査読者1

[メタ] 総合的な採録理由

動画教材やPDF教材に連動して、遠隔地にいる学習者の手元にあるマイコンが動くというシステム面での新規性は大きいです。また有用性の可能性も感じられます。ただし、その検証は行われていません。しかしながら、WISSの査読方針としてユーザ実験は必須ではありません。また、フィジカルなデバイスであるマイコンの遠隔教育というとても重要かつチャレンジングな課題に取り組んでいます。 本研究のシステム面での新規性と、今後更に有用かつ実用的なシステムの構築を進めるための議論をWISSで深めるためにも、ロング採録が妥当であると判定されました。

[メタ] 査読時のレビューサマリ

本論文は4名の査読者に査読され、査読スコアは5(メタ)、4、5、4でした。 査読者3人が研究の新規性と有用性を認めていますし、またもう1人の査読者も本研究が面白いと評価をしています。一方、論文にも記述されているように、本システムの教育効果が未検証であり、また、実用化に向けて色々な課題が残されています。ただ、その分、議論すべき話題がふんだんにあるので、ロング採録に相応しいと判定しました。 なお、現在の論文には、論文としては幾らか粗い記述があるので、カメラレディを作成する際には、査読者(R132とR120)からの指摘にご対応ください。

[メタ] その他コメント

「視聴者のデバイスに関する理解度の上昇やモチベーションの向上といった効果」など、「初学者にどのような教育効果があったのかを明らかにする」ユーザテストが示されるととても良い国際会議論文や雑誌論文になると思われます。

