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査読者 1

総合点

7

確信度

2

採否理由

本研究では,仮想空間を体験するためのデバイスの形態,またデバイスからの映像提示によるVR酔いという観点から,ドーム型の仮想空間提示装置の提案と実装を行なっている.投影の切り替えにより,実世界コミュニケーションと仮想空間における映像体験を行なうことを可能にする本装置のアイディアは非常に面白い.
一方で,コミュニケーションやVR酔い軽減効果についての評価実験は,顔が見えれば,もしくは会話が成立すれば解像度が低くとも映像や音声が伝われば実現可能であり,明確な有用性が示されたとはいえない.ただし,現状の問題点や今後の改良点に関する考察もなされており,本研究はペーパー採択に値する.

この研究をよくするためのコメント

本装置を用いることで,実世界で空間を共有する人と遠隔通信を行なう人と,同時にコミュニケーションが取れると考えられる.これは従来のHMDでは実現不可能である.パーソナルな空間のポータブル化という考えも非常に興味深いが,個人的には,空間がよりパーソナルなものになることでソーシャルコミュニケーションがどのように変わっていくのかという議論があると面白いと感じた.
また,相手の顔や声が「どのように」伝わることが重要なのか,議論を深めてほしい.

採録判定時のコメント

本研究では,ユーザが実世界コミュニケーションと仮想世界の情報獲得を同時に実現可能なドーム型の仮想空間提示装置を提案している.本研究では,HMD等既存のデバイスでは成し得ないインタラクションデザインを実現するものであり,装置の実装も実際に行なわれている点から,その新規性は明確に示されている.
一方で,査読者間ではシステムの構造や評価手法に多少の疑問が指摘されており,明確な有用性が示されたとは言い難い.しかし,現状の装置の問題や今後の課題なども考察がなされており,今後本研究が発展することで,これまでになかった情報提示装置の実現が期待できる.その将来性も含め,本研究はペーパー採択に値すると考える.

レビューサマリ

本研究では,ユーザが実世界コミュニケーションと仮想世界の情報獲得を同時に実現可能なドーム型の仮想空間提示装置を提案している.本研究の提案は既存の情報提示装置にないインタラクションデザインを有しており,装置の実装も実際に行なわれており,新規性は明確に示されている.
一方で,査読者間ではディスプレイの構造,また評価手法に多少の疑問が指摘されており,明確な有用性が示されたとは言い難い.しかし,現状の装置の問題や今後の課題なども考察がなされており,今後本研究が発展することで,新たなインタラクションデザインを可能にする情報提示装置の実現が期待できるなど,将来性も示されている点から,本研究はペーパー採択に値すると考える.

その他コメント

下記の点を考慮することで,本研究の新規性や有用性をより示すことができると考えられる.

・関連研究の追加:
杉原, 舘. (2001) かぶり型水ディスプレイの開発, 日本VR学会論文誌, 6(2), 145-152.
https://ci.nii.ac.jp/naid/110008746760/ 等

・論文の構成:
関連研究が後半で記述されているが,論旨としては前半で本研究との差異を明確に記述した方が,本研究の目的を理解しやすいと考えられる.

・本装置が提示する仮想空間に対する意識
レビュアーのコメントにもあるように,画面ではなく空間を作り出すことで,仮想的な個人空間としてかんじられるかどうか,また閉塞感が生じないかどうかといった考察をしてほしい.

また,本研究の理解を深めるためにも,WISS2018における本提案装置のデモを推奨する.

査読者 2

総合点

7

確信度

2

採否理由

部分的に透過するドーム装置を用いることで、現実世界と仮想世界の両方とインタラクションを可能にする提案に高い新規性がある。
また、映像の一部だけ投影しないことで一部だけ現実世界を見えることができる、
HMDのように顔を覆わずにドームという構造をもちいるため、顔を撮影できる、ファンを付けて送風するなどの触覚を提示できる、
などのメリットも提示されており、可能性を感じる。

