査読者1

[メタ] 総合的な採録理由

作業机の上の部品や工具をさりげなく整理するシステムを実現するために,電子部品や工具が磁性体である点に着目し,机の下の磁石を制御することによって物を移動させる手法を提案している.「さりげない」というコンセプトの明確化と,技術的妥当性に関しては更なる議論が必要なことから,ショート採録と判断された.

[メタ] 査読時のレビューサマリ

査読の結果,ショート採録(採録条件あり)と判定します.
本研究は,作業机の上の部品や工具をさりげなく整理するシステムを提案しています.電子部品や工具が磁性体である点に着目し,机の下の磁石を制御することによって物を移動させるという手法を用いています.
本研究のコンセプトとして「さりげない整理」を行うことが掲げられていますが,その定義についてはもう少し掘り下げ,明確にする必要があります.また,実用的なシステムを目指すのであれば,提案手法の技術的な妥当性についても議論すべきです.

以下の採録条件を満たすよう,加筆修正を行ってください.
(1) 「さりげない整理」の定義について,査読者からのコメントをよく読み,明確に記載してください.特に,「さりげない整理」を実現するために,ロボットハンドなどの既存手法ではなく,提案手法を用いる必要がある理由について記載してください.

(2) 6.1・6.2節の応用例に関しても,「さりげない」をコンセプトとしているのか,その場合はどのような点が「さりげない」のかについて明確にし,説明を加筆してください.

(3) インダクタンスを持つ回路や部品を扱う作業机には適用しにくいことが査読者から指摘されています.7.4節では,磁力による影響の考慮について書かれていますが,この対処法だと提案手法では磁力による影響を受ける部品は動かせないことになります.このように提案手法では使用条件が限定されるという点を考慮した上で,改めて技術の妥当性や改良案,想定する利用場面について論じてください.

[メタ] その他コメント

総合点

6: ショート採録を強く推す

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

新規性:
電子部品や工具が磁性体であるという点に着目し,磁力によって机上の整理整頓をするアプローチは興味深い.関連研究については十分に調査されているように見えるが,本研究との差異は明記されていない.

有用性・正確性:
机上の整理以外にも電子工作の支援や掃除などの様々な応用可能性を示していることから,一定の有用性がある.本稿ではプロトタイプを用いて性能を評価し,今後の改良案について議論されているように,技術的にはまだ改良の余地がある.

論文自体の記述の質:
わかりやすく明確に書かれている.

この研究をよくするためのコメント

コンセプトが面白く,興味深い研究だと思いました.

2章では,関連研究についてまとめられていますが,それらと比較した際の本研究の新規性については読み取れなかったため,既存研究と本研究との関連性や差分についてはもう少し詳しく記述してほしいです.

既存の作業机を拡張することを前提に,プロトタイプを実装していますが,実際に他の机にもこのシステムを適用可能であるのかは分かりませんでした.また,実際の電子工作環境での運用を通してシステムの効果検証を行う点について,具体的にどのようなことを検証するのかも気になりました.WISSでの発表の際は是非,本実装に向けた計画や,実際の作業環境での評価手法について議論させていただきたいです.


査読者2

総合点

4: ショート採録に反対しない

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

「さりげない整理」というコンセプトを実証するためのデバイスの提案として本論文の価値は十分にある。詳細について報告して欲しいとともに、そのコンセプトについてより掘り下げた議論が潜在的には期待できる。

ただ、コンセプトの根幹にある「さりげない整理」の定義が不十分で曖昧模糊としており、それ故研究全体の新規性が十分に判断できない。これをはっきりさせない限り、有益な議論は期待できない。

例えば7.3節で述べているように、ユーザが離席したタイミングで片付けるのはたしかに「さりげない整理」に該当するようだが、それだと3.2節で言及されているような、机に備えつけられたロボットハンドや小型群ロボットによる整理でもやはり「さりげない整理」に該当するように思える(ユーザーは整理の過程を意識しない)。もし「さりげない整理」の概念がそのようなものであるとするならば、それを提案手法で実現しようがロボットハンドで実現しようが変わらないはずであり、研究における提案手法の必要性は薄れてしまう。

一方で例えばユーザーが着席し作業している間、ユーザーの視線が届いていない範囲をこっそり整理する、という意味であれば、あるいは提案手法の優位性を示す応用であるかもしれないが、これも程度問題という気はする(周辺視野であればロボットハンドが整理してもたいして気にならない、とも考えられる)。

「さりげない整理」のコンセプトを明確にするために、たとえば人間の助手が傍らにいてちょいちょい片付けてくれるようなのは「さりげない」に入るのか、それとも「さりげない」はそうした動く部位の存在とは関係ない軸の話なのか、まずはそこを明確にされたい。

一方で、机の下からの操作は、ユーザーの作業と協調しての物品の移動が可能である、という利点がある。すなわち、机上で忙しく動くユーザーの手を邪魔することなく物品を駆動できる。この点に絞って議論するのであれば(議論していたつもりであれば)、たとえば空間的記憶やワーキングメモリ、cognitive map との関連性を議論することができよう。7.3節で言及している「ユーザが不快に感じる」はこれに関連するだろう。

6.1・6.2節で議論しているのは「整理」を超え、「支援」に属する議論と思われるが、こうした支援は「さりげなく」行うべきかどうかは疑問が残る。むしろ「私が光らせていますよ」「私がちゃんと支えていますよ」という明確なメッセージが必須ではないか。これらを議論に混ぜてしまうのは、「さりげない支援」というコンセプトから離れ、今回構築したデバイスに引きずられた提案になってしまっている。

以上、論文の軸となる主張を明確化された論文を期待したい。

この研究をよくするためのコメント


査読者3

総合点

5: ショート採録が妥当

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

個人的には、とても使いたいと思いましたが、以下の懸念点があると思われます。

(I)回路がインダクタンスを持つ場合
磁性を使って道具を動かすことには
少し抵抗があります。論文にも触れられていたように、
もともと磁性を持っている場合は良いが、電磁波などのインダクタンスを扱う場合
磁石ありきの作業台を使うのは抵抗があります。
特に、コイルを使った実装で、相互インダクタンスに影響がないことを
どうやって保証するのかが分かりませんでした。

また、部品にも当然、インダクタンスをもつものがあり、部品が
壊れないかも心配です。

ということで、本手法の提案は、インダクタンスを使わない回路限定になると
考えられます。

(II)工具が磁化される場合
(I)と同じ議論ですが、工具が磁化されてしまうと、インダクタンスをもつ回路に
その工具は使えなくなります(特性が変化するので)

この研究をよくするためのコメント

(I)マジックアームとの比較
マジックアームの価格が下がってきているので、本ソフトをマジックアームで稼働させること
は可能ではないか?