査読者1

[メタ] 総合的な採録理由

頭部に装着したウェアラブルデバイスにより表情の画像認識し、プロジェクションを行うことで表情の改変を行う技術について提案、検討したものである。 有用性の評価手法に不明瞭な点があるものの、提案の新規性は認められる。 その「荒削り」さにより、「根本的な課題解決になっているのか」、「装備や技術の進歩によって将来的には表現力が高まり不自然さが軽減されるのか」等、活発な議論が想定される。 以上の結果から、議論枠採録と判断された。

[メタ] 査読時のレビューサマリ

各レビュアーの意見の概要は以下のようになっています:
ID6: ・一定の新規性を評価 ・「会話時の印象を良くする」という課題を根本的には解決しないと感じる ・表情の生成、増強、打ち消しを提案しておきながら増強しか評価実験していない ID47: ・提案としては面白い ・実験デザインが悪い ・social acceptabilityの問題 ID48: ・正確性と一定の有用性をプラス評価 ・表情全般をうたいながら、笑顔のしか評価実験していない ID49: ・再現性をプラス評価 ・有用性に疑問 本論文のポジティブな側面を評価しつつ、実験デザインの不備、主張していることと評価実験したことの乖離、根本的な課題解決ができているか疑問、などの意見がでました。 これらを解決し、本研究の有用性が顕著に示せると強固な論文になると思います。

[メタ] その他コメント

議論枠採択となりましたが、カメラレディ原稿において、サマリで指摘された点の議論の補強になるような修正があれば積極的にお願いします。(採択条件ではありません。コメントです。)

総合点

3: どちらかと言えば不採録

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

本論文は、頭部に装着したウェアラブルデバイスにより表情の画像認識し、さらに既存研究である変幻灯の技術を応用し、プロジェクションを行うことで表情の改変を行う技術について提案、検討したものである。 顔を覆うディスプレイデバイスを使ったり、完全に表情を映像で上書きする従来手法ではなく、錯覚を引き起こす補助的な情報の投影によって表情の改変を試みたアプローチには一定の新規性がある。 表情の生成、増強、打ち消しという3つの機能を提案した上で、そのうちの増強のみについて小規模な実験によりその有用性を限定的に示しているが、提案全体としては著者の主張する有用性について確信を得ることができなかった(下記参照。 提案手法の技術的記述は正確であり、再現可能な情報提供がされている。論文の記述は明瞭であり、わかりやすい。 以上より、提案は興味深いが有用性に疑義があり、発展途上の研究と考え、3どちらかというと不採択と判定した。 -- 本研究は、従来研究との差分として、「完全に表情を上書きせずに自分本来の顔のありよう」を保存することを特徴として明記している。これはつまり、いかに提案手法によって表情を改変したとしても、その下にある自分の素の顔の様子を他者に見せることを本質的に大切な価値として認めているということである。 細かい表情の読み取りをコミュニケーション相手に許し、それを大切な価値として求めるなら、なおさら表情の生成、打ち消しの際に生じる、素の表情と改変しようとする表情とのギャップが奇異な印象を与えるか、そのギャップにコミュニケーション上の不誠実さや不信感を与えてしまうように感じる。 表情の増幅については、素の表情と増幅された表情が同一であるという意味では違和感は小さくできるだろうが、それでも素の表情とくらべて表情を増幅している、という印象は相手に与えてしまうことは避けられない。 将来的に技術が進歩して、プロジェクションが精細になったり運動追従が完璧になって、提案手法による著者の理想とする表情改変が可能になったとしても、この問題は残り続けるのではないだろうか。 以上から、本研究の掲げる「会話時の印象を良くする」というコミュニケーション上の機微が求められる高度な目的に対し、提案手法がどの程度貢献できるのか疑問であると感じた。 ただ、うまく機能を限定し、用途を限定すれば提案手法が活きるケースもあるかもしれない。 表情をうまく作れない身体的特徴がある人が表情豊かにしたいと思っており、かつ既存手法による完全な表情の上書きでは個性を損なわれるように感じて、素の表情の表出を自らが望んでいて、さらにコミュニケーション相手もそのような事情を配慮して、改変された表情を受け止めるよう意識的に振る舞える場合などを想像した。

