査読者1

[メタ] 総合的な採録理由

合気道の指導でよく行われる、「球を取るように」のような比喩的な身体動作指導をMR環境で実現したものである。新規性のあるシステム提案を行っており、荒削りではあるが、本ワークショップにおいて議論に足るものである。以上の結果から、ショート採録と判断された。

[メタ] 査読時のレビューサマリ

本当に有用かどうかの判断が難しい段階の研究ではありますが、新規性の評価は全査読者で一致しており、本ワークショップにおいて議論に足るものだと判定されました。ぜひ査読者のコメントをお読みいただき、下記の項目のような疑問について答える記述の加筆などをお願いします:
・思想的/著者の感想と捉えられかねない箇所への適切な文献引用
・提案手法のデザインパラメータの必然性(ボールの大きさや色など)の補強
・指導上用いている比喩の適用範囲のlimitationなどについての議論
・「身体技能獲得効果の予備的検討」の教示条件についての詳細

[メタ] その他コメント

ぜひ、体験で伝えやすい部分をデモ発表で補ってください。

総合点

5: 採録

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

合気道の指導でよく行われる、「球を取るように」のような比喩的な身体動作指導をMR環境で実現したものである。提案には十分な新規性がある。 (本査読者は比較的長い合気道経験があるが、その立場からしても妥当な提案であると判断される。) 小規模な体験機会を設け、参加者からのフィードバックを得ている。著者らも述べているように効果は限定的であり、詳細なユーザスタディが望まれる点で、有用性は多少弱い評価となるが、荒削りなシステム提案を積極的に扱うWISSの精神からすれば、過小評価すべきではないと考える。 実装されたシステムはHoloLens2で実現できることが容易に想像でき、技術的限界についても正しく記載されていると思われるため、正確性は高い。 論文記述の質も問題ないと思われる。 以上より、「5採択」と判断した。

この研究をよくするためのコメント

(1) イントロダクションでは合気道の基本的精神や効用等について述べられている。私も合気道を嗜む者として個人的には基本的に同意するものであるが、論文として書くには自明ではなく、客観的検証が必要だと思われる箇所や、ユニバーサルな同意が必ずしも得られなそうな思想的な箇所が散見される。適切に論旨を補強する参考文献を引用しつつ論じたほうがよいだろう。 例: P1左カラム: 「守っていかなければならない日本の大事な文化の一つである」(思想的なので、そう示している文献を引用するほうが無難) 「~ことが合気道の魅力である」(筆者の感想と誤解されかねないので、そう示している文献を引用するほうが無難。) P1左カラム第二パラグラフ: このパラグラフについては武田流中村派合気道の具体的な指導精神が色濃く反映されているので、当該流派の指導書等を引用することを強く勧めたい。 (2) P2右カラム:「指導者に1対1で~短くなってしまっている」のところは文章が冗長である印象を持った。整理されるとよいだろう。 (3) P3左カラム:「一人で自律的に学習できない」としているが、提案システムも同様であろう。「指導者のない環境で(仲間と?)自律的に学習するということができない」のような表記のほうがよいかと思った。参考まで。 (4) 球などをMR的に表示しても、それ単体では「この球を触るように試みてください」ということをユーザに示せるアフォーダンスは乏しいと思われる。したがって、MR提示と合わせて、「この球を触るように試みてください」のような言語的なインストラクションを筆者は併用していると思われる。この点はシステムの運用方法として重要なポイントなので、加筆されることを勧める。 (5) 4章の予備的検討における参加者からのフィードバックにも示されていることだが、本研究の本質は、現場でよく用いられている比喩的な身体動作の指導を比較的シンプルにMR環境で実現することによる効用の獲得にあると思われる。 実際に行う動作とは違う目的をユーザに提供することで、通常とは異なる機序の身体運動を誘発することを期待している。しかしこの比喩も近似であって、限界があるのは自明のように思われる。たとえば「押す」例では手を前に動かすことを誘発するわけだが、それに合わせて適切な姿勢の範囲を維持しつつ前方に歩かなければ、だんだん姿勢が悪くなり破綻し、効果的な力の運用ができなくなっていくだろう。おそらく実際は、手については本システムの支援を受けるが、姿勢や運足についての基本戦略は別途言語的指導等により補われているのではないだろうか。 提案システムの効用はたしかにあると思われるので、それをより明らかにするために、まず、以下を切り分けて論じられるとよいだろう。
・そもそもの言語的比喩による教育の限界
・言語的比喩をVR表現した場合の教育の限界((4)で指摘したことも含まれる) 次に、その限界がどこにあるのかについて、以下の範囲を検討するとよいだろう。
・身体運動を構成する体の部位のどこまで比喩が影響するかという範囲
・対応できる習熟度の範囲
・比喩の解釈の個人差の範囲
・たとえば「押す」運動であれば、初動からどのくらいの時間的推移まで有効か、という範囲


