査読者1

[メタ] 総合的な採録理由

すべての査読者の総意として、新規性、有効性、参加者へのインパクト3点を考慮にいれたうえで、
「ロング採録」がふさわしいと判断しました。

特に、5.3「スタンプ式」においての、「任意のカラーパターンを食品の表面 に表示することができる」に関して、とても可能性が感じられる研究だと判断しました。

[メタ] 査読時のレビューサマリ

一部記述においてわかりにくい部分がありましたので、各査読者のコメントを参考に修正を行ってください。

メタ査読者として気になった点は、

1)機能性インクを使った実装との差異
2)実装方法についての記載

についてです。

また、食品についての応用で、安全性に関しての議論が可能であれば、追加をお願いします。

[メタ] その他コメント

まとめで引用している論文[6]は、既発表に変わりましたので、
適切な引用をお願いします。

総合点

8: ロング採録が妥当

確信度

1: 専門外である

採否理由

まず、本論文の電気分解を使った表示方法について、よく行われている印刷回路による
発光表示方法とは違う手法を採った点において、高く評価します。

i)4.2.1の書き出しが、「PCB 上に,円形平面状のドットマトリクス電極 を実装した.」から始まるが、もう少し詳細な説明があるといいと思われます。 
(PCBといえば、通常 紙フェノール、ガラスエポキシを最初に頭に思い浮かべるが、ビデオをみた
限りにおいては、フレキシブル基板として実装されているように見られる。)

ii)湿式になった場合、カラーeinkのような機能性インク素材とくらべて
本手法のメリットがどの程度でてくるのかが
気になります。自己発光物体に対してのメリットは、もう少し述べてもいいと思われます。
https://dl.acm.org/doi/10.1145/3313831.3376249

この研究をよくするためのコメント

1)ちょっと高価ですが、c-inkの Auインク(DryCure Au-J )とフィルム印刷を使うと
実装がすこしスマートになるかもしれません。
http://www.cink.jp/product

2)(食品的に可能かどうかわかりませんが)3Dプリンタと組み合わせて
回路を立体的に作れると面白いかもしれません。

Ying-Ju Lin, Parinya Punpongsanon, Xin Wen, Daisuke Iwai, Kosuke Sato, Marianna Obrist, Stefanie Mueller.
FoodFab: Creating Food Perception Tricks using Food 3D Printing.

3) 添付ファイルでKiCadのデータを送付していましたが、内容は理解できましたが、あのCadデータの説明を本文にしてもらうと読者にとって有効だと思います。また、Cadデータの具体的な実装方法が、先行研究BubBowlと同じと判断していいのでしょうか?


査読者2

総合点

8: ロング採録が妥当

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

- 全体的な評価 -
本論文では、電気分解により生成した物質を用いた色ディスプレイが提案されている。実際に、ピンクと黄色の2色を提示可能な回路が作製されている。また、電解液とそれを保持する方法により湿式・液体式・スタンプ式と3つの方法が示され、それぞれの方法を利用した応用事例も紹介されている。

本論文は立ち位置が明確であり、実装方法や複数の応用事例が示されている。定量的な評価はほとんど存在しないものの、提案としてとても興味深いものであり、ロング採択が妥当であると考えられる。

- 新規性 -
提案されている手法は、先行研究BubBowl [7]の泡ディスプレイと比べて十分に差分がある。[7]では電気分解により発生する気体を直接利用しているが、本提案では電気分解により生じる物質の性質を利用して色を提示している。Organic Primitives [9] と比べた場合でも、デジタル制御が可能であるという点が優れている。

- 有用性・正確性 -
主に5章で紹介されている応用事例は、いずれもすぐに使えるという意味での有用性は低いものの、面白い使い方をできていると思われる。一方で、事例の多くがサーモクロミックインクなどの機能性インクでより簡単に代替できてしまう可能性が存在する。また、食品にスタンプをするというアイディアに関しても、デジタルな提示ができるという違いはあるものの、外部に電極が存在するならばOrganic Primitivesと本質的な差異がないと言うこともできる。

