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査読者 1

総合点

4

確信度

2

採否理由

対話相手のデバイスで自分の表情をフィードバックさせるアイディアは興味深く感じます。また、デバイスを実際に十分装着可能な形で実装されていることは評価できます。

一方で、下記の課題があり、このシステムが目的に対して適切であるかの判断ができないと考えます。


・本論文では、笑顔を促し、笑顔の回数・頻度を増やすシステムを設計し、
定量的な評価の結果を重視しているように見受けられますが、
「自分の意図した感情と異なる印象を無意識のうちに相手に与えるという問題を解決」

という点を目的と捉えると、定量的な面だけでは有用性が評価できません。

極端な例では、
  - 終始笑顔だったが、相手には愛想笑いや営業スマイルに見えてしまい距離を感じた
  - 笑顔の回数はあまり多くないが、お互いに同じタイミングに笑いあって共感を得られた
というケースでは必ずしも時間や頻度が適切な尺度になりません。

・対話中で常に相手の顔を見続けるという状況はやや不自然に感じます。
4.3議論で少しだけ触れられていますが、
相手の顔を見ておらず、
フィードバックを得られていない
または笑顔が検出できないといった
状況が多く発生している可能性があるのではないでしょうか。

「笑顔を一度も検出しない時間」のうち、
「そもそも表情検出ができなかった時間」
「フィードバックが合ったがそれに気づかなかった時間」
などを明らかにすべきと考えます。

この研究をよくするためのコメント

・被験者の定性的な調査は今回はフィードバックの光に関してのみでしたが、
もう少し突っ込んだ定性調査を組み合わせることで有用性を示せるのではないかと思います。
 - 相手に対してポジティブな印象を得たか
 - 自分が意図した感情と相手から感じた印象について
 etc...


・少し検索した範囲ですが、関連する研究がいくつかみつかりました。
笑顔の表出時間を尺度とした本研究との比較や対照があるとよいと思います。

赤外線通信により物理対面を軽量するウェアラブルデバイス
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tvrsj/22/1/22_11/_pdf/-char/ja

同調的表情表出を提示するインタフェースの提案-2 者間会話環境に向けて-
http://www.interaction-ipsj.org/archives/paper2010/discussion/0060/0060.pdf


・手法について、お互いのウェアラブルデバイスで検出するのではなく、
たとえば卓上に360度カメラがついた持ち運び容易なデバイスを置き、
両者の表情を取得するなどの実現手段も思いつきます。

こういった手法と比べてウェアラブルであるメリットがより明確になるとよいと思います。

採録判定時のコメント

アイディアは非常に興味深く、実際に装着可能な形で実装されている点は評価できます。
一方で、提起された課題と提案手法がかみ合っていない、評価・実験に対する説明が不足しているなどの課題があります。
しかしながら研究のアプローチや、デバイスの活用方法について活発な議論がなされることを期待し、条件付「議論枠採録」とします。

レビューサマリ

対話相手の装着したデバイスで自分の表情をフィードバックし、表情の変化を促す、というアイディアに関してはすべての査読者から評価されています。

一方で、自分の意図した感情と異なる印象を相手に与えてしまう」という問題提起に対し「笑顔を促し笑顔の表出回数を増やす」という提案がかみ合っておらず目的が不明確である、という課題が共通して指摘されています。また、評価については、具体的な指示がどのようなものであったかなどの記述の不備や「会話の満足度」等の指標や利用者の主観的な評価の結果が読み取れないなどの指摘がありました。

WISSでは「評価が行われていないことで減点しない」という査読方針ですが、評価を除いた範囲で判断する限り、本手法の有用性や設計の妥当性が示されているとは言いがたいと考えます。

しかしながら、提案手法のアイディアは興味深く、課題に対してどのようなアプローチや評価を行うべきかの議論が活発になされると判断しました。
そこで下記を修正していただくことを条件に「議論枠採録」とします。

(1)概要などで記述されている課題設定「無意識のうちに自分の意図とは異なる印象を他者に与えてしまう」に対し、提案システムでは「フィードバックを行うことで笑顔を促し、回数と頻度を増やす」ことに主眼があり、隔たりがあります。
課題設定を修正する、または、この課題に対して本提案にいたった説明を追記する、など、整合性が取れるよう修正してください。

(2)実験の条件設定があいまいな部分があります。特に、被験者に対してどのような指示を出したかの追記をお願いします。
(例えば、会話のテーマについての指示があったか、笑顔なし警告通知があった場合に笑顔を出すようにすることを求めたか、など)

