム運用している点に新規性が認められる点
(4)システム自体がシンプルかつ有効性がある点
(5)論文そのものの質,完成度が高い点

 一方で以下について問題点としてあげました(全項目複数名が指摘した点).
【問題点】
(1)既存手法との定量/定性的な比較がなされておらず,システムのオリジナリティと優位性が不明である点
(2)提案デバイスの利用/装着状況と位置や状況情報の取得方法について説明不足
(3)類似手法(デプスカメラによる地面や障害物検知機能を有するナビゲーションシステム,触覚情報によるナビゲーション)や実運用環境下(太陽光が強い屋外,階段や段差の多い路面状況)に対する記述・検討不足

 上記の問題点が複数存在するため,ロングの質には至っていないと判定します.ですが,評価ポイントでもわかるように,本研究の主要目的の有効性の確認まで確実に実施・記述されているため,採録条件はなしとしました.

 

その他コメント

査読者コメントの中に触覚情報によるナビゲーションに関する論文情報が含まれていませんでしたので,以下に追加いたします.確認をお願いいたします.

触覚情報でナビゲート:
Tsukada, K. and Yasumrua, M.: ActiveBelt: Belt-type Wearable Tactile
Display for Directional Navigation, Proceedings of UbiComp2004,
Springer LNCS3205, pp.384-399 (2004).

査読者 2

総合点

4

確信度

1

採否理由

本研究では,視覚障害者のための歩行補助デバイスを提案し,そのプロトタイプを実装し,試用評価実験を行い有用性を確認しています.提案デバイスの個々の機能については新規性のあるものではありませんが,補助デバイスとしてシステムを運用している点で一定の新規性があります.また,視覚障害者や支援者と議論しながら歩行補助デバイスの設計しており着実に開発を進めている点も評価できます.

一方,深度センサは一般的に太陽光の強い屋外では機能しづらいです.本論文で実施した実験では屋内であったため,深度センサが機能したと思いますが,屋外では,障害物検出として深度センサは不向きだと思います.また,振動のフィードバック方法は白杖の利用時の特性を応用しています.これにより直感的なフィードバックを実現できていると思いますが,提案デバイス(特に経路伝達用のスマートフォン)は白杖との併用を考えているのか,白杖に置き換わるものなのかわかりませんでした.提案デバイスは既存の白杖にない機能を提供しているものの,逆に白杖のもつ性能や機能を全て包含しているとは言い切れません.例えば,現在,スマートフォンの把持によるフィードバックを考案されていますが,白杖には視覚障害者であることを周囲に伝え注意を喚起してもらうという役割もあります.振動モータを搭載した電子白杖もすでに販売されており,技術的に経路を伝達するためにスマートフォンを使わずとも実現できると思います.

電子白杖
http://www.amedia.co.jp/product/walking/cane/white-cane/index.html

この研究をよくするためのコメント

査読者 3

総合点

5

確信度

3

採否理由

本研究では視覚機能に障害を持つ人のための、自立的な歩行移動を助ける支援システムを開発し検証している。本研究にて最も評価できる点は、実際のターゲットユーザへのインタビューを経て、必要な機能を定義していることである。また、提案システムもシンプルかつ有効性がある。

一方で、これまで研究されてきた同種のシステムとの定量的もしくは定性的な比較がされておらず、システムのオリジナリティと優位性を判断することが出来ない。デプスカメラを用いた、地面及び障害物検出機能を持つナビゲーションシステムが昨今提案されているが、既存のシステムと比較してどのような利点があるのかを慎重に議論する必要がある[1,2,3]。

また、位置情報を用いたターンバイターンのナビゲーションを実現するシステムなどを引用し、本システムとの利用シーンや特徴の違いを示すべきである[4]。

細かな点として、実験において被験者の胸につけたスマートフォンがどのように位置を取得していたのかがわからなかった。

1. Pham, Huy-Hieu, Thi-Lan Le, and Nicolas Vuillerme. "Real-time obstacle detection system in indoor environment for the visually impaired using microsoft kinect sensor." Journal of Sensors 2016 (2016).

2.Brock, Michael, and Per Ola Kristensson. "Supporting blind navigation using depth sensing and sonification." Proceedings of the 2013 ACM conference on Pervasive and ubiquitous computing adjunct publication. ACM, 2013.

3. Li, Bing, et al. "ISANA: wearable context-aware indoor assistive navigation with obstacle avoidance for the blind." European Conference on Computer Vision. Springer, Cham, 2016.

4. Ahmetovic, Dragan, et al. "NavCog: a navigational cognitive assistant for the blind." Proceedings of the 18th International Conference on Human-Computer Interaction with Mobile Devices and Services. ACM, 2016.

この研究をよくするためのコメント

既存研究と比較しての新規性を明らかにしてください。