査読者1

[メタ] 総合的な採録理由

すべての査読者のスコアが4であった。提案システムはターゲットユーザへのインタビューに基づいており、要求を明らかにしたうえで設計をしている。システム評価について、視線推定のみに注目し、技術的な基礎精度評価と、ユーザ評価を行い、ある程度の有用性が示されている。一方で、ターゲットユーザを対象とした実験は実施されていない。上記の理由から、ショート発表での採択とした。

[メタ] 査読時のレビューサマリ

車椅子ユーザとその補助者と周囲の人という関係に着目してシステムを構築していることは興味深い。そのために全周囲カメラとお椀型ディスプレイを組み合わせており、有用性が高そうに思われる。一方で評価は視線推定のみであり、実際の利用状況での実験が行われていないため、システムがターゲットユーザをどのように助けるのか、といった知見を提供できていない。 また論文の表現に関して、主張の飛躍などが指摘がされており、採録条件ではないが、査読コメントに基づいた修正を強く推奨する。
=====以下は判定会議後のコメント======
図中の文字の小さいという指摘があった。特に印刷した場合に、読むことが不可能な図がある。ページ数の都合もあるが、文字サイズの調整を検討いただきたい。 また多くの査読者が事前インタビューの貢献を認めていることから、ショート採録により発表時間が限られているが、発表では事前インタビューについて十分時間を取ることを期待する。

[メタ] その他コメント

レビューでも書きましたが、国際会議フルペーパーやジャーナルを目指す際には、ターゲットユーザでの実験は欠かせないと思いました。

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

技術的な新規性は高くないが、ユーザインタビューから得られた要件を基にシステムを設計しており有用性は評価できる。一方で、現状ではシステムの実際の運用携帯や、ターゲットユーザを採用したユーザ実験ではないと思われる(論文において実験参加者が車椅子利用者、もしくは介助経験者であるかの記載がなかった)。

この研究をよくするためのコメント

システム基本的技術は著者グループにて開発したお椀型ディスプレイによる遠隔コミュニケーションシステムだと考えられるが、車椅子に搭載するならではの工夫があると良いと思った。ユーザインタビューにおいて「車椅子に乗ると小学校低学年程の身長となり,周囲や後方が見えにくく,自分より視野の広い介助者から提案してほしい」というコメントもあり、現在のシステムでは視野の問題は解決しているが、身長の問題は解決していない。同じ目線から見れるという利点があるが、より高い視点から遠隔補助ができるという機能があっても良いかもしれない。 実験に関しては、視線や視点に限られた評価になっている。本システムにより、コミュニケーションの問題が改善されるのか、より安全・快適にナビゲーション可能なのかなどの観点を、実際のターゲットユーザに評価してもらうのが良いと思った。


査読者2

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

1: 専門外である

採否理由

本研究の有用性は、とても理解できる内容で、かつ新規性もあると考えています。 ただ、他の査読者も指摘しているように、お椀型ディスプレイを使うことを 前提にしており、長期的にみて、本システムを使うことが有効なのかどうか 理解することができませでした。 ただ、本研究のシステムは、今後の日本の社会において、重要な位置づけになるのは 間違いないと思われるので、研究を継続して、社会に貢献していただきたいと 思っています。

この研究をよくするためのコメント


査読者3

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

本研究は、車椅子使用者と周囲の人および遠隔介助者という3者間の円滑なコミュニケーションを支援することを目的とした研究であると理解しました。提案システムは、お椀型ディスプレイや球体ディスプレイ、全天周映像からの視線方向推定等の様々な要素を組み合わせてシステムとして実装されているため、WISSの参加者に技術的な側面で有益な情報を提供する可能性があるものと考えます。 一方で、提案内容の正確性に関しては、全体的にお椀型ディスプレイを使うことありきで設計されているような印象を受け、アプローチが適切であるかについては疑問が残ります。そのように見える原因として、関連研究で挙げられている既存手法(HMD等)を使用する方法に対して、提案手法のメリット・デメリットが適切に整理されていない点が挙げられます。例えば、HMDの使用については「全天周映像を観察する場合,見える範囲が限定される,方向性の欠如などの問題があり」と説明され選択肢から外されていますが、HMDにおいては全周囲を同時に確認できないものの頭部を動かすことで全周囲を確認できるのに対し、お椀型ディスプレイでは全周囲を同時に確認できるものの上半球分が欠如して見られなかったり、画像の解像度やサイズ、輝度など視認性が低下するというトレードオフが発生するかと思います。また、方向性の欠如についても(そもそも「方向性」の定義が不明瞭ですが、ここでは車椅子利用者の視線方向のことかと推察しました。本来であれば一意に意味が伝わるよう定義して使用すべきかと思います)、HMDでは車椅子利用者の顔と利用者が見ているであろう環境を見比べて判断する必要が生じるものの、それは通常の対面環境でも発生することであり、大きなデメリットとはならないようにも思われます。またお椀型ディスプレイの場合はHMDでは車椅子利用者の顔と利用者が見ているであろう環境を同時に見れるものの、構造的に正面から90度以上の角度(車椅子と並んで歩く人など)への視線は正確に伝達できない等のデメリットがあるかと思います。 突き詰めていけば実際にHMDとの比較が欲しいところですが、少なくともメリット・デメリットをもう少し整理した上でお椀型ディスプレイの選定理由を述べてもらうことが必要かと感じました。 また、6章ではシステム評価も実施していますが、比較対象としては平面ディスプレイに全天周映像を提示する条件だけでなく、360度分の映像を前後180度分の横長画像として上下に並べる構成等も考えられるかと思いました。 論文自体の記述の質は、主観的な表現が散見されやや主張に飛躍が見られるように感じました。特に6章の結果の解釈においては、「車椅子使用者の視線の高さと顔の傾きを同じ高さで確認できた」(P2)というコメントを元に(?)「車椅子使用者の意思の尊重:ユーザー実験では,お椀型ディスプレイにより車椅子使用者を直感的に観察し,使用者の視点に立った思考になることが実証された」と考察されていますが、今回の実験はあくまで視線方向の判断であり、使用者の視点に立った思考になることが実証されたという記述はオーバークレームかと思います。あとは、細かい点ですが一つの図の中に独立した異なる情報が混在しており、文字も非常に小さく全体として分かりにくいです。 上記内容を総合的に判断し、4: どちらかと言えば採録と判定します。

