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査読者 1

総合点

6

確信度

2

採否理由

本論文は、スキーというスポーツの制約として、練習できる環境が限られるという課題、および動的で他者(熟練者)動作との比較が困難であるという課題に着目し、それを解決するVRトレーニングシステムを提案している。提案システムは、スキーのコース情報に加えて、記録した熟練者の動作および利用者の動作情報を提示する機能を有する。熟練者の動作および利用者の動作情報提示にあたっては、複数の提示方法を実装しており、主観的評価のみではあるが提示方法間の比較検証を行っている。

●提案されている内容の新規性
本研究で使用しているスキーシミュレータとは異なるものの、専用のスキーコントローラとVRを組み合わせた事例は既に存在しており、スキーをVR体験できるという点だけでは新規性がない。
https://vrzone-pic.com/shinjuku/activity/skirodeo.html
これに対して、技能向上のために付加的情報(熟練者および自身の動作情報)を提示する点は既存システムには無い着眼点である。

●有用性(実際に役に立つか)、正確性(技術的に正しいか)、
技能向上に繋がるか否かがシステムの有用性の基準であり、評価もそのような観点で実施されている。そして主観的評価の結果より、提案手法の一部の条件で付加的情報を提示しない場合よりも印象が向上したことが示されている。ただし、あくまで印象評価の結果であり、実際の技能向上に繋がるかについては今後定量的評価を行う必要があると考えられる。

技術的正確性については、技能向上を目的とする場合にHMDを用いたVR体験が必要となる根拠が明確ではない。単純に没入感が向上するというメリットがある一方で、自身の身体動作が見えなくなったり、HMDで手元が見えないことから図1に示されているようにスキートレーナーのバーを把持し続ける必要が生じる等のデメリットが考えられる。特に後者については、図2に示されているように熟練者はバーを把持せずに動作を行っており、もしバーを把持し続ける必要があるのであればそのような動作を習得することが出来ない。そのため、全身の姿勢や重心移動等のスキーに不可欠な要素を習得する上で支障が生じると考えられる。

以上の理由から、新規性・有用性は認められるものの、技術的正確性については補足の説明が必要であると考えられる。よって、条件付きで「6: ショート採録を強く推す」と判断する。


●論文自体の記述の質(分かりやすく明確に書かれているか)、
記述の質に問題はなく、主張が明瞭に示されている。


●採録の条件:
もし、採録の条件とする強い要求があれば、何をどのように直せばよいのか、具体的に明示してください。
・HMDを使うことの必然性についての追加説明
前述の通り、HMDを使うことによりデメリットが生じる可能性がある。特に、HMDを用いることでバーを把持し続ける必要が生じるのであれば、そのことを明記した上で、生じるデメリットについての記述が必要がある。その上で、それを考慮してもHMDを用いる必然性があるという根拠を示す必要がある。
※もしHMDを用いる場合にバーを離すことが可能であれば上記修正は必要ありません。

この研究をよくするためのコメント

・3.3.1中に「システムと遠隔のシステムを接続してコーチの動きを再生することで,遠隔指導を行うこともできる」という記載がありますが、これは現時点でリアルタイムに通信を行う機能まで実装済みという意味でしょうか?それとも「(今後通信機能を実装すれば)遠隔指導できる」という意味でしょうか?もし後者であるとすれば、ミスリーディングな表現であるように感じます。
・システムの効果を向上させる上では、全身トラッキングを行った上でそれを第三者視点で見れるようにすると良いと思います(例えばコーチリプレイの横に並べて表示する等)。

採録判定時のコメント

本論文は、スキーをVR体験しながら熟練者の動作情報等を確認することができるVRトレーニングシステムを提案しています。複数の条件を比較し適切な情報提示方法を検討するとともに、評価で見られた課題を解決する新機能の提案も行われています。大規模なシステムですが、是非WISSの場で体験し有効性について議論させて頂きたいです。