査読者2

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

本研究では、合気道の「押す」「上げる」「倒す」「下げる」といった動作を練習するために、MRでボールや棒の可視化するシステムを考案しています。近年、スポーツの練習支援に関する研究やツールが多数考案されていることからも、本研究のモチベーションに同意できます。また、人間の骨格や加速度情報などを直接可視化するのではなく、「比喩表現」に着目している点に新規性があると思います。 しかしその一方で、(私自身が合気道の未経験者なので)この比喩表現が一般的なものなのかが判断できませんでした。例えば、合気道部での実験の際には、比喩自体に違和感を感じる方(おそらく有段者?)もいたので、本システムで可視化した比喩表現がどの程度一般的なものなのか、を示した方がいいと思います。もし調査済みでしたら、それらに関する記載をお願いします。もし調査がまだの場合、合気道経験者(有段者)に動作に対する比喩表現のアンケート調査を事前に行い、「何種類の基本動作を可視化するべきか」「各基本動作に対し、どの比喩表現が一般的か」を決定すると良いと思います。 また、可視化されるボールの色(例:「押す」には青、「上げる」には紫)やボールの大きさ、配置場所、棒状のオブジェクト(「下げる」動作用)の長さ、直径をどのように選んだのかの根拠が記載されていません。例えば、ボールが大きすぎれば使用者の目線で、相手が見えなくなってしまうものの、小さすぎると見づらくなるなど。現時点ではとりあえず適当なサイズ、色を選んだようにも感じるため、これらについても説明があったほうが良いと思います。 また、本稿で記載されているように、数値的な評価実験は実施されていません。今後の課題として「練習によって上達したか」を評価する方法を模索することを書いていますが、現時点で評価できる内容も実施していない点が気になりました。例えば、システムのユーザビリティやタスクの負荷を計測するためのSUSやNASA-TLX、プロの合気道選手(有段者?)に対するシステムの詳細なフィードバック(4.1章のようなざっくりとした意見ではなく、可視化のどういう点が良かったのか、悪かったのか等)をより正確にまとめたほうが、本システムの有用性が理解できると思いました。

この研究をよくするためのコメント

現原稿では、システム設計における妥当性や評価実験がありません。この状態でワークショップや試験導入したことを報告しても、説得力がないのではと感じました。この研究に興味を持った読者が、スポーツ支援の研究を始める際に参考にしづらいのは非常に惜しいと思うので、可能な限り根拠となる説明・調査結果などを記載してほしいと思います。


査読者3

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

本研究は、合気道独自の身体の感覚をユーザに体験させることで合気道の身体の使い方の学習を支援するMRソフトウェア「Gino .Aiki」を提案しています。Hololens 2越しに仮想オブジェクトが提示され、それを掴みにいくように動くなどすることで、合気道の身体の使い方が学習できると著者らは主張しています。 ポジティブ: 本論文は、よく書かれており内容の把握は容易でした。 またシステムについての説明もわかりやすかったです。 比喩表現を視覚的に表現して動作の学習を支援する方式は確認されず、新規性も認められます。 ネガティブ: ワークショップ等を通してポジティプなコメントを得られていますが、著者が述べている通り定量的な評価は実施されておらず、有用性については疑問が残ります。 一般の方向けの体験会においては、従来手法と提案手法のどちらも体験しているため、提案手法によって「折れない腕」の感覚をはじめとする感覚を掴むことができたのかは判断できないように思います。 以上より、提案の新規性や正確性は認められますが、有用性については疑問が残るため「4: どちらかと言えば採録」と判断しました。

この研究をよくするためのコメント

- 半角数字と全角数字が混じっているようです。
- 関連研究が事例の列挙に留まっていることが多く、もう少し適切に引用しながら本研究との共通点や違いについて述べられるとより良いかと思いました。
- 予備検討時の体験中の動画やインタビュー動画などあれば発表の際に紹介していただきたいです。
- >そのボールを取ろうとするときの人間の身体の使い方が「折れない腕」や「腕の張り」といった合気道の身体の使い方に酷似しているため - 上記の比喩表現がなぜ酷似していると言い切れるのか、そもそも「折れない腕」などはどのような状態なのかもう少し詳しい説明があると、読んでいる際に納得しやすいかと思いました。 - その他習得の際にさまざまな感覚と似ていると主張していますが、その辺りが予備検討の結果等をベースに主張した方が良いのかなと思います。
- 「Analogy instruction」は、本手法で使われている手法の説明と近いかもしれません。関係がありそうな論文を記載しておきます。参考までに。
- Bobrownicki, R., MacPherson, A. C., Collins, D., & Sproule, J. (2019). The acute effects of analogy and explicit instruction on movement and performance. Psychology of Sport and Exercise, 44,17--25.
https://psycnet.apa.org/doi/10.1016/j.psychsport.2019.04.016
- Zacks, O., Friedman, J. Analogies can speed up the motor learning process. Sci Rep 10, 6932 (2020). https://doi.org/10.1038/s41598-020-63999-1

査読者4

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

新規性: 合気道にて言われている比喩表現に着目し、MR技術を用いて表現を可視化し、わかりやすくしている点に新規性がある。 査読者自身も合気道の経験者であるが、口伝や見本、手取り足取りで「体の動かし方」自体はわかるものの、最後に技を”効かせる”ためのニュアンスは何度も練習し、会得したと体感するまで分からず、他者に伝えることが難しいという点で共感した。 有用性: また、合気道習熟者や一般の方、労働現場の作業員といったコンテキストの異なる被験者を対象に実験し、使用感を評価している点、実際に会得した被験者が多いという結果が研究ビジョンの有用性を示している。 論文自体の記述の質: 十分に分かりやすく書かれている。
問題点: 一方、従来の口伝によるレクチャーとの比較において、従来手法の後に提案手法を体験したとあるので、実験の順序効果が十分に打ち消されるものであったかが疑問である。

この研究をよくするためのコメント

採択された場合には、発表当日にはデモも実施してほしい。論文や発表で見るのと、体験するのとでは大きく違いそうである。 今回はボールを追いかける動作、指が長くなった感覚を比喩表現として用いていたが、例えば冒頭に述べていた食べ物を口に運ぶ時と同じ力の使い方がどのようにMR上に実装されるかなど、他の比喩表現をどのように表現すると良いかアイデアを述べると、より議論が捗りそうだと感じた。