査読者1

[メタ] 総合的な採録理由

本研究では3Dプリント時における造形時間の短縮とサポート材の消費削減を実現する新しい設計手法 "Pop-up Print" を提案している。設計された物体は必要に応じていつでも簡単に折りたたむことができ、収納性の観点でも優れている。論文の記述も明解であり、いずれの査読者もWISSで議論するべき論文として採録を推薦した。手法の適用範囲や技術的発展性などについて活発な議論ができると期待する。

[メタ] 査読時のレビューサマリ

本論文は3名の査読者に査読されました。アイデアの新規性と面白さ、造形時及び収納時の有用性、論文の記述の質、論文の完成度等について、いずれの査読者も極めて高く評価しています。よって、ロング発表として採録するべき論文としてプログラム委員会に強く推薦します。

一方で、手法の適用範囲についての議論が不明確であることが指摘されています。提案手法はどんなときにも使えるものではないと思いますが、その条件や制約は何か、技術的側面と応用的側面の両方から議論されるとより良いと思います。

技術的詳細の妥当性についても具体的な疑問点等が何点かあがっていますが、既に提案手法の採用している方法で有用性は確認できており、いずれも採録を妨げるものではありません。将来的により技術面で研究を発展させていく際の意見として参考にしてもらえればと思います。

[メタ] その他コメント

総合点

9: ロング採録を強く推す

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

著者らが本文中で指摘している通り、本研究の詳細はUIST 2020で発表された論文に記述されています。以下のコメントは当該論文の記述も踏まえたものになっています。

本研究は3Dプリンタを用いたデジタルファブリケーションにおける新しい手法(Pop-up Print)を提案しています。これは造形時間の短縮とサポート材の消費抑制を目指した手法であり、これらの目標が達成されていることを実例を通して検証しています。3Dプリント時の利点だけでなく、必要に応じて折りたたむことができることにより高い収納性を持つ点も利点です。Pop-up Print実現のための形状変換アルゴリズム、安定性の定義のアプローチ、設計ツールの実装、実例の提示が本研究の貢献であると考えます。

本研究には十分な新規性と面白いアイデアが含まれており、また原稿も明解に書かれており完成度も高いです。WISSの場でアイデアを共有し、議論をするべき論文と考えます。したがって採択として推薦します。

## 提案されている内容の新規性

形状変換アルゴリズム、安定性の定義のアプローチ、設計ツールの実装、実例の提示の四点が本研究の貢献であると考えます。

形状変換アルゴリズムは既存手法の組み合わせ [6, 8, 10] ですが、技術の選定や組み合わせ方は自明なものではなく、十分に大きな貢献であると考えます。

著者らは「双安定性の定式化」を貢献として表現していますが、以下でも指摘する通り「展開された状態から折りたたまれた状態に戻すために必要な応力」(Sec. 4.2)を安定性の定義に用いるというアプローチは面白く妥当性もあるものと考えますが、その具体的な定式化(Eq. 1)は正当性と妥当性に疑問が残るため、Eq. 1自体は他の点に比べて貢献としては小さいと考えます。

## 有用性、正確性

著者らが明示的には挙げていない利点として、アセンブルが不要(一体型のプリントが可能)なことに起因するロバスト性があると思います。

## 論文自体の記述の質

動機、新規性、利点、関連研究との関係性等が大変明確に書かれています。

この研究をよくするためのコメント

Pop-up Printの対象とならない(造形不可能な)例や条件についてより明解な議論があると良いかもしれません。例えばPop-up Printではソリッドなものは扱えず、例えばThingiverseなどからダウンロードしてきたSTLモデルの多くはそのままでは対象とならないのだと想像します。扱えるのは中身を空洞にして問題がないもの、または(厚みのある)thin-shell状のモデルなのだと想像します。

UIST 2020の論文では議論がされていましたが、力の仮定の正当性と妥当性に疑問が残ります。仮定の根拠について「これらのパラメータは違いな独立なため」という記述がありますが、設計変数として独立に設定可能であったとしても、応力への影響について互いに独立と考えることの正当性に関する根拠にはならないと思います。また実験(Sec. 4.3)においてはこの独立性が成り立っている場合にのみ有効な変数のサンプリング(一変数のみを基準から変えるという戦略)を行っているため、妥当性の評価にはなっていない点に改善の余地があると思います。UIST 2020の論文で議論されている通り数値シミュレーションは計算コストの問題がありますが、事前に多様な条件で大量にシミュレーションを行っておき、それを学習データとして(独立性を仮定せずに)回帰問題を解くことで実行時の高速な評価を可能にするというアプローチもありえると思います。

安定性を「展開された状態から折りたたまれた状態に戻すために必要な応力」と定義していますが、実際にはその遷移の過程に必要な最大の力ではなく、展開された状態からある微小量だけ変形させるのに必要な力とする方がより妥当ではないかと思いました。(また「応力」は外力に対して発生するものですので「必要」という言葉遣いはやや違和感を覚えました。)

