査読者1

[メタ] 総合的な採録理由

本研究では、熱溶解積層方式により毛構造を3Dプリントする先行研究を発展させ、通常のPLAとは異なる機能性を持つフィラメントによる毛の造形、従来とは異なる柔軟な土台への定着方法の提案、毛構造の形状による触感の違いのユーザ評価が行われました。議論されている内容は、複数の先行事例と区別され新規性があります。一方で、現段階では様々な特性が実現できることが示されたという状態です。そのような特性がインタラクションまたは他の文脈でどれほど有用であるかはこれから明らかにされていくものと感じます。

[メタ] 査読時のレビューサマリ

正確性・記述の質:おおむねすべての査読者から高い評価を受けています。一方で、タイトルが結果を要約できていないという問題も認められました (R15)。 新規性:R15およびR41は新規性の大きさについて指摘していますが、すべての査読者が新規性自体を認めています。 有用性: 有用性について、可能であればカメラレディやご発表でもう少し掘り下げて議論していただけると良いと思います。例えば、個々の機能性を持つ毛で可能なこととしてタッチセンスやハプティクスのような事例 (design examples) が紹介されていましたが、現時点ではここからさらに人間が使う文脈でどう使われるのか (applications) が見えません(R43, R42, R41)。 その他にも色々な指摘がありましたが、特にタイトルと有用性についてさらにご検討いただくことを期待します。 ==判定委員会後2023-11-02に追記== おめでとうございます。本論文はプログラム委員会で審議された結果、ショート再録(再録条件あり)の判定となりました。 カメラレディの原稿作成に向けてすべての査読コメントを参考にしていただきたいと思いますが、再録条件として特にタイトルについて再考いただきたいです。私のレビューコメントの繰り返しになりますが、本研究は(特に導電性・強磁性について)「毛構造の造形手法の提案」になっているとは言えないと思われます。レビューコメントを参照いただき、適切と思われるタイトルに変更してください。 ただ、どういうタイトルなら良いのかという基準が不明瞭かもしれませんし、ご異論があるかもしれません。そういった場合はぜひメタにご相談いただけると幸いです。

[メタ] その他コメント

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

本研究では、熱溶解積層方式により毛構造を3Dプリントする先行研究を発展させ、通常のPLAとは異なる機能性を持つフィラメントによる毛の造形、従来とは異なる柔軟な土台への定着方法の提案、毛構造の形状による触感の違いのユーザ評価が行われました。また、それらの特性を利用したアプリケーションが紹介されました。 議論されている内容は、複数の先行事例と区別され新規性があります。また、記述内容は技術的に正確であり、文章としてもわかりやすく書かれています。さらに、個人的には実際に体験したい内容であり、ぜひWISSで見せていただきたい技術だと思います。 一方で、主要な貢献が「ソフトレジンへの埋め込み」「毛構造の触感の印象評価」「アプリケーションの(簡潔な)紹介」の3つに分かれており、(タイトルのまとまりに対して)取り組んでいることがバラバラに見えてしまう印象があります。また、個々の結果に新規性はあるものの進歩性が小さく、論文採択するに十分な貢献があるかを議論する必要があると感じました。また、現段階では様々な特性が実現できることが示されたという状態であり、そのような特性がインタラクションまたは他の文脈でどれほど有用であるかはこれから明らかにされていくものと感じます。 これらの観点を考慮し、「どちらかと言えば再録」の判定とします。

この研究をよくするためのコメント

原稿は丁寧に記述されておりわかりやすかったのですが、一部改善の余地がありそうな部分も見られましたので、参考にしていただければ幸いです。特に1と2は重要な部分だと思われるので、ぜひ修正していただきたいです。 1. タイトルの変更 現状のタイトルは「導電性・強磁性・弾性を持つ毛構造の造形手法の提案」ですが、「毛構造の造形手法」として先行研究 [10] から大きく変わった部分はないのではないかと思います。また、タイトルの3つの性質のうち弾性だけが他の2つと異なる印象に見えてしまいます(導電性や強磁性は一部の素材にしか存在しませんが、(粘)弾性はどんな樹脂にも存在します)。その意味で、タイトルが論文の貢献を適切に反映しているとは感じられませんでした。例えば、「機能性を持つ毛構造の3Dプリントに向けた複合素材フィラメント・柔軟土台・触感の検討」といったようなタイトルの方が適切だと思います。長いタイトル案なのは私も重々承知していますが、現状の結果はやはり1つのストーリーではまとめられないのではないかと思います。 2. 図4の修正 シリコンモールドへの植毛は本研究の主要な貢献だと思われますが、図4からは、実際にどうやって作られているのかがはっきりとわかりません。個人的には図4の上段の図は不要なので、誰が作っても再現できるように、より詳細なステップを示していただきたいです。例えば、a-cはどの部分が型枠でどの部分がシリコンなのか、どこに毛が入るのか、断面図のどの色は何かなどがわかりやすくなると良いと思います。 3. 4.2節のパラメータへの追記 4.2節には「先行研究の造形方法に対し...3Dプリンタのノズル温度を20 °C高くし,フィラメントの押し出し量を10%上げることで」とありますが、「先行研究」に引用符がないため、どの先行研究に対しての数値なのかわかりません。また、いずれにしても、最終的な数値を他に依存することのない絶対的な数値をカッコなどで追記していただくと読み手にとって親切だと思われます。 4. その他、今後のためのコメント - 印刷できる長さや印刷に必要な時間が評価されていると応用できる範囲が分かって良いと思います。 - サーモクロミックフィラメント、形状記憶フィラメントなどを追加して、合計5種類くらいの機能とそれに対応するアプリケーションを作ることができると、今後より強い論文として執筆していく際に有効だと思われます。