この研究をよくするためのコメント

「表情を改変するが素の表情は残す」伝統的な表情改変手法である化粧との比較検討も重要だろう。


査読者2

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

査読者は本論文を採録よりに判定しています。提案としては面白いと思いますが、実験デザインが悪く、論文の価値を毀損しています。 ・提案されている内容の新規性(先行研究との差分が十分にあるか) 先行研究調査が十分であるとはいえないが、顔への運動誘導パターンのプロジェクションによって表情を操作する提案は新規性のあるものと考えられる。プロジェクションによらないものであれば、顔の前にディスプレイを置くもの(Takegawa et al. )、メガネ型デバイス(Osawa et al.)などが提案されている。 ・有用性(実際に役に立つか)、正確性(技術的に正しいか) システム自体の有用性は十分に高いとはいえない。カメラとプロジェクタを装着するような将来が想定できないためである。また、この問題の解決のための道筋が論文中では示されていない。デバイスによらず顔に運動パターンを示すという提案そのものは、心理学的な観点からもそれなりの意味があるものと思われるが、論文からはそのような主張はない。すなわち、有用性については論文からは評価できる点が少ない。 正確性の観点からは、論文の実験デザインが悪く、評価ができない。本研究の主張は表情の生成、表情の増強、表情の打ち消しの3点であったはずであるが、評価実験では 「顔に運動情報を付与したことで動 きのある顔がより動いて見えたか, その結果会話時の印象がよくなったかを評価した.」と書かれており、そもそもどの主張を裏付ける実験であるのかが明らかでない。また、「動きのある顔がより動いて見えたか」を確認するはずだったのに、実験においては質問紙によって「笑顔度」や「話を聞いているか」、「愛嬌」、「よく笑う人か」などの内容について回答させており、これらの回答が「動きのある顔がより動いて見えたか」にどのように関係するのかが明らかでない。評価自体も被験者内実験計画によって実施されているように見え、この計画では社会的好ましさバイアスを考慮できていない。実験デザインの悪さが、論文自体の評価を下げることにつながっており、残念である。 ・論文自体の記述の質(分かりやすく明確に書かれているか) 実験を含めてロジックが一貫していない点が論文自体の記述の質を低下させている。これらのアウトラインを整理して、ストーリーとして一貫した書き方がなされることが期待される。文章自体は平易でわかりやすい。

この研究をよくするためのコメント

採否理由にも記述したが、実験デザインが崩壊しているのでこれを直した方がよい。また、パターンを投影するという提案自体は良いが、工学研究としては実現性が低い(カメラとプロジェクタをヘルメットを使って頭部に固定することは今後も想定できない)ため、この克服のためのアイディアを考えるか、極めて限定的でもよいので、このようなスタイルでも許されるシチュエーションを考えてほしい。 例えばポーカーゲームなどは、表情などによって勝敗が左右しそうである。このような場面で使うのであればゲーム性を向上するなどの可能性があるのではないか。


査読者3

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

会話時の表情に笑顔の運動パターンを投影することで、話し相手の印象を向上させるシステムを提案しています。 提案システムの実装について技術的な内容を丁寧に記述しており、動画でも実装したシステムの様子を理解することができました。 評価実験では、笑顔を投影することで笑顔度を増強することが示唆されており、提案システムの一定の有用性が確認できます。 一方で、3.1節に「図4に示すような基本6感情に対応する表情の運動パータン」という記述がありますが、図4は「笑顔の運動パターン」となっており、論文の途中から表情=笑顔のみとなっています。 そのため、実験から「笑顔を増強する」ことは示唆されるとは思いますが、1章で述べている「会話時の表情を豊かに見せる」や「表情が変化したと錯覚させる」と表情すべてに効果があるような表現をされていることについては違和感を覚えます。 すなわち、1章で述べている提案システムの目的を達成するためには、6感情すべてにおいて実装し、評価実験して評価すべきであると考えます。

この研究をよくするためのコメント

笑顔のみに着目した理由を3章に記述すると、論文として正確でまとまりが出るように思います。 また、1章の提案システムの目的も「表情」ではなく、「笑顔」に限定して記述すべきだと思います。

査読者4

総合点

3: どちらかと言えば不採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

本研究では、顔に表情変化情報をプロジェクションすることで話者の印象を向上させるウェアラブルデバイスを提案しています。先行研究の「変幻灯」をもとにしたアイディアであり、顔の立体形状を考慮したプロジェクションを行うことで、表情の生成・増強・打ち消しを目指しています。システムの実装について詳細に述べられており、手法の再現が行えるように記述されている点は評価できると思います。 一方、本手法の有用性や得られる効果については疑問が残ります。論文中の図や動画を見る限りでは、装着者の表情が変化したという感覚にはなりませんでした。顔の周囲に白い模様のようなものが表われているだけのように見えます。「変幻灯」の効果に比べると大きく劣っており、現在の実装では有用なシステムになっているとは思えません。 この理由として、「変幻灯」で十分に検証されていなかった要素を一度に実現しようとしたことが考えられます。提案システムをウェアラブルにする前段階として、固定された顔に対して固定されたプロジェクタから投影を行い、立体形状への投影が可能か、表情変化に利用できるか、会話に影響を与えるかなどの動作検証が行えるはずです。さらにその前段階として、マネキンの頭部などを用いた検証を行っても良いでしょう。これらの結果を踏まえて、3章で述べられている表情の生成・増強・打ち消しをより深く議論し、プロトタイプ(ウェアラブル化)にどのような要件が求められるかを定めると良いと思います。

この研究をよくするためのコメント

本研究のような手法の確立にあたって、「デバイスを装着した話者に対峙する話し相手側が表情の変化に気づいたかどうか」が面白い議論のポイントになるのではないかと思います(図7を見て著者のねらいを勝手に想像しています)。