査読者1

[メタ] 総合的な採録理由

本稿は,拡張現実を用いたスキートレーニングにおける姿勢を可視化する手法とその効果についての論文です.手法に強烈な目新しさはありませんが,スキーという対象に合わせて効果を有することが期待される表現をシンプルにまとめ,納得度合いの高い評価を重ねて知見を得ていることから,採択に足る論文であると判断しました.

[メタ] 査読時のレビューサマリ

査読者意見のサマリーは以下の通りです. ・新規性:表現方法そのものはシンプルで,類例は様々見られるところですが,スキーという高速に状況を認知しなければならないスポーツという対象に合致した表現を選ばれていること,ターゲットを(中級者として,その中級者に起こりがちな問題とともに)適切に定義することで手法の適切性を明らかにしていることから,本提案には一定の新規性があると判断されます. ・有用性:評価の適切性には査読者間でも異論はなく,定量評価では一定の効果が見込めることが読み取れ,ユーザの主観的意見をまとめた定性的な側面でも価値のある情報があり,一定の有用性を示していると判断されます.一方で,実環境・長期間評価など学習システムに付きまとう問題の解決はなされていません.また,選択されているパラメータの意義(60km/h・80km/hという設定の適切性など)についての記述が深まるとより有用性が高まるものと考えます.

[メタ] その他コメント

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

1: 専門外である

採否理由

拡張現実を用いたスキートレーニングシステムのうち,姿勢可視化の観点から特徴的な3種を取り上げてその効果を比較した論文.なお手法SおよびKは新規のアイデアを含んでいる. 実験結果としては,手法Sが最も効果が高いという結論であった.認識の難しい自己の身体状況を提示するという観点ではSとKは類似しており,視覚化の効果として手法Sがデバイスの負担が低く,リアルタイムに自己の身体状況に対する直接的な情報を得られるために効果が高いという素直な結果であるといえる. ことスキーの学習という観点で新規性は認められるが,AR/VRにおいて必要な情報を直感的に提示する方法は,その効果も含め,様々な分野に応用があることは著者らも認めているところである.一方で,学習においてスキーの他スポーツ類と異なる(特異な)観点が提示されておらず,スキー動作の学習,という観点での新規性が高いかどうか査読者には判断できなかった. 評価実験そのものは適切に行われており,主観的なインタビューの分析も含め示唆的なデータが得られているといえる.一方で,実環境への整合性の問題や,学習システム特有の長期評価における問題など,解決すべき点はまだ多く,本稿をもってシステムが有用であることを断言するにはあと一歩評価が進むことが期待される.

この研究をよくするためのコメント

提示手法に効果がある可能性が示された端緒の報告として,将来有望であると考えられます.地道な調査が必要になるかと思いますが,実践的な評価により,本手法が実際のスキーヤーの地力向上に役立つレベルまで昇華されることを期待しています.


査読者2

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

多くの先行研究を引用し,それらの差分としてMR型のトレーニングシステムを開発し,3つの手法を一定の人数(18名)で評価している. 3つの手法それぞれに定量的定積的な分析がされており,統計的な検定も行われており信頼性も高い.

この研究をよくするためのコメント

これだけのシステムを展示することは難しいと思いますが,ぜひ試してみたいと感じました. また,論文中でも言及されていましたが,Cond.F, S, Kを同時に実装した場合については大変興味があります. Cond. S, Kについては,それぞれ指標の色を変化させるための閾値がありますが,こちらは事前の検証実験より設定されたとありますが,これらの活き地についての議論などがさらにあるとよいと思いました.