この研究をよくするためのコメント

表1で、装着者の顔が見えるかという項目で〇がついているが、メッシュのために、そんなにはっきりとは見えない。
目元が見えるという点ではホロレンズより優れているが、映像ありの場合(図1の(a))は全く見えていないので△では。
「外部の顔が暗く、見えずらかった」とあるように、外部とのコミュニケーションにメッシュが邪魔するのではないか?
「今後、明るさの調整を行う」という説明が何を意味しているのか理解できなかったが、いずれにせよ、
外部の映像をみるのにメッシュがかなり邪魔になるように思える。
動画や論文の画像はぼかすなどの画像処理でドットを消しているように見えるが、実際はもっと煩わしいものに見える。
実際のところどうなのか?
メッシュの高解像度化よりもメッシュのサイズをコントロールできる技術の方が必要に感じる。

表1で解放感に〇がついているが疑問を感じる。
「今あるHMDより装着したときの圧迫感がない」というコメントがあったが、
人によっては密室に閉じ込められた閉塞感を感じるのではないか?
閉所恐怖症の人に耐えられるのか?

周囲の人が撮影された映像を外側から見ることができるメリットもあるが、
情報が外側にだだ漏れになるというデメリットもある。
これを防ぐ方法は考えられるのか?

WISSの場でデモを体験できるとより議論が深まると思う。

=細かい点
・図7のキャプションが切れている。
・図8の画像と説明が逆。
・図4の配置が図7の後ろに来ている。

査読者 3

総合点

7

確信度

3

採否理由

<新規性>
本研究では、既存のHMDなどを用いた映像提示手法の課題を解決し、現実世界との双方向なインタラクションを実現する半透過型のドームディスプレイを提案している。提案システムを用いることにより、システム利用者は仮想空間と現実世界の情報を同時に取得でき、さらに現実世界の第三者からもシステム利用者を見ることが可能となる。このような特徴は既存手法では実現が困難であることから、提案手法は映像提示の手法として明確な新規性を有すると考えられる。

<有用性・正確性>
本文中では3章にて評価実験を行っているが、ここでの評価方法は不適切な点が見受けられ、現時点ではシステムの有用性を正確に示したものであるとは言えない。具体的には、評価2.1と評価2.2で「顔が見えたか」という質問に対して「見えた」という回答が得られるのは当然である(物理的に見えるように設計したものであるため)。この場合「顔が明瞭に見えたか」であったり、「顔の視認性はコミュニケーションを取る上で問題なかったか」等の質問とするべきであると考えられる。また、評価2.3と評価3の「会話することが出来たか」「コミュニケーションを取れたか」という質問については、例え音声だけであったとしても会話自体は成立することから、この質問の評価が高かったからといって、システムの有用性が示されたとは言えない。

一方で、提案手法が既存手法にはない特徴を有していることは明らかであり、今後システムとして発展させていくことでこれまでにないインタラクションを実現する可能性が感じられる。そのような将来性を含めれば、本研究は十分な有用性があると考える。


<論文自体の質>
論旨の理解を妨げる程ではないが、論文としての不備が複数あり、修正が必要である。

pp.2 2.1節6行目「装着者の人」→「の人」はいらない
pp.3 図4がなぜか再登場
pp.4 表2について、グラフは表ではなく図とすべき
pp.4 図8のキャプションがaとbで逆。また、aのスマホ使用について本文中で参照されていない。
pp.4 4.3節一行目中の図3→図2の誤り?
引用 引用の順序が統一されていない。本文中での参照順か、アルファベット順に統一すべき。また、6.1中で暦本ら[2][8][9]となっているが、実際には[8]しか該当しない等、全面的に再確認が必要。

この研究をよくするためのコメント

・提案手法のコンセプトはとても面白く、新規性があると感じた。ハードウェアとしての新しさだけでなく、提案システムを用いることで、これまでにないインタラクションのあり方を実現する可能性が感じられ、今後の発展が楽しみな研究であると感じた。
・一方で評価内容については、(本論文の範囲では)システムの有効性を十分に示すことが出来ていないように感じた。恐らく今後既存手法との比較実験等を行うものと思われるので、今後の改善に期待する。
・表1の既存手法との比較については、提案手法のデメリットである身体的負荷の増大という点についても含めた方がフェアであると感じた。