長期的な利用を想定した場合は、特に展開された状態(応力が発生している状態)を維持した際に発生しうる塑性も安定性に影響があるかもしれません。

設計ツールではユーザの好みを考慮するために対話的なアプローチが取られていますが、現状ではユーザによる探索は機能的な側面に関する部分が大きいと思われます。UIST 2020の論文で議論されている通りですが、機能面において自動的な探索が実現できるとメリットが大きいように思います。その際に、最小限の変形で近似可能なものを発見するなどの評価軸などを取り入れると、よりユーザには把握が難しい部分を支援できるかもしれません。

本研究ではマルチマテリアルの出力が可能な3Dプリンタを想定していますが、微細構造を用いた弾性の制御(メタマテリアル的のアプローチ)によって単一マテリアルで実現できる可能性があると思います。

- Christian Schumacher, Bernd Bickel, Jan Rys, Steve Marschner, Chiara Daraio, and Markus Gross. 2015. Microstructures to control elasticity in 3D printing. ACM Trans. Graph. 34, 4, Article 136 (August 2015), 13 pages. DOI:https://doi.org/10.1145/2766926

UIST 2020の論文では私の思いつく限り重要な関連研究は適切に引用され議論されていました。参考までに、直接的に関連するわけではないが議論すると面白いかもしれない論文を列挙します。

3Dプリントにおける造形時間の短縮及びサポート材の消費抑制を目指した手法:
- Ruizhen Hu, Honghua Li, Hao Zhang, and Daniel Cohen-Or. 2014. Approximate pyramidal shape decomposition. ACM Trans. Graph. 33, 6, Article 213 (November 2014), 12 pages. DOI:https://doi.org/10.1145/2661229.2661244
- Peng Song, Bailin Deng, Ziqi Wang, Zhichao Dong, Wei Li, Chi-Wing Fu, and Ligang Liu. 2016. CofiFab: coarse-to-fine fabrication of large 3D objects. ACM Trans. Graph. 35, 4, Article 45 (July 2016), 11 pages. DOI:https://doi.org/10.1145/2897824.2925876
- Xuelin Chen, Hao Zhang, Jinjie Lin, Ruizhen Hu, Lin Lu, Qixing Huang, Bedrich Benes, Daniel Cohen-Or, and Baoquan Chen. 2015. Dapper: decompose-and-pack for 3D printing. ACM Trans. Graph. 34, 6, Article 213 (November 2015), 12 pages. DOI:https://doi.org/10.1145/2816795.2818087

展開状態と収納状態を持つ物体の設計:
- Yahan Zhou, Shinjiro Sueda, Wojciech Matusik, and Ariel Shamir. 2014. Boxelization: folding 3D objects into boxes. ACM Trans. Graph. 33, 4, Article 71 (July 2014), 8 pages. DOI:https://doi.org/10.1145/2601097.2601173

弾性体の変形によって二状態を遷移する物体の設計:
- Li-Ke Ma, Yizhonc Zhang, Yang Liu, Kun Zhou, and Xin Tong. 2017. Computational design and fabrication of soft pneumatic objects with desired deformations. ACM Trans. Graph. 36, 6, Article 239 (November 2017), 12 pages. DOI:https://doi.org/10.1145/3130800.3130850


査読者2

総合点

9: ロング採録を強く推す

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

本論文は3Dプリンタの出力の際に、折り畳み可能な造形手法を提案している。

折り畳み可能であり、安定している形状をデザインするという新規性に加えて、
数時間もかかる長い造形時間の短縮、サポート材消費量の削減、折り畳み式による持ち運び、収納といった面への貢献、有用性も信頼できる。

論文としてもとても明確に記述されており、クオリティが高い。
昆虫の外部器官の作り方に着目したというユニークな発想はとても興味深い。

以上の点から総合して、WISSでの採択を強く推したい。

この研究をよくするためのコメント

先細り形状限定という限られた中でも、図9のようにバラエティに富んだ結果を提示できている点は貢献と思います。
Stanford Bunnyでは、おしりの部分のみ分割ができた、ということでしょうか。

先細り形状になるよう、入力した3次元モデルのサーフェスをある程度(数%)であれば変化させてもよい、という条件を加えれば、もっと造形時間の短縮やサポート材消費量の削減ができるような気がします。

また、持ち運びやすくなる、しまっておきやすくなるという点もメリットだと思います。
ポップアップしたときのConvex Hull と、畳んだときのConvex Hullの差を体積として比較したりすることで、持ち運びやすさの比較であったり、突起になっている部分の持ち運び時の損傷を防ぐ、といった方向性にも貢献できそうです。


査読者3

総合点

8: ロング採録が妥当

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

本論文では、入力モデルを「折り畳み可能なモデル」に変換することで、3Dプリンタの印刷を効率化する方法を考案しています。(すでにUIST2020に採択された研究内容ということもあり)研究の目的が明確かつ、研究のクオリティが十分に保証されているため、ロングトーク発表に値する研究だと思います。

