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査読者 1

総合点

5

確信度

3

採否理由

本論文は 3Dプリンタで出力したオブジェクトの物体識別手法を提案しています.内部に特徴的なパターンを持つ構造を持たせ,振動特性の変化を応用し物体識別を実現しています.新たにタグとなる情報を作成(モデリング)することなく,スライサソフトが持つ既存の内部構造パターン設定を用いる点は興味深く,一定の新規性はあると思います.

提案手法の有用性については課題が残っています.提案手法では特に既存のスライサソフトに搭載された内部構造パターン設定を使うことでユーザにモデリングの負担を減らす,という点に着目しています.確かに AirCodeや InfraStructsに比べ,モデリングの負担の軽減や,FDMを使用できるメリット,適用可能な 3Dオブジェクトの幅が広がったことには同意できます.しかしながら,何を目的として提案手法を使用した 3Dオブジェクトへのタグ付けを行うのか,という点不明瞭であり有用性が判断できません.例えば,AirCodeの応用ではロボットアームでつかむ位置を制御するための不可視マーカとして活用していたり,InfraStructsでは玩具に埋め込んでタンジブルなインタラクションを実現しています.これらの既存手法はカメラベースの非接触のセンシングを行うため,インタラクティブなアプリケーションへの応用に向いていますが,提案手法のようなマイクを接触させてのセンシングには向かないように思われます.一方,著者らの既存研究[4]では,電子透かしなどの情報の付加による権利の保護をモチベーションとしているようですが,本論文では「スライサソフトで設定できる既存の充填パターン」を用いていることから識別できるパターン数が限られてしまうことや,誰でも同じものを作れてしまう点で矛盾しているように感じられます.

この研究をよくするためのコメント

提案手法を用いることによる,タグ付の目的の明記.

p.1 面のみを用いて内部が構成されたオブジェクトもある の意味が理解できませんでした.

p.3 3.2 最後の行 形成することとした.. → こととした.

採録判定時のコメント

本研究は 3Dプリンタで出力したオブジェクトの物体識別を提案しています.
3Dプリンタ出力時に設定する内部構造パターンを用いるという点に着目しており,一定の新規性が認められる.一方で実験条件の一部が不明瞭である,想定する提案手法の使用方法についての議論がされていない.以上を踏まえ,ショート採録が妥当と判定された.

レビューサマリ

3Dプリンタオブジェクトの内部構造の変化によって生じる音響周波数特性の違いを利用した物体識別手法を提案しています.実験条件は限定的ではあるものの,高精度での識別を実現しており利用可能性を示しています.また査読者の多くが提案手法自体がシンプルでかつ面白く,別のアプローチへの発展の可能性など議論に発展するであろうと評価しています.

一方で想定する提案手法の使用方法が不明である,識別の上限や形状の制約やピエゾ素子の位置のズレなど現状で判明していない点が多いという指摘があります.現状の識別率で想定する提案手法の使用方法についての報告を,提案手法が実際に動作している様子(動画等)と共に報告されることを期待します.
採録条件にはしませんが,指摘された実験条件についての補足をカメラレディまでに修正をお願いします.

その他コメント

査読者 2

総合点

5

確信度

2

採否理由

3Dプリントオブジェクトの内部構造パターン(Infill Patterns)によって音響周波数応答に違いが生まれることに着目し、音響周波数応答を取得し機械学習を用いてオブジェクトを識別する手法を提案しています。
3Dプリンタのソフトウェアで変更できる内部構造パターンの違いだけでオブジェクト識別ができれば、オブジェクトの美観を維持しつつ、ユーザが特殊なマーカーを作成する手間を削減するメリットがあります。ピエゾ素子を使った評価実験では、8つのオブジェクトを高精度に識別できており、利用可能性を示しています。
ただし、今回の実験条件はかなり限定的ですので、論文内の今後の課題で述べられているような内容を確認する必要がありそうです。
優先すべき実験条件や本手法を活かす利用場面を議論できるとよいのではと考え、採録の判定としました。

この研究をよくするためのコメント

論文を読み、本識別手法を実際に使ってみたいと感じました。ただ現時点では、実用性・再現性を判断する材料が少ないように思いました。もう少し検証を進めて頂いて、できることや利用時の制約を整理すると、より良い研究になると考えます。