レビューサマリ

「VRスキートレーニングシステムに、熟練プレイヤーの動きを可視化する機能を追加した点は新規性がある」という点は査読者間で一致しています。また、印象評価のみであるものの、大規模なユーザー評価を実施している点、さらに評価結果をもとにシステムの改善を行っている点は高く評価出来ます。

一方でシステムの有用性・正確性については評価が分かれており、以下の懸念が指摘されています。

・印象が向上することは示されたが、実際の技能向上に繋がるかは今後定量的な評価が必要である(review 7)
・HMDで手元が見えないことからバーを把持し続ける必要が生じ、全身の姿勢や重心移動等の要素を習得する上で支障が生じる可能性がある(review 7)
・熟練スキーヤーの動きを模倣することが,「初心者」への支援内容として妥当か否かの議論が必要(review8)

上記を総合的に判断し、本論文は以下の項目を採録条件とする「9: ロング採録(採録条件あり)」と判定します。なお、修正後採録条件が十分に満たされていないと判断された場合はショート採録となる場合があります。

<採録の条件>
1.HMDを使うことの必然性についての追加説明:
HMDを使うことにより、バーを把持し続ける必要が生じる等のデメリットがあれば、そのことを明記した上で、HMDを用いる必然性を示してください。また、バーを把持し続ける必要が生じるのであれば、全身の姿勢や重心移動等の要素を習得する上での影響について論じてください。

2.熟練スキーヤーの動きの模倣が「初心者」への支援内容として妥当か否かの議論:
技能習得過程には段階があり,スキーに対しても初心者・中級者・上級者で習得したい技能が分かれると思いますので,そのような観点から動きの模倣が「初心者」への支援として妥当か否かを論じてください。


<その他指摘事項>
採録の条件とはしませんが、以下の指摘事項について確認・訂正を検討してください。

・P2 「スキーのような動的なスポーツ」→大抵のスポーツは動的だと思いますので,表現方法を変えた方が良いと思います.
・P3 左下「初心者のグラフは非周期的であるのに対して,熟練者は常に綺麗なサインカーブを描くことが分かった.」と記述されていますが,図3の中央のグラフだけでは不明瞭です.グラフ部分を拡大した図を掲載して下さい.
・P4 左下 「UIは分かりやすく」と記述されていますが,質問内容は「Q5:総合的にどう感じたか」となっており,UIについての結果であることが明示できないと思います.
・P4 左上 「各被験者の一連の所要時間は,準備,実験,実験後アンケートを含めて約8分であった」と記述されていますが,8分の内訳を明記して下さい.
・P5 図5 グラフの縦軸・横軸の文字が小さく,見辛いです.図の修正を検討して下さい.
・P6 左段「r例として」→rを削除して下さい.

その他コメント

採録条件となっている部分に限らず、各査読者の指摘事項は研究の価値を高めるために有益な情報であると考えられますので、是非参考にしてください。

査読者 2

総合点

7

確信度

2

採否理由

本研究では,スキー熟練者の動作の可視化によるVRスキートレーニングシステムを提案しています..本提案手法では,熟練者のモーションデータをリプレイ・グラフ化・ストロボ残像の3種類の手法で可視化し,そのデータを利用したトレーニング学習の効果の検証と比較をおこなっています.

本提案システムは,スキーの初心者を対象として,リアルタイムでのモーションフィードバックが可能なVR運動学習システムとして新規性を有しています.また,モーション再生手法による有効性や効果の違い等の多角的な検証を通じ,その有効性の一端や本システムの問題点を示しています.また,目的や論旨は分かりやすく記述されています
一点,スキー初心者は熟練者の動作を目で追うだけでも比較的大変であると思うのですが,現状本システムによる情報提示がスキー初心者を強力に支援できるのか?という点のみ,疑問が残りました.しかし,モーション再生の時間制御機能は実験をもとに追加されているため効果検証は着手されていませんが,この機能に関する効果も考察されており,その発展性は十分に示されていると感じます.