<提案されている内容の新規性について>
1) 折り畳む方向や折り畳みたい領域を全て、自力で設定するシステムとなっていますが、論文全体を見る限り、シンプルな形状しか扱えないように思いました。例えば、結果の絵が全て三角錐の形状に近いものばかりを扱っていますが、もっと複雑なモデル(例:胸像や動物、人間のマネキンなど)だとどうなるのでしょうか。また、アルゴリズムの部分ですが、zippable optimization等の処理で developabilityが保証できるのかについても議論しておくべきです -> コメントの欄。

2) 3D形状処理回りの関連研究が不足している印象かつ、技術自体は既存手法の組み合わせにすぎないため、アルゴリズム的な新規性は少ない印象でした。なので、以下のコメント欄を参考に、理論武装もしてもらえると良いかと思います。

3) 測定による双安定性の評価はある程度の新規性があり、関数フィッティングを行うことで、ほかのモデルにも適用可能な形にしている点が面白いと思いました。但し、関数フィッティングした結果が、ほかのモデルにどれだけ適用できるのかを数値評価する必要はあると思います。


<有用性>
ファブリケーションには共通の評価方法がないため、今回は多数の印刷結果を示す + 耐久試験で有用性を示しています。シンプルなモデルばかりですが、ある程度の有用性を示していると思います。


<論文自体の記述の質>
研究の目的が明確かつ、目的である「材料の削減」を示している点で一貫性の取れた論文だと思います。

この研究をよくするためのコメント

3D形状処理回りの関連研究が不足している印象かつ、技術自体は既存手法の組み合わせにすぎないため、アルゴリズム的な新規性は少ない印象を持ちました。なので、(もし今後続ける研究であれば)よりグラフィックス系の論文の調査と評価方法を参考にしていただければと思います。

1. pop-up designについて
(繰り返しになりますが)折り畳む方向や折り畳みたい領域を全て、自力で設定するシステムとなっていますが、論文全体を見る限り、シンプルな形状しか扱えないように思いました。

例えば、折りたたむ方向に対して、Under-cutやOverhang領域が存在する場合、形状自体を折りたたむことができません (以下の論文[1,2]でも議論されています)。これらの論文は、あくまでもmoldのファブリケーションの研究ですが、評価関数等はある程度参考にできるのでは?と思います。一例ですが、インターフェース上に、評価関数を基に「このままだと設計できないことを提示する機能」「自動最適化機能」を搭載することで、より面白いものになると思います

[1] Oded Stein et al. "Interactive Design of Castable Shapes using Two-Piece Rigid Molds." Computers & Graphics 2019

[2] Nakashima et al. "CoreCavity: Interactive Shell Decomposition for Fabrication with Two-Piece Rigid Molds" ACM Transactions on Graphics (SIGGRAPH 2018).

また、複雑な形状を折り畳み可能なものにする場合、オリジナルの形状を変形する必要があると思います。過去に、3Dモデルを「折り畳み可能な形状」に変換するアルゴリズム[3]が考案されていますので、これらも調査するべきかなと思います。(上記に挙げた論文[1,2]でもoverhang, under-cut領域を減らすために、メッシュ変形処理も行っています)

[3] Miyamoto et al. Semi-Automatic Conversion of 3D Shape into Flat-Foldable Polygonal Model, Computer Graphics Forum 2017.
http://www.cgg.cs.tsukuba.ac.jp/projects/2017/pg_project_miyamoto/project/index.html


2. 可視化機能について
pop-up cardデザインの研究(制作した形状が折りたためるのかどうかを可視化する機能)にて、似たような思想の論文[4]があるので、それらも参考文献に加えるとよいと思います。

[4] Iizuka et al. "An Interactive Design System for Pop-Up Cards with a Physical Simulation" CGI 2011


3. 可展面制約
今回は「可展面にするための処理」として、zippable optimizationを使用していますが、(私の知る限り)この手法はヒューリスティックで、今回の目的に適切なのかを判断できませんでした(オリジナルの論文では、境界間をチャックでつなぐことを目的とし、切り込み部分の判定やその他の工夫をしていました。それらを統合した上での新規性だと解釈しています)。今回の目的に適切なのかどうかについて、すこし深い議論が必要だと思いました。

例えば、処理前と処理後でdevelopabilityが「どの程度向上したのか」です。
- 処理前の形状がある程度折りたためそうな形状していますが、本当に折りたためない形状だったのか?を数値的 or 図として示す必要があると思います。
そもそも折りたためるモデルに適用した例を出しただけの印象もあるので。
-> 処理前は実際折りたためる形だったのか or notの議論。
- 処理後に対象のオブジェクトが「必ず折りたためる形状になる」ようになる保証はないと思います。なので、「developabilityが処理前の数値がいくつなのか、処理後にいくつになったか」「処理後は折りたためる状態なのか」を数値的(例:グラフ)に示したうえでの議論も大事だと思います。裁縫系の論文では、こういった議論があります。


4. 制約について
zippable optimizationのほかにも、可展面制約最適化はいくつもあります。形状処理の研究の場合は、その他の制約(laplacian constraint, angle-based constraint、as-rigid-as possible flattering)などの中で、なぜこの手法に行きついたことを議論してほしいです。今後この手法を用いた理由についても議論できるとより良いと思います。