(3)4.2.1では、「会話のテーマの違いによる盛り上がりの度合いの影響が大きかったことが挙
げられる.」とありますが、被験者アンケートなどで、実際に盛り上がり度合いに違いがあったかについて確認できていればその旨の記述を、なければ今後の課題の一つとしての追記をお願いします。

その他、各査読者からの指摘事項に対して、できる限り対応をお願いします。

その他コメント

アイディアは非常に興味深く、実際にデバイスを体験してもらうことで、より議論が生まれ有意なフィードバックが得られると思います。
ぜひデモ発表として投稿いただくことをご検討ください。

査読者からあげられた関連研究に加え、
OBプログラム委員からは、フィードバックにより感情を誘導する、という観点において、下記の作品が関連研究としてあげられています。
扇情的な鏡 http://www.shigeodayo.com/incendiary_reflection.html

いずれも今後の参考にしていただけたらと思います。

査読者 2

総合点

2

確信度

3

採否理由

本研究では,ウェアラブルデバイスを用いた表情認識を通じて,対話相手のウェアラブルデバイスから本人の表情の状態をフィードバックする情報提示をおこなう装置を開発しました.また,自己の表情が対面会話でのコミュニケーションや互いの感情に影響するという背景のもと,笑顔を引き出す情報フィードバックによる表情や発話の変化を調査しています.

本研究のアイディアは非常に面白いです.しかしながら,本論文が示す結果から,新規性や有用性が示されたとは言い難いです.

・対話相手の装着するデバイスを通じて本人にのみ表情を意識させるという点には新規性が感じられます.しかし,自己の表情を意識させて本人の意図する感情の印象を生む表情を誘導することと笑顔を誘導するシステムを作ることのどちらが提案システムの中心の目的なのかがぶれている印象を受けました.そのため,提案システムがこのどちらの目的を叶えようとしているのかが非常に曖昧に感じられます.

・会話相手に示される情報はユーザは見えないため,乱暴に言えば「笑ってください」と明確な指示でも良かったはずです.簡易なウェアラブルデバイスという提案システムの設計上,そのような具体的な指示を示すことはできないと思われますが,一方で無機質なLED光に集中すること,その光を見るために相手の顔周辺に集中することで,逆に会話が阻害される恐れもあるのではないでしょうか.そのため,表情誘導の方法としてLED光を用いることの妥当性が示されたとは言い難いです.

・本実験では,提案システムによる笑顔誘導効果を中心に検証し,笑顔が生じる傾向が示されています.しかし,実験設計に関する記述が不足しており,その有効性や再現性が十分に示されていません.また,提案システムや実験の問題点は触れられている一方で,本研究が今後どのように発展する可能性があるのかが不明です.

以上の理由により,本論文は不採録と判断します.

この研究をよくするためのコメント

本論文の論旨展開をもう少し整理できると,本論文の目的や新規性をより明確に示せると思います.また,本論文の再現性を示すためにも,実験設計をより明確にしていただきたいです.

・会話を阻害しないために聴覚情報ではなく視覚(LED光)を用いたと述べられていますが,通常対面会話中に環境光とも異なる光が発せられることはありません.2章で表情認識→フィードバックの手法として2つの方法が考えられると述べられていますが,この時点で「聴覚的なフィードバック」や「認識した表情を記号化→個人へフィードバック」等の手法もあるのではないか?と思った後で聴覚情報を使用しない理由が述べられており,先行研究の問題点を解決する上で提案システムの設計の妥当性が読み取れませんでした.

・本提案手法による表情誘導効果や発話傾向に被験者間で大きな違いがあった理由の1つとして,著者らは会話のテーマの違いによる盛り上がりの度合いを挙げています.本論文から実験で設定した会話内容を読み取ることはできませんが,ネガティブな内容の会話からポジティブな表情を誘導することは難しいことは予想が付きます.一方で,笑顔が生じたからといって必ずしも会話内容の方向性がポジティブになるとは限りません.そのため,笑顔が生じることで会話に生じうるポジティブな効果とは何かを明確にする必要があります.

・会話のペアとなる被験者同士の関係も影響していた可能性も考えられます(例えば知り合いかどうか,普段会話をよくおこなうかどうか等).一方で情動伝染(相手の表情や非言語情報の無意識的な模倣による感情一致の傾向[1])の影響も考えられます.提案システムの効果検証に当たっては,この点も考慮した議論をぜひおこなってほしいです.

・被験者に与えた指示が不明です.本実験では,「笑顔を作る」よう意識することを求めたのでしょうか.また,被験者は笑顔を作ることをそもそも意図していたのでしょうか.笑顔を誘導することが目的であればその旨を被験者に指示する必要があるでしょう.あるいは被験者の表情が本人の意図した表情となるように誘導することが目的であれば,本実験設計はその目的に適っていないと考えられます.

