査読者1

[メタ] 総合的な採録理由

VR環境での百人一首を題材に,プレイヤー間の難易度を平滑化することを目指し,個々のプレイヤーに与えられている視覚情報(手の大きさ,札の大きさ)を変動させることによってゲームの難易度を調整する手法を提案し,その効果を実証的に検証しています. 当該手法による難易度の変化を丁寧に評価し,かつユーザが不満や不適切に思わない範囲でも十分な難易度調整が可能であることを示しており,有用性の極めて高い知見を提供していることを踏まえると,採択にふさわしい論文であると思います.

[メタ] 査読時のレビューサマリ

査読者のポジティブな観点は以下の通りです. ・新規性:システム自体の新規性は限定的ではあるが,評価にFitts’ Lawを用いるなど,客観的な評価手法をうまく構築して有用な知見を得ている点には一定の新規性が認められる. ・有用性:インクルーシブなゲームデザインに役立つ,具体的な知見(特に,定量的に難易度の差を時間で検討できる点や,ユーザにとって不快感のない視覚変化の範囲でも難易度調整が可能であることを示した点,など)が含まれており,論文として価値が高い.今後のVR環境でのゲームデザインに有意義なものになることが期待される. ・論文化におけるコメント:査読者各位より,評価に関して詳細なコメントやあいまいな点に関する指摘がありますので,それらを参考に,データ処理の妥当性や手続きの明確さに注意して執筆することを期待します.

[メタ] その他コメント

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

VR環境でゲームスキルを調整することを目指し,百人一首のような視覚情報と運動能力が影響するタイプのゲームを題材に,手の大きさで運動支援,札の大きさで視覚支援を行うことができるかを実践的に評価し,定量的な結果である程度のスキルを調整可能であることを示した報告である. 手を大きくする,札を小さくするという調整が可能であることはそれほど新しい議論ではないと考えられる.一方で,その調整が一般的なポインティングの法則(Fitts’Law)に沿っていることを定量的に示した点には一定の評価がある. さらには,手の大きさやカードの大きさに対する違和感への主観的評価を追加して実際のゲーム状況における「調整を受けている」と感じてしまう問題への対処が加えられており,定量的な結果を実践的に運用するためのデザインガイドラインを示している点は興味深い. さらには,この調整により得られる調整量(時間にして0.135秒)という具体的な値が,実際に百人一首の競技者(プレイヤー)の札を取る行為時間に対して有意性がありそうな値であることも示されており,この手法の価値を適切に示しているものと考えられる. 本稿が百人一首の札を取るという一点に集約された評価であるという点は,本手法の展開の可能性を妨げている可能性があること,最後の「実際の競技における調整として有意である」という観点に統計的な説得力がないこと…この説得には実際のプレイによる勝敗の変遷などを評価するなどが考えられる…を差し引いても,本稿は十分な価値を有するものと考えられる

この研究をよくするためのコメント


査読者2

総合点

5: 採録

確信度

1: 専門外である

採否理由

VR対戦ゲーム内で、表示物のサイズをプレイヤーごとに調整することで Multiplayer Dynamic Difficulty Adjustment (Multiplayer DDA)を実現するという提案です。インクルーシブな対戦ゲームの実現という目的も含めて、対戦ゲームの楽しさや体験価値はどこにあるのかという興味深い議論を生むテーマと感じます。 手や札のサイズを大きくすることで、ポインティングタスクの難易度を下げて難易度調整するというアイデアは興味深く、Fittsの法則を適用することで、サイズ変更による反応速度の変化が予測可能であることを示した点は、ゲーム制作の実務で活用できる可能性があり、有用な知見です。

この研究をよくするためのコメント

研究の起点となる課題に対して、もう少し深掘りした議論がほしいと感じました。Dynamic Difficulty Adjustmentがプレイヤーの体験にもたらす影響に関する先行研究 (一例として https://doi.org/10.1145/2967934.2968100 ) では、調整がプレイヤーから知覚できたほうが良いのかの議論がされており、調整が知覚されないほうが良いかどうかは自明ではありません。百人一首のようなスキルが重要な対戦ゲームにおいて、どのようにプレイヤーにDDAの存在を伝えれば気持ちよく遊んでもらえるのかには考察が必要です。 VR環境における物体サイズ知覚については、慶大の坂口らによる2021年の研究( https://doi.org/10.3389/frvir.2021.712378 )で、実際よりも約5%小さく知覚されるという報告があります。これが正しければ、1.0倍は少し小さく感じるはずですが、自由記述アンケートで同様の傾向が見られたのかが示されていると、定性的ではあるものの、興味深い知見となるかと思います。


