査読者1

[メタ] 総合的な採録理由

著者らの味ディスプレイの応用として,食品の時間を制御した味にする(熟成させる,味を若く戻す)といった目的に対しての手法提案と実験を行っています.論文の記述や読みやすさには少し難がありますが,味の時間変化を制御するという事実自体が明らかに面白いため,査読者も全員ポジティブな評価をしていました.一方で,これによってどのように世界が変わるのか,どのようなインタラクティブシステムに応用可能なのか,という点を是非深掘りして議論していただきたいというのがレビュアの求めるところです.

[メタ] 査読時のレビューサマリ

図や記述のクオリティは少し低いが,ワークショップ論文としては内容が面白いため,レビュア全員ポジティブな判定をしており,また,委員会においてもその評価は一致していたため,ショート採録となった.(2023-11-02変更:「採録判定時のコメント」と「レビューサマリ」の記入内容がひっくり返っていたのを修正しました。)

[メタ] その他コメント

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

とても評価が難しい論文だと思いました.システムとしては,既発表のTTTV3をそのまま使っていますし,その際に産地の違いの再現など,同じ食品の違う条件を再現する,といった取組みはすでに行われています.今回は,熟成を進める(または戻す),という味の違いを再現することが目的となっており,確かに説明としては違うことをやっていることになっています.そうであれば,たとえは日光に晒した場合の変化,とか,いったん凍らせた場合の変化,とか,無限にバリエーションが増やせてそれぞれが論文として成り立つのか,という話になってくると査読者は思います.なので,味の時間変化というのが,新たなインタラクションを生み出す,という点が明確になっているかという点がポイントであると思います. 今回の味の時間変化,という点の価値を明確に主張するとすると,7章にあるような,測定したものに近づけるのではなくてモデル化することによって未知の時間変化(例えば100年後とか)に対応するなど,ある既存パラメータに近づけるという変化以外の変化をもう少し議論していただけるとよかったのかなと思います.同じく7章に書かれているように,熟成の概念の理解のための教育など,インタラクティブシステムとしておおいに可能性が感じられるトピックが触れられている一方で,深掘りされていないのが残念です.結果として,本論文はインタラクティブシステムの提案ではなく,既存のシステムを使って,いくつかの評価実験を行った,という評価論文になっており,WISSに適しているのか,という点には疑問があります.一方で,議論が盛り上がることは間違いないと思います. 委員会で議論した結果,このような時間変化は充分な議論の価値があると判断されました.一方で,内容に関しては短時間で理解できるものであると判断されました.また,論文自体はあまり読みやすく書かれていません.結果として,ショート採録と判断されました.ぜひ,議論を呼ぶ楽しい発表をして頂ければと思います.

この研究をよくするためのコメント

採否理由に含まれています.


査読者2

総合点

6: 採録を強く推す

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

本研究では、著者がこれまでに実施してきた「味の加減を行う装置」を活用し、過去・未来方向への時間経過によって変化する味の再現を試みた。具体的には、バナナジュースとウイスキーを対象とした予備実験および、トマトとカレースープを対象とした本実験の結果を報告した。 実験は「味センサで計測した値をフィッティングし、必要な材料を著者が考えて追加し、結果を著者が確認する」という定量性を出しづらい作業の繰り返しではあるものの、食品という対象を扱っていることを考慮すればそこまで大きな問題ではないと考える。むしろ、味を(特に過去にわたって)時間変化させるアイディアの良さと将来的な有用性を考えると、ぜひWISSで発表・デモしてほしい。 そのため、「採録を強く推す」の判定とした。

この研究をよくするためのコメント

再録の条件とするような問題はないと考えますが、直したほうがよい点やもっと知りたい点はありますので記載します。 a. 表現の明確化 > 0.02ml 単位・1000 段階の味溶液を混合して飲食物に滴下する機器である 細かいですが、「0.02 ml単位で1000段階の体積の味溶液を混合...」という意味であれば、そのように書くほうが明確かもしれません b. 図や表現 - グラフの文字が薄く小さすぎるため、読み取るのが難しいです c. 今後の発展の方向性 すでに原稿が6P埋まっているので発表で聞きたいことではありますが、著者が個々の料理を確認し主観的に材料を検討するサイクルを脱し、今後様々な味に自動で対応していくための方法があれば議論したいです。すでに味センサが特定のカテゴリに分類した数値を出力しているので仮にそのカテゴリに立脚するとしても、現状では追加する素材の自由度が高すぎるように思います。出力の自由度の低さに対して入力の自由度が多すぎる問題を解決する方法があれば知りたいです。