査読者3

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

1: 専門外である

採否理由

本論文は、上半身の姿勢というものに着目し、それを既存手法と筆者らが新たに提案する手法で効果を定量的・定性的に比較し測っています。さらに、VRではなくARとして実装を行っていて、実際の雪山の上でもシステムを使うことをできることを簡易的に確認しています。スキートレーニングにおいて上半身の姿勢に着目している点は斬新であると考えます。また、実際に雪山でパイロットテストしている点は大変評価できます。 ただし、「概要」と「はじめに」で書かれている本論の流れが食い違っているように思えます。「概要」では上半身に着目したスキートレーニングを提案したよ、それをARにも適応したよ、といった流れで記述されているように読み取れます。しかし、「はじめに」ではARを用いたことを貢献の主としているように読み取れます。そして、「はじめに」の流れで読むと、Cond.SとCond.Kを提案して既存手法と比較対象にした理由が書かれていないように感じます。つまり、ARの使用を前提としたときに上半身の姿勢に着目する意味が書かれていないため、比較対象として適切であるのかが判断できませんでした。 本論の対象としているユーザ(中級者の中でも姿勢を意識していないユーザ)を明確に記述しているため、誰に対するシステムなのかがとてもわかり易いです。そして評価実験によってそれぞれの手法について定量的・定性的に比較し測っているため、それぞれの手法についての大変有用な知見が書かれています。 このように、ARでのスキートレーニングシステムの提案の論文として見た場合は問題が多く見られますが、上半身の姿勢に着目したという点においては、有用な情報が書かれており、知見としては大変有用だと考えられますので、このような評価としました。

この研究をよくするためのコメント

上記でも指摘しましたが、もしこの研究の主な貢献が「ARに適応したこと」なのであれば、上半身の姿勢に着目した理由について記述をすると理論が通るのではないかなと思います。 他には、評価実験で用いた難易度設定について、60km/hと80km/hを用いているが、この速度が最適なのかを論じていないため、選んだ理由などを記述すると専門外の読者に対しても親切だと思います。例えば「中級者・上級者の平均速度はそれぞれどれくらいか」などの情報があれば、上級者になるにはどのくらいの速度で滑れるようになればいいのかがわかりやすくなると思います。

査読者4

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

本研究は、視覚的フィードバック機能を有するARスキートレーニングシステムを提案しています。具体的には、ARを用いることで、既存のVRスキーシステムと比較し、ある程度規模の大きな環境での使用が可能となったため、VRと異なる最適な視覚フィードバック方法を模索している。近年、スキーに限らず、スポーツ練習支援の研究やツールが多数考案されている点からも、本研究のモチベーションに同意できます。 但し、私自身がスキーの経験がほとんどないため、今回用意した視覚フィードバック(cond.F, cond.S, cond.K)がスキー経験者が考える練習方法として十分なものなのか(実用的なのか)は判断できませんでした。また、condBのように「何も提示しないもの」と比べれば、フィードバック有は高評価になるのは当然ですが、condKを見る限り、フィードバックとしてはスコアが微妙な結果なのに、「有用である」と若干強引に主張しているようにも感じてしまいます。 なので、スキーのトレーニングにおける練習すべき要素・重要度を表などでまとめ、視覚フィードバックの良さを主張すると説得力が増すと思います。 また今後の課題にも書いている内容に関連しますが、本システムの対象としているスキーのスキルは 短期的に鍛えるスキルと、中期的に鍛えるスキル、長期的に鍛えるスキル、どれにあたるのでしょうか? 本システムによるトレーニングの際に鍛えるスキルを、上記のように分けた上で考察してもらえると、 今回の実験がどの程度適切なのかなどが分かるかなと思います。 更に、複数のフィードバックを組み合わせた方法も検証した方がいいかなと思います。例えば、効果音を鳴らす機能がシステムにあるので、音ベースのフィードバック方法も良さそうに思います。 定量的指標ですが、N.P.FとM.S.Aの二つは分かりやすいですが、E.R.Rが必要なのかはかなり疑問です。N.P.FとM.S.Aの値を直接組み合わせただけなので、このE.R.Rでしか得られないデータはないと思います。もし絶対に必要なら、その根拠を述べ、このデータからのみ得られる情報を示してもらいたいです。 図3のグラフですが、一部のグラフの縦軸は上方向がマイナス、一部は上方向がプラスのものが混在していて見づらいです。本文ですでに各指標が値が小さいのが良いか、大きい方がいいかを記載しているので、グラフごとに軸の向きを変えなくても良いと思います

この研究をよくするためのコメント

スポーツトレーニングを支援するシステムは非常に面白いと思う反面、フィードバック方法や評価尺度などの選び方が、かなり思い付きのものの印象があります。なので、スキーの練習における要素、従来の練習方法、今回のフィードバックの提示方法などをまとめておくと良いかなと思います。