査読者3

総合点

2: 不採録が妥当

確信度

1: 専門外である

採否理由

本論文は、VR空間における百人一首において、札のサイズと手のサイズを変更することで難易度を調整する(大きくすると簡単になる)手法を提案するものです。 VR百人一首に対してFittsの法則を適用することで、札を獲得する所要時間MTを推定し、それにより難易度を調整する新しい提案だと理解しました。 デモ動画でデモされていたシステムについて、それ自体及びそのインタラクションに関する説明はほとんどなく(3章の2段落分のみ)、評価をメインとした論文であると理解しています。 2章の関連研究は幅広くサーベイされており、百人一首の難易度調整にFittsの法則を適用するアイディアには新規性があると思います。 提案システムに可能性は感じますし、また発想も興味深いと感じました。 しかし、評価の説明に不備がある点、難易度調整の実現可能性が不透明な点、の2点から、提案論文は登壇発表として採択される段階ではないと判断します。
- 懸念1:評価の説明の不備があり、論文の内容を正しく理解できないため、採択に値するかどうかを正確に判断できません。具体的に不備は以下の通りです。 (1)4.2.3節及び図6では、手のサイズW_handと札のサイズW_cardを合わせたサイズWに基づいて推定するMTについて、相関係数R^2が高いことを提案手法の有効性の一つとして示していますが、説明が不十分で正しく理解できませんでした。 ・「まず,実験で得られたデータから最小二乗法でa及びbを決定し,相関係数R^2を求めた.四分位数を用いた外れ値の除外を前処理として行った.」とありありますが、外れ値の除外の方が先なのか、「まず」として述べられているaとbの決定が先なのか不明です。 ・「四分位数を用いた外れ値の除外を前処理として行った.」とありますが、これがなぜ行われるのか、それは妥当なのかが不明です。 ・「次にIDを0.2ごとに区切り」について、なぜ区切るのか、なぜ0.2単位なのかが不明です。また、0.2単位で区切った場合、0-0.2をまとめた結果、それはID=0とするのかID=0.2とするのかで、bの値が変わると想像します(予測性能は変わらないと思います)が、いずれなのでしょうか。 ・「それぞれの区間におけるMT, IDの平均を求めた」がなぜ平均を求めるのか、平均を求めることがなぜ妥当なのか、が不明です。前処理のノイズ除去と平均化によるノイズ除去が二段階でなされていて、かなり平滑化されたデータに対して相関係数が高くなることが、実際の予測にどういう影響を及ぼすのか・及ぼさないのか、が不明です。 ・「このとき1区間あたりのサンプルサイズが9 以下のものは除外した.」も、なぜか、それは妥当なのか、が不明です。 ・「まず,実験で得られたデータから最小二乗法でa及びbを決定し,相関係数R^2を求めた.」と「図6はそのグラフである.R^2=0.9896となり」のR^2は同じ?違う?「まず」求めて、「次に」求めたので、それぞれ違うのかと思っていたのですが、これは記述が不十分というだけかもしれません。 (2)表1「手の評価」と表2「札の評価」について、意味が不明です。実験協力者は、どういうときに適切と感じたのか。リッカート尺度のどの数字がどういう意味を持つのかを含めて、どういう教示を行ったのか明記していただかないと、実験の妥当性及び仮説2の妥当性を判断できません。 (3)表1~3において、実験協力者の手のサイズを全く考慮せずに評価を平均化することが妥当なのか判断できませんでした。つまり1.0倍より手の小さい人にとって、1.0倍は相対的に大きく(1.x倍に相当)、その逆もあり得るので、手のサイズによる倍率補正を行ったうえで平均を取らなくても良いのでしょうか?
- 懸念2:札を取るのにかかる時間の予測ができると、難易度の調整が本当にできるのかが不明瞭です。 (4)直感的にはできそうな気はしますし、ポインティングの研究から自明なのかもしれませんが、明記されておらず、どうやるのだろうかと思いました。 つまり、複数枚の札があるときに、札の大きさの上限は札の配置に影響を受けたり、手の大きさは他の札を誤って取ることにもつながりそうに思います。 今回の実験結果を受けて、具体的にどういうシステムを構築すべきなのかまで明記していただくか、もしくは、実際に実装までしていただくとタイトルの「とそのゲームスキル調整への応用」と内容が合うと感じました。

この研究をよくするためのコメント

・Fittsの法則を用いた論文ではこのように書くのが通例かもしれませんが、MTについて、最初、aとbを用いて推定した値なのか、実測した値なのかがよくわかりませんでした。 ・MT及びIDに関して、式番号を追加していただくと、論文内で参照もできてよいと思いました。 ・MTとIDについて、その英語として、movement timeと index of difficultyが明記されていると理解しやすいと感じます。 ・「ここでは手の大きさについて1.0 倍と規定する基準値を縦20cm,横10cm,同様に札の大きさについて,1.0倍と規定する基準値を横5.2cm,縦7.3cm,に設定する」では、W_cardとW_handを明確に定義すべきです。どれがW_cardとW_handなのか。 ・考察に重要なのかが分からないのですが、表1~3において、W_cardとW_handの合計値のWを用いてMTを推定しているので、比率でなくて絶対値が知りたいと思いました。 ・もっとシステム自体やインタラクションの工夫などについて、説明があるとよいと感じました。

査読者4

総合点

5: 採録

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

インクルーシブな対人ゲームを目標に,フィッツの法則に着目し,従来のリアルなかるたであれば調整不可能な札や,自分の手を拡大することにより個別に難易度を調整できる可能性を検証している. 実際にゲームとしての実装や評価についてはこれからだが,変更に際しても,プレイヤから評価が変わらない指標などを分析するなど,興味深い結果が出ていると考えられる.

この研究をよくするためのコメント

競技かるたにおける行動を分析し,プロセスを3つに分け「札に手を動かして触れる」というプロセスに注目している点はよいと思います. 論文内でも言及している通り,他のプロセスと組み合わせた総合的な調整手法について,発展的に議論できるような発表になるとよいのではと思います.