この研究をよくするためのコメント

実装自体は様々な要素を組み合わせてうまくシステムとして実装されているかと思いますが、本文中では論理展開の飛躍などでその意義や価値が伝わりにくくなっている点が惜しいと感じました。

査読者4

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

本論文は車椅子使用者を支援する手段として、遠隔介助者を用いる際に、遠隔介助者の車椅子遠隔操作および車椅子使用者と遠隔介助者間のコミュニケーションを支援するシステムの提案と評価を行ったものである。 関連研究の紹介に基づいて適切に提案手法の新規性が位置づけられている。 提案システムの内容は、車椅子の遠隔制御システム、全天周映像の取得および表示のためのカメラ/ディスプレイ系と、ディスプレイ視野を手動調整するUI、そして映像からの視線推定技術など多岐にわたるサブシステムをもつ複合的なものである。論文記述から、このシステムの技術的な正しさは想像できるため、正確性はおおむね問題ない。 設計に先んじた当事者インタビューにより、提案システムの仕様の妥当性が示されている。 システム評価について、視線推定のみに注目し、技術的な基礎精度評価と、ユーザ評価を行い、ある程度の有用性が示されている。 論文記述について、図表が小さすぎて判別が困難であったり、略記号が定義なく用いられていたり、誤解を招きかねない表現がある等、改善したほうが良い点が散見される。 以上より、明瞭性にやや問題があるものの、全体としては有意義な研究報告であると考え、「4どちらかといえば採録」と判断した。

この研究をよくするためのコメント

論文の明瞭性あるいは正確性を改善するため、以下を検討されるとよいだろう。
・表1の「要素」行のW1,C1などはインタビュイーのIDであると想像されるが、断りなく用いられているので本文中で定義したほうがよいだろう。C2&C3というのは、二人同時にインタビューしたということか。
・p.2右カラムの「視野の広い介助者から提案してほしい」というのは、論文の地の文ではなく、インタビューのどなたかの発言と思われるのでカギカッコが必要ではないだろうか。
・p.3右カラムの「5/8部分を取得し」とあるが、おそらく全天周映像の一部を切り取るときの面積割合だと思われる。しかしどの角度からどの部分を切り取るのか等が自明ではないので、詳しく書いたほうがよいだろう。
・p.4左カラムの「視線位置検出方法は以下の通り」は体言止めで文章が終わっているが、「である」をつけたほうが良いかもしれない。(好みによる)
・視線推定により「緑丸」が表示されるとあるが、緑丸の面積をどのように決めているのかの説明がほしい。
・図6の(a)(b)(f)(g)が小さすぎて判読が困難である。また(a)(b)の青色系のセルでは黒色の数字が判読できない。
・p.5右カラムの仮説H1とH2について、仮説の文章が舌足らずな印象がある。H1はYes/Noで答えられる命題の形式になっていないし、H1、H2ともに「平面正距方位図法ディスプレイよりも」という比較対象が書かれていない。 ・p6左カラムで、実験協力者IDとしてP1、P2などが用いられていると想像するが、これも初出時に定義を説明したほうがよいだろう。
・p6左カラム7章考察の最初のパラグラフは、やや唐突に本研究の貢献について書かれているが、それが「考察」にどうつながるのか、そしてその後この章でどういう論理展開をしていくのかの概説などの文脈を補ったほうがよいように感じた。
・p6左カラム7章 「周囲の状況把握」において、 「最適なシステム」と書かれているが、その後p6右カラムにおいて改善可能点を述べている。最適であるならば改善点など無いはずではないだろうか。表記をトーンダウンしたほうがよいだろう。