総合点

5: 採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

マイコンを使ったIoT機器のプロトタイピングのオンライン学習を支援するためのシステム「IoTeach」が示されています。IoTeachでは、動画やPDF化されたスライド等の教材(筆者らによると、順序型コンテンツ)と学習者の手元にあるObniz系マイコンを連動させることが可能となっています。仕掛けとしては、学習者の手元で実行される「閲覧アプリ」において、順序型コンテンツの時刻や遷移に対応したスクリプトが教材と同期して実行させるようになっています。また、マイコンの挙動に合わせてソースコードが表示されます。これらの機能によって、学習者は教材を閲覧しながら、その振る舞いを手元のマイコンの動作と、連動して表示されるソースコードとを見比べながら、理解しやすくなっています。なお、閲覧アプリに加えてこれら(スクリプトと、マイコンの挙動に合わせて表示されるソースコード)を書く作業を支援する「作成支援アプリ」も実装されています。 なお、「順序型コンテンツ」という表現は初めてなのですが、この表現は現在のシステムの制約(行ったり来たりできない)をうまくカバーしている表現となっていて巧妙なネーミングとも言えそうです。 ・新規性 システムとその構成法の新規性は充分にあると思われます(ベストペーパー候補レベル)。 ・有用性、正確性 システムの実証実験やラボ実験がないのでシステムの有用性は未検証です。特に、実環境で学習者に使って貰った時に安定して使えるのか不明瞭です(何が起こるのか、予想がつきません。教材が不可逆ならうまく行きそうに思われます)。その点で本研究は萌芽的な研究と言えます。 ただし、ハードウェアを含むシステムのオンライン学習は難しいですが、この極めて重要な課題に対してその解決に近づく仕組みが示されている点で、本論文の有用性は極めて高いです。また、課題の達成のための技術としても、未完成ですが、妥当に思われますし、論文では色々な可能性が論じられています。 まとめると、本論文で示されている技術は逆に完成形でないだけにWISSというワークショップの場に相応しく、WISSで発表して頂き、それに基づいて参加者で今後の可能性を議論することは今後とても役立ちそうです。 ・論文自体の記述の質 やや内容の記述に不自然な箇所や、推敲すべき箇所があります。これについてはカメラレディ提出までに直して頂くことを条件とした方が良さそうです。
- 採録の条件
以下に示す「指摘(主張に関するもの)」に対応すること。 ==指摘(主張に関するもの)== 1. 動画版の実装に使われている srt.js は既発表の文献があるので、これを引用してください(他に妥当な文献があるならそちらを引用するのでも構いません)。 栗原一貴, 橋本美香. srt.js: 映像コンテンツへのIoT指向拡張プロ グラム埋め込みフレームワーク. WISS 2016 予稿集, 2016年12月,7 ページ. 2. 概要にある「Arduino やRaspberry Pi などのIoT デバイス」という表現は行きすぎに思われます(ArduinoはIoTデバイスではないですよね)。一方、「はじめに」にある「IoT 機器のプロトタイピングを支えるArduino,Raspberry pi,M5Stack」という表現は自然です。なので、こちらに統一してはいかがでしょう?(論文全体で点検する必要がありそうです) 3. 「埋め込む」という表現は、現実装からはかけ離れているように感じられます。というのも、「埋め込む」という表現からは、動画ファイルの中やPDFファイルの中に含まれているという印象を持ちます。しかし、現実装ではそうはなっていません。そのため、現在の論文ではこの表現を引っ込めた方が良さそうです。ただ、動画ファイルやPDFファイルにスクリプト等を埋め込むことは技術的には可能だと思われます。例えば、PDFならそういった情報をページに付けられたコメントやPDFそのもののメタデータとすれば良さそうですし、それは動画についても同様に思われます。そういったことを論文後方に述べると良さそうです。
- その他
==指摘(内容)== 1. 図1について「…トやソースコードをユーザが自力で参照する必要があり,学習プロセスとしてみるとギャップがあった(図1).」とあります。ただ図1の読み方がいまひとつ説明されつくされていないせいか、現在は図1が無くても論文の可読性は保たれそうです。なので、スペース不足の際には図1のスペースを他の説明に使う手がありそうです。 2. (4.3節)「タイムラインは動画の時間軸と対応しており,タイムライン上の任意の箇所をダブルクリックすることで,動画の経過時間を自動的に挿入したコードブロックを作成できる.」とありますが、ユーザはダブルクリックという1操作を行うと、経過時間が定義できるというのは正しいでしょうか。経過時間というと、開始時刻、終了時刻というふたつの時刻から構成されるものなので、何かしら2操作が必要に思われます(あるいはドラッグ操作でも良いのかもしれません)。 ==指摘(その他)== 1. 全角と半角のカンマ、ピリオドが混在しているかもしれません。点検してください。 2. 用語揺れがあるように感じました(使い分けているなら良いのですが)。特に気になったものは以下です。 講師、教師 生徒、学習者 点検の上、統一するか使い分けているならそれが分かるように書くと良いと思います。 3. Youtube -> YouTube 4. (4章)「3.3 章で述べたとおり」-> 3.3節で… (4.1節)「次章で紹介する動画...」 -> 次節で… 5. (4.3節)「最後に,「アップロード」ボタンを推すことで,」-> …押す… 6. (4.4節)「なお,アップロードされたPDF / JavaScript / CSV は」ですが、これまでスラッシュの前後には空白文字を入れていないようです。 7. 5.1節(特に、第1段落)を推敲してください。「まず,コンテンツを作成するにあたり,基本的な撮影方法を検討した.通常,システム利用中の様子の2 種類の撮影方法でコンテンツを作成した(図11).」という記述が分からないです。また「1点目」と「2点目」が何を指すのか大分考えてから分かりました(前者、後者としてはいかがでしょう?)。それから、数カ所に現れる「動画」という用語が指す物が何かをその都度明示すると良いと思われます。