・本研究と関連して,対話相手の表情変形フィードバックによる感情誘導と,それによる集団間の創造性向上を目的とした研究[2, 3]があります.これらは直接的な対面会話を対象とする本研究と異なり,遠隔通信を対象としていますが,表情の影響によって対話者同士の感情やコミュニケーションに影響を与えるという点では本研究と共通しており,実験設計や検証内容も類似の点が多いです.

・実際の対話場面で使用を仮定すると,実験者からの指示がなくても本システムが機能することが求められます.そのため,どのように刺激を提示すれば笑顔以外の表情の表出頻度を向上する,あるいは自己の笑顔の表出頻度を示すものであると認識させることができるのかについての考察があれば,本システムの有用性や発展性を示せると考えます.ただし,本論文が提起する問題・提案手法のアイディア・評価内容と併せて,整合性が取れるような考察が必要だと思います.

[1]Hatfield, E., Cacioppo, J. L. and Rapson, R. L. Emotional contagion. Current Directions in Psychological Sciences, 2, (1993), 96-99.
[2]N. Nakazato, et al.: Smart Face: Enhancing Creativity During Video Conferences using Real-time Facial Deformation. In Proc. of CSCW2014, pp.75-83, 2014.
[3]櫻井ら: 表情変形フィードバックによる遠隔協調作業における創造力向上支援. 日本VR学会論文誌, 20(4), 323-332. 2015年.

査読者 3

総合点

4

確信度

3

採否理由

本研究では、表情認識機能を持つ眼鏡型デバイスを開発し、相手が着用しているデバイスから自身の表情フィードバックを得ることを可能としている。そして、限定的ではあるが提案システムが実際の会話の中でどのような影響を及ぼすかを検討する実験を実施し、笑顔の表出頻度が向上することを示している。


●提案されている内容の新規性(先行研究との差分が十分にあるか)、
表情(笑顔)を検出しフィードバックを行うシステムは既に存在するが、デバイスが装着者自身ではなく、対話者の表情認識・フィードバックを行う点は既存研究にはない独自性である。

●有用性(実際に役に立つか)、正確性(技術的に正しいか)、
限定的ではあるが評価を実施しており、笑顔の頻度が向上することを示している。ただし、実験参加者数が少なく今後の追加検証が必要である。また、システムの有用性を示すためには、「笑顔の頻度・割合」が向上するだけでなく、それによって「会話の満足度」等が向上することを示す必要があるが、その点についての評価結果は示されていない。

●論文自体の記述の質(分かりやすく明確に書かれているか)、
記述の質に問題はなく、主張が明瞭に示されている。ただし、実験手法・結果の説明に不備があるため追記が必要である。


●総合的な評価
提案システムの構成(装着者自身ではなく対話相手の表情をフィードバックする)は独自性が認められるが、そのような構成とした根拠や既存手法に対する優位性は述べられていない。そのため提案システムが実際に有効であるかは自明ではなく、評価による実証が必要である。ただし、本論文の範囲内では実験手法・結果の説明に不備があることからその有効性が十分に示されたとは言えない。また改訂により不備が解消されたとしても、評価内容や被験者数の制約により、得られる結果は限定的なものとなる。
上記より、以下の項目を採録の条件として、「4: ショート採録に反対しない」と判定する。

採録の条件:
・4.1節中に評価項目として「会話の盛り上がりやフィードバックがどれほど気になったかについて主観的な評価を調査するため,5 段階のリッカート尺度でのアンケート調査を行った.」という記載があるが、具体的にどのような評価項目があったのかが不明である。項目数および質問内容を示すこと。
(前述の通り、笑顔の頻度が会話の充実度向上に繋がっているかは重要な観点であり、もし「会話の盛り上がり」についての評価を実施しているのであればその結果を記述してほしい)
・4.1節中に「会話は両者のフィードバックの有無のパターンを変えて3 回行った」とあるが、この順序は固定であったのか?また、「それぞれ会話について異なるテーマを与えており」という記述があるが、会話のテーマについても順序は固定であったのか?これらについて明記すること。
・4.2節中で統計的評価結果を示した部分でp > .05という記述があるが、p値が0.05以上であるならば実際のp値を報告すること。

この研究をよくするためのコメント

アンケートにおいて「フィードバックの光は気になったか?」という質問があるが、論文中でも示されているようにこのような設問では被験者によってポジティブにもネガティブにも捉えられてしまう。このような個人の解釈の違いが生じる余地のない設問とすることが望ましい。(「フィードバックの光は会話の妨げとなったか」や「〃は笑顔のフィードバックとして理解できたか」等)