査読者3

総合点

5: 採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

本論文は熟成、腐敗といった飲食物の時間的変化について、先行して開発した化学的味覚制御装置を用いて再現可能かについて探索的に調査したものである。単純なケース、複雑なケースでの試行錯誤を通じて、その可能性と限界、および応用について展望している。 飲食物の時間的変化を制御するアイディアは新規性のあるものであり、著者の主観の申告を信じるならば有用性もある程度期待できる。提案手法の技術的記述は正確であり、再現可能な情報提供がされている。論文の記述はやや独特であるものの明瞭であり、わかりやすい。 以上より、5採択と判定した。

この研究をよくするためのコメント

本論文は、著者が各種の味覚実験を自身の身体を用いて探索的に行うスタイルの論文であり、全体的に時系列順に行った試行錯誤と、その成果およびそこから得られた感覚、感想を綴った構成となっている。 他者との情報共有が他の感覚と比較して高難易度であると考えられる味覚を扱う上でこのような研究者主観を重視した研究推進方法はある程度妥当性があるように思われるが、それでも客観性を重んじる科学論文のあり方を踏まえると、その運用は慎重でなければならない。 P.6左カラム「有用なノウハウになりそうな気がするくらいである」という記述は、やや論文の文体の標準からは逸脱しているように感じた。「有用なノウハウになる可能性がある」くらいの表現ではいかがだろうか。 グラフの線とテキストフォントが小さいのでもう少し大きくされると良いかと思う。

査読者4

総合点

5: 採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

査読者は本論文を議論枠での採録を推薦する。 評点の根拠を以下に述べる。 ・提案されている内容の新規性(先行研究との差分が十分にあるか) 先行研究の提示が十分でないので新規性の評価は難しい。少なくともHCI分野においては本論文の提案は新しいように思える。しかし、ガストロノミーの分野においては、分子料理法などの比較的新しい料理法の研究が進められており、本論文と同程度の発見があるのかもしれない。論文としての完成度を高めるためには、このような分野の論文を参照した上で、なにを研究課題とするのかを明らかにしなくてはならない。本論文はどちらかといえば議論のための寄稿であり、研究論文のスタイルにはそぐわないのかもしれない。それにしても、ワークショップでは魅力のある議論がされることが想定できるので採録としたい。 ・有用性(実際に役に立つか)、正確性(技術的に正しいか) 方法論としては、味覚センサで得られた情報に対して、時間経過に基づいて変化するものを同定し、その変化に適合するように化学物質を添加する提案となっている。この方法論そのものは分子料理法と類似するが、この方法によって食物を好みに合わせて調整できるのであれば将来的に有用な技術となりうると考える。正確性については、味覚センサの値を実験ごとに選択的に提示しており、恣意性を払拭できない点や、筆者自身による主観評価は実験によって記述方法も異なっている点などを考えると十分でない。 ・論文自体の記述の質(分かりやすく明確に書かれているか) 論文自体の記述の質は必ずしも高くない。十分に構成がされておらず、論文というよりはエッセーであるようにも見える。しかし、ワークショップで議論ができる材料を提示すると言う意味ではこれで十分にも思える。

この研究をよくするためのコメント

・なにを議論しうるかについて整理してあると良いと思います。 ・筆者の主観的評価と他者の言述、そして味覚センサによる客観的データをもうすこし分別して整理された記述となっていると読者にとって読みやすいと思いました。 ・主観的な記述が抽象的かつ誇大に思います。例えば「歴然とした違いがあった」などはトマトの例のようにもうすこし具体的に書けないものでしょうか。一人称研究としては体験を正確に記述することが必要だと思いました。 ・そもそもこの研究を例えば論文誌などに投稿するためにはどのような評価が考えうるのか、などの議論をしたいと思いました。 ・味覚と視覚などの多感覚相互作用についても議論ができそうだと思いました。