この研究をよくするためのコメント

1. 「IoT学習支援システム」という表現がやや広すぎるかもしれません(完全に間違っているとも言えないのですが、ズバリという感じでもないです)。 2. 「一連の処理を行うコードをまとめて表示する.」ために「ユーザにコードを提示する場合は実行用/表示用で2 度同じコードを書く必要があるため冗長であると感じた.」という感想があります。一方、その手動記述ています。そのため、ある意味、自由度が高くなっていて、関連するひとまとまりのコードを一度に表示したり、一行一行表示させることもでき、またマイコンを動作させるコードとは別の情報(文字列)も追加できそうです(こちらから例を示せると良かったのですが…思い付かないです)。もっともこの手の情報は動画に含めた方が良さそうなので、恐らくは著者も述べているように対象コードの自動抽出が行えるようにするのが将来目標として重要そうです。特に、実際にコードを動かしているので、その情報を処理系から貰えると楽ちんそうですが、一方でプログラムを静的解析することによって同様の情報を取得する手もありそうです。これについては例えばソースコードの slice を抽出する技術(slicingと呼ばれます。古典的な文献として以下のふたつを挙げます)を何か工夫して使えるかもしれないと思いました。 - S. Horwitz, T. Reps, and D. Binkley. Interprocedural slicing using dependence graphs. TOPLAS, 12(1), 1990. - M. Weiser. Program slicing. TSE, SE-10(4), 1984 ただ、この手法がスケールするかどうかは不確かです。なので、実は現在の方式が最適解になっている可能性もありそうです。


査読者2

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

1: 専門外である

採否理由

動画やスライドなどのコンテンツと連動して動作するIoT教育用のシステムは新規性があり、技術的な説明も正確であるため「どちらかと言えば採録」とした。初学者にとって、動画や本などの資料で説明されていることが、手元のデバイスで動作することは理解を助けると考えられるため、有用性にも期待できる。 一方で、議論でも説明されている通り、本システムの利用によりどのような教育効果があったかについては今後の課題となっており、実際の有用性を議論することはできていない。WISSの査読方針として、ユーザ実験は必須ではないため、本研究のシステム面での新規性を考慮し上記評価とした。 会議での発表ではライブデモを交えたプレゼンテーションに期待する。

この研究をよくするためのコメント

初学者にどのような教育効果があったのかを明らかにすることが重要だと考えます。また、初学者が独学で勉強した場合の閲覧行動を観測することで、よりよいコンテンツの提供方法が議論できるかと思われます。 軽微な点 (図11)が存在しない


査読者3

総合点

5: 採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

提案手法には,新規性および有用性が十分にあると認められ,記述の質にも大きな問題がないことから,採録と判断しました.また,提案システムそのものだけでなく,コンテンツ作成支援アプリまで実装していることも高く評価できます. 論文内では,有用性の確認まで行ってはいませんが,有用性について高い効果が期待されると査読者は感じました.さらに有益なシステムの構築を進めるために,是非WISSの場で議論を深めていただきたいと思います.

この研究をよくするためのコメント

論文の記述についてのコメントです.概ねよく書けていますが気になる部分がありました.論文内6ページ左カラムのコンテンツの撮影方法に関する記述です.2種類の撮影方法の説明がありますが,両者がどのようなものなのか,なぜそれぞれの問題を抱えているのかがわかりませんでした.是非記述を見直すようにしてください.図11→図10のタイポもあります. また,デモ動画もわかりにくかったです.査読者はデモ動画を見たあとに論文を読み,再度デモ動画を見ました.最初動画を見たときには,本研究の目的がよくわからず,この研究の良さが理解できませんでした.2度目に動画を見たときには,誰のどのような状況での音声なのか,どのような状況なのかすぐにはわからず,混乱しました.おそらく動画は学生側視点での動画であり,音声はオンライン動画から流れてくる教員の声ですよね.そうであれば,それがわかるようにしておくと,より良くなると感じました.

査読者4

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

動画に従って、実機が動作するのはとても面白いと思うが、 実機が動作しなくても、学習効果は変わらないと思われる。 なぜなら、コードの仕組みと動作例は動画内容だけで十分理解でき 実機が動作することでコードの仕組みの理解が変化するとは考えられないからである。 学習をするという観点でいうと、動画で動作を提示した後、動画の再生を一時停止し、 学習者がコードを試して動作の理解を深めることが重要である。 「IoTプログラミング学習支援システム」とタイトルが述べているとおりに 支援システムまで言うのであれば、ただのコンテンツ提示ではなく 実機でのコードの動作確認までをおこなうべきである。

この研究をよくするためのコメント