以上の理由から,本論文は採択に値すると判断します.

この研究をよくするためのコメント

本提案システムはスキー初心者が熟練者の動作を目で理解して自身の動作にフィードバックするという点で,運動学習支援に有効であると考えられます.一方で,著者らも述べている通り,初心者はまず熟練者の動作を追うことが難しく,またその動作を目で追う時に他の情報に目を向けることは容易ではありません.査読者はスキー経験者ですが,初心者の頃は指導者の動きを追っている時にゲレンデのコブやアイスバーンの状態にすら目を向けることができず,転んでしまった経験も多々あります.
集中して熟練者の動作を学習できる本システムにおいて,時間制御機能は非常に大きな意義を持つと考えられますので,ぜひその効果や問題点についての議論を期待したいです.

査読者 3

総合点

6

確信度

3

採否理由

屋内スキーシミュレータとHMD,ベースステーション,Viveトラッカーから構成されるVRスキートレーニングシステムを提案しています.大掛かりなシステムだと思いますが,WISS会場で是非デモを体験したいと思いました.

【提案されている内容の新規性】
VRを用いたスキートレーニングシステムは他にも存在するためやや新規性が低いと思いますが,技能を模倣するために熟練プレイヤーの動きを可視化した点に新規性があり,高く評価します.

【有用性・正確性】
論文全体として,提案システムのターゲットは「初心者」になっていますが,提案システムでは熟練スキーヤーの動きを模倣することが,「初心者」への支援内容として妥当か否かの議論が必要だと思います.技能習得過程には段階があり,スキーに対しても初心者・中級者・上級者で習得したい技能が分かれると思いますので,技能差による学習効果の調査・分析が必要だと思いました.提案システムが一番効果を発揮するユーザの技能レベルについて検証して頂くと,提案システムの有用性や信頼性が高まると思います.
被験者81 名と,多くの被験者に対して定性評価を行ったことも評価できます.ただし,後述の通り,実験結果の解釈にやや不明な点がありましたので,推敲をお願い致します.

【論文自体の記述の質】
査読中に気になる点がありましたので,以下に列挙します.
・P2 「スキーのような動的なスポーツ」→大抵のスポーツは動的だと思いますので,表現方法を変えた方が良いと思います.
・P3 左下「初心者のグラフは非周期的であるのに対して,熟練者は常に綺麗なサインカーブを描くことが分かった.」と記述されていますが,図3の中央のグラフだけでは不明瞭です.グラフ部分を拡大した図を掲載して下さい.
・P4 左下 「UIは分かりやすく」と記述されていますが,質問内容は「Q5:総合的にどう感じたか」となっており,UIについての結果であることが明示できないと思います.
・P4 左上 「各被験者の一連の所要時間は,準備,実験,実験後アンケートを含めて約8分であった」と記述されていますが,8分の内訳を明記して下さい.
・P5 図5 グラフの縦軸・横軸の文字が小さく,見辛いです.図の修正を検討して下さい.
・P6 左段「r例として」→rを削除して下さい.

この研究をよくするためのコメント

・P3 動作を模倣するために「(1)コーチリプレイ機能,(2)グラフに寄る足角度の可視化機能,(3)ストロボ残像機能」の3表現を選定した理由を明記して下さい.これらの表現により,実際のスキートレーニングのどの過程をサポートできるのかという観点で記述されていると,スキー未経験者にも伝わりやすくなると思います.
・提案システムでは,スキーのフォーム(型)の中で,具体的にどのような動作を支援できるのかについても記述されると良いと思います.
・自由コメント欄でアンケートを行ったとのことですが,実際の意見等も論文内に記述されると良いと思います.
・表示方法の変化についての議論だけではなく,提案システムのターゲットユーザに対し,どのような支援を行うことが効果的かについて,WISSで議論させて頂ければと思います.