- 論文の記述の質 -
論文は全体的に明快に記述されており、読みやすい。ただ一点、技術的な意味で記述に誤りがあるように感じた。

> 先行研究 [7] では,Arduino により各電極が陰極と絶縁体の 2 状態に切り替えられたのに対し,本研究では,陽極,陰極,絶縁体の 3 状態に切り替えられる.
[7]を軽く読んだだけだが、[7]は陰極と接地を切り替えられるのでは?と思った。また今回の回路構成に関しては「絶縁(体)」ではなくフローティング(=回路がどの電位にも接続されていない状態)か接地ではないかと思われる。その後も「絶縁」という言葉遣いが何度か出てくるが、おそらくフローティングか接地ではないかと思われる。少なくとも言えるのは、「絶縁(体)」とは電気的な物性を指す用語であり、回路の状態としてそこに電圧がかかったり電流が流れたりするかどうかとは関係がないということである。

この研究をよくするためのコメント

議論の章で、「湿式では色の保持が簡単だが、色の消去や逆の色の提示が難しい」と「液体式では色の消去や逆の色の提示が比較的容易であるが、色の保持が難しい」というジレンマが書いてあったと思います。

もし[7]のようにゼラチン水溶液を混合して利用することが可能なら、ゼラチンの温度変化を利用して色を保持することは可能でしょうか?つまり、書き換えが必要な瞬間だけ温度を上げて電解液を液体にして、保持が必要ならば温度を下げて電解液を固体にするということです。少し論文のストーリーがずれる可能性はありますが、ペルチェ素子があれば可能なので考察やアプリケーションとしては良いかもしれません。


査読者3

総合点

5: ショート採録が妥当

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

電気分解により生じる色変化を利用するディスプレイを提案されています.電気分解ということで昨年の泡ディスプレイと共通する部分もありますが,電解液に応じた2色の色変化を実現でき,転写等の新しい応用例も提案されています.

一方,純粋なディスプレイとしてみると,自由な色を出力できるわけではない,応答性が低い,といった制約も多く,3つの応用例も湿式/水中式のものはこの方式で実現する利点があるのかはよく分かりませんでした.(湿式のものはサーモクロミックでもよさそうですし,水中式のものは昨年の泡ディスプレイとさほど差がないように思います.)

ただし,潜在的には発展性があり,こうした制約も含めて議論する価値のある論文だと思いますので,「5: ショート採録が妥当」と判断しました.

なお,別欄に記載しますが,論文の中に数ヶ所不明瞭な部分があるため,カメラレディで改善を期待したいと思います.

この研究をよくするためのコメント

細かい点も含まれていますが,★の部分は特に改善をお願いしたい点です.

-★ 色変化の設計について.提案システムで提示可能な色の種類や精度について,論文全体に分散して紹介されており,どのように色を設計できるのかが不明瞭です.経験的に増やしているのでもよいと思いますが,現在確認できている色変化を一覧でまとめて頂けると分かりやすいと思います.

-★図3を中心とする電気回路の説明の理解がやや困難でした.特に,図中にN型FET/P型FETは明記するべきです.NラインとN型FETで異なる意味でNを使っているのも紛らわしいので,Nラインという記述を変えたほうが良いと思います.また,電極単体で利用できる例も複数紹介されているので,先に電極の回路(最低限必要な回路)を紹介してから,マトリクス回路を紹介した方が理解しやすいように思います.

-★ 図4で「色をデザイン」とありますが,色は化学反応で規定されてしまうのでデザインできないのではないでしょうか?(陽極側/陰極側で)色を選択,程度が妥当な表現だと思います.

- 図5で「横から観察できる」の意味が良くわかりませんでした.単に「湿式の気温ディスプレイ」の方が分かりやすいと思います.(液体式との比較なのかもしれませんが,横から見えるのは普通なので...)

- 図6の例は,アントシアニンを混合した水をジョウロでかけるということを想定されているのでしょうか?また,毎回にこにこマークが出てくるだけではすぐに飽きてしまい動機付けにはつながりにくいでしょうから,マトリクス回路も利用できるのか一言追記頂いた方が良いかなと思います.(おそらくできるのだと思いますが)

-★ 図9BのARマーカーの例は,輝度差がかなり少ないですが,本当にカメラから認識できるのでしょうか?一言追記頂いた方が良いと思います.

- 食品に転写するような応用もあるので,もう少し安全性について議論された方がよいのではないでしょうか?(全体に少しずつ分散して書かれていますが,大事な点なので議論でまとめていただいた方が分かりやすいと思います.)電解液の安全性,イオン化後の安全性,電極の安全性等...