特に、ピエゾ素子を搭載した台等で識別できるかどうかは、実用の際に重要な点だと思います。今回の実験では同じ位置にピエゾ素子を貼り付けていましたが、どの程度ずれを許容できるでしょうか?ピエゾ素子とオブジェクトの位置関係が厳密である必要があるのでしたら、同じ位置にガイドするための溝や凹凸が必須になるかもしれません。

また、3Dプリンタで作成する以上、ユーザの作品(さまざまな立体形状)と識別用オブジェクトが一体化した状態でも利用できるべきです。たとえば、内部構造パターンを持つ直方体をオブジェの土台に使った場合などで、学習・識別精度に影響はないのか気になりました。

安定して識別できる数にも興味があります。上限数はInfill Patternsの種類に依存するのでしょうか?ユーザが簡単に変更できそうな操作、たとえば直方体のサイズや形状の変更で、今回の8個よりも多く識別できる可能性はあるでしょうか。反対に、少ないタグ数で利用する方が望ましい場合(識別精度が良い等)はあるでしょうか?この辺りも議論頂く方が良いように思いました。

査読者 3

総合点

2

確信度

2

採否理由

本研究では、3Dプリンタ印刷時に形成される内部構造パターンを変化させることによって生じる音響周波数特性の違いに基づいたオブジェクト識別手法「FabAuth」を提案しています。
提案手法の利点として、
- オブジェクトの外観を損なわない
- 低充填率で作成されたオブジェクトに適用可能
- タグを付与するための3Dモデリングが不要
を挙げられています。

評価方法に疑問があり、有用性が判断できず、現状のままでの採録は難しいと判断しました。

4.4 実験2 の条件がよくわかりませんでした。
実験1: 2400サンプル / 2グループ / 3施行 = 400サンプル 
           訓練データは2施行分なので 400 * 2 = 800サンプル
実験2: 800サンプル / 2グループ = 400サンプル 
           訓練データは1グループ分のため 400サンプル
という理解であっていますでしょうか?
これでは精度が10パーセント程度落ちてしまった理由が、プリンタ間の差によるものか、単に学習データが半分になったことによるものなのか判断できないのではないでしょうか?
また実験2は、実験1のように訓練データとテストデータの入れ替えは実施されたのでしょうか?
こちらも実験1と同様に入れ替えるべきかと思いますが、現状の文章からはどのように実施したか読み取れませんでした。

5.1 議論での、”評価実験に用いたオブジェクトと同一な条件において印刷したものが、同一な音響周波数応答を示すかは定かではない”と書かれていますが、こちらの評価実験はなぜ行わなかったのでしょうか?
3Dプリンタで出力されるズレに対応できなければ、出力したオブジェクトに対して毎回学習する作業が発生してしまい、提案手法の有用性が低くくなると思います。
実験1は予備実験的な位置付けで、上記に関する評価実験をメインで記述すべきかと思います。

ピエゾ素子の貼り付け箇所の設定が厳しすぎるように思います。
”ピエゾ素子の貼り付け位置は側面と上面によってできる辺にピエゾ素子が合わさるよう, 図5b に示すよう貼り付け,貼り付け位置が検証時に変わらないようにした”
と書かれていますが、少しでも貼り付け箇所がずれると認識できないのではないかと疑問に思いました。
様々な形状で出力される3Dプリンタのオブジェクトに対し、ピエゾ素子の取り付け箇所のマーク等なし(オブジェクトの外観を損なわず)に本提案手法が適用できるのか、疑問が残ります。

以下、誤字かと思われます。

5.1 議論
x x 50サンプル -> x 50サンプル

この研究をよくするためのコメント

低充填率のイメージが湧きにくかったため、図2中にプリンタのデフォルト設定で作成されたパターンの画像を追加すると、低充填率でも実現できていることがわかりやすいのかと思いました。

ピエゾ素子の取り付け方法・取り付けにかかる時間、得られる波形、認識結果がわかるような参考動画があると、内容が理解しやすいように思いました。

認識精度に関する議論よりも、現状の認識精度でどんなインタフェースやインタラクションが考えるかといった議論を深めた方が、WISSコミュニティへの貢献は大きいように思いました。

- 立方体以外の形状でも本手法が適用できるかわからない
- 同じ設定で出力したオブジェクトでも問題なく識別できるかわからない
- ピエゾ素子がずれても問題なく識別できるかわからない
と、判明していないことが多いように思います。
これでは、作成できるアプリケーションがかなり限られてしまうように思いました。
これらについての調査を追加するとより良いかと思います。