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査読者 1

総合点

4

確信度

3

採否理由

新規性のある提案だと感じました.
残像ディスプレイは一般に高速回転しているので,タッチすることは想定されていませんでした.それに対し提案手法では,回転するディスプレイに対してタッチを行います.また,提案手法には,回転が停止している時と,回転している時,いずれの場合であっても表示が可能という特徴があり,その特徴を使ったインタラクションを提案しています.
面白いと思うと同時に,提案手法の特徴をうまく引き出せていないという印象も受けます.
例えば,残像ディスプレイは通常,1次元のディスプレイを高速に移動させることで,「浮遊感のある特徴的な映像表現」を可能とします.浮遊感を感じるのは,背景が透けるディスプレイとして機能するためです.しかし提案手法では,一部の背景が透けません.確かに提案手法は残像ディスプレイと言えますが,一般的な残像ディスプレイとは異なる特徴を持っているはずです.
また,回転レコードプレイヤーの例では,タップし続けた場合に回転速度が急激に低下する懸念がありますが,それについての言及がありません.ディシジョンメーカーアプリについても,回転させる必要がどこにあるのか,回転させることで何が変わるのかを理解することができませんでした.
本論文では,「浮遊感のある特徴的な映像表現」が可能な「残像ディスプレイ」には「インタラクティブ性が乏しい」という問題設定をしており,それを前提に読み進めた場合,上記のような疑問が生じました.これは論文の記述に問題があると言い換えることもできます.

新規性は認められますが,有用性が不明確であるため,ショート採録に反対しないと判定しました.

この研究をよくするためのコメント

提案手法をスマートフォンで実装できることが望ましいことは理解できますが,著者らの主張点はそこにあるのでしょうか?より一般化させて,2次元ディスプレイを用いたインタラクティブな残像ディスプレイとした方が,研究を発展させられると感じました.

採録判定時のコメント

スマートフォンを回転させて,残像ディスプレイとして使用するという,非常に面白い提案です.新規性は認められるものの,有用性の観点で疑問が残るため,議論枠での採録となりました(この点で,本研究はWISS的研究と言えるかもしれません).
発表では,“何に使えるのだろうか?”だとか,“このような発展があり得るのではないか?”だとか,“こうなればより楽しめるのでは?”など,本研究の新たな展開を切り開く,有意義な議論が行われることを期待しています.

レビューサマリ

3人のレビュアそれぞれが,「新規性のある提案だと感じました」,「残像ディスプレイの表示品質の向上に関する提案は新規性がある」,「実装上の工夫をしており一定の新規性を有すると考えられる」と書いており,本研究には新規性が認められる.
その一方で,「提案手法の特徴をうまく引き出せていない」,「インタラクティブ性についての有用性に疑問が残る」,「有用性についての議論が不十分」とも述べており,有用性は明確ではない.
有用性に関する議論や記述の追加,またレビュアのコメントに基づく改善などを行い,論文および研究の質を高めてもらいたい.

その他コメント

有用性をうまく記述できていれば...,説得力のあるシナリオを例示できていれば...,と強く感じました.是非,それらの検討を続けていってください.
今回は議論枠での採録です.発表では,WISS参加者と議論できるような論点を提示していただけると,本研究の発展に貢献する活発で有意義な議論ができるのではないかと,期待しています.

査読者 2

総合点

5

確信度

2

採否理由

本論文ではスマートフォンを回転させることで、インタラクティブ性をもたせた残像ディスプレイを提案している。スマートフォンに内蔵のジャイロセンサを用いて回転速度を検出するなど、残像ディスプレイの表示品質の向上に関する提案は新規性がある。しかし、回転時のタッチや音声認識の精度、複数回のタッチ後の速度低下による操作への影響などに関する考察がなく、本論の提案の第一の特徴であるインタラクティブ性についての有用性に疑問が残る。そのため、「5: ショート採録が妥当」の判定とした。

この研究をよくするためのコメント

・3.提案 は何を提案しているのかタイトルを見てわかるように記載するほうが可読性があがります。
・4.実装 は何を実装しているのかタイトルを見てわかるように記載するほうが可読性があがります。
・4.3の応用例は5章の後にまとめて記載した方が可読性があがるかと思います。
・スマートフォンによって重心の位置や、画面の位置が異なるかと思うのですが、回転ユニット部のボールベアリングの位置はどのように決めたのでしょうか?

査読者 3

総合点

4

確信度

2

採否理由

スマートフォンに回転機構を持つケースを装着するのみで残像ディスプレイを実現している.
表示の際にスマートフォン内蔵のセンサを利用し,回転速度や描画開始位置の推定を行うといった実装上の工夫をしており一定の新規性を有すると考えられる.
視認性について,現実装での複数の課題を挙げているものの定量的な評価などは実施していない.よって有用性についての議論が不十分であるため「4: ショート採録に反対しない」と判断する.

この研究をよくするためのコメント

・「2.2 スマートフォンを拡張した研究」について,入力語彙の拡張(MagNail,SENSECASE)や入力領域の物理的な拡張(ExtensionSticker),あるいは視覚や触覚などにおける表示方法の拡張など,様々な拡張対象がある中で, 本節はこうした分類が漠然としている印象を受ける.
また,提案システムは入力語彙や入力領域の拡張には該当しないと考えられる.
提案システムとの比較観点を明確にし,再編成することを推奨する.
・「4.1 回転ユニット部」にて「このユニット自体の性能には大きな問題はなかった」という記述があるが,性能とは何を指しているのか不明である.
・再現性の観点から,実際に作成したケース(初作および改良版)のサイズ・重量や,実験で使用したセンサのサンプリングレートといった情報を記載することが望ましい.
・「回転中のタッチパネルに触れてインタラクションを行う」との記述があるが,安全面についての議論はなされていない.最大でどの程度の回転速度となるのか,また爪などが伸びているユーザは怪我をする恐れがあるのではないかといった疑問がある.
・グラフは縦横軸のラベル付け,有効桁数揃えをするとより見やすい.
・論文として適切でない表現: 4.3.4「閲覧はなかなか大変である」