査読者2

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

新規性: 3Dプリントにより造形する毛構造は先行研究で提案されたものであるが, 機能性を持つフィラメントを使用する方法および, 毛をソフトレジンの土台に埋め込む方法を提案した点に多少の新規性が認められる.
有用性: 現時点の応用例と記述から, 一般アプリケーションとして高い有用性や魅力があるとはいえないが, 具体的に実例を示した内容から一定の有用性があることが確認できる.
正確性・記述の質: 論文の記述は整理されており読みやすい.

この研究をよくするためのコメント

- 提案する毛構造は細長い形状であり, また, 触れたりして変形させることを想定した造形物であるため, 耐久性の記述が必要に思われる. 特に, 磁性や導電性のフィラメントで造形した場合に, PLAと比較しどの程度耐久性が低下するのかの記述があると良い.
- 本論文には印象評価の結果を活用した応用例が含まれていない点が気になった. Sec. 5.4の記述の観点から応用例に追記することで評価結果の有用性を高められるのではないかと思われる. - 標準的な0.4mm直径のノズルを使用しての試作であると思われるがノズル経の記載があると良い.


査読者3

総合点

3: どちらかと言えば不採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

本論文では、導電性・強磁性・弾性を持った毛構造を3Dプリンタで造形する手法、ソフトレジンへの植毛手法を提案し、試作した毛構造について評価しています。 毛構造の応用に注目が集まる中、安価な熱溶解積層方式の3Dプリンタでの造形手法、毛への電気的特性の付与の提案の重要性は大きいように思われます。こうしたものについて製造フローを詳細に示すとともに、実際にユーザー評価をおこなっている点、制作例についての記述の中で示されている、今後の触覚ディスプレイ応用を見据えた上での複数のアイディアは高く評価できます。 一方で、3Dプリンタを利用した毛構造の造形については先行研究[5]や[9]で既に示されており、本研究の貢献は導電性、磁性フィラメントの利用とその植毛方式の提案に留まっています。そうしたことから、導電性や磁性、植毛手法を積極的に活用したインタラクションの提案や評価が望まれますが、現状の主な評価は触感のみについてとなっています。また、制作例で示されているプロトタイプについても、毛構造全体が導電性や磁性を持つこと、土台部分の柔軟な形状変化を現状の試作例段階では活用しきれていないように思われました。 以上から総合的に判断し、「3: どちらかと言えば不採録」としました。

この研究をよくするためのコメント

「6 制作例」の中で示されている導電性や磁性を活用したインタラクションのアイディアの実装、毛構造と植毛部分双方を考慮に入れた設計空間の探索を期待しています。

査読者4

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

本研究では、3Dプリンタを用いた毛構造の作成手法を拡張し、導電フィラメントや磁性フィラメントにより毛構造を作成する手法や、植毛土台を柔軟性のある素材にする手法が提案されています。また、植毛パターンや毛の素材による毛構造の触感の印象も調査されました. 研究目的及び新規性がわかりやすく,再現するための技術的な内容も詳細に記述されています.実装もスマートに行われており評価に値します. 一方で,本研究により適用可能なフィラメントを増やし,土台を柔軟に折り曲げて活用することによる有用性が不明確であると感じました.「はじめに」で「毛構造をセンサやア クチュエータとして扱い,静電容量/磁力/圧力等 を活用したインタラクティブな触覚ディスプレイを 構築できると考える」とあり,実際に6章でいくつか制作例が提示されていますが,これらはどれも基本動作を示すものであり,実際にどのようなユースケースがあるのかがわかりませんでした.このような有用性の部分を発表の場で議論できれば良いと考え,採録ないし議論枠での採録が妥当としました.

この研究をよくするためのコメント

- 有用性をサポートする記述:①1章2段落目に,「フィラメントの種類について十分検証されていない」「土台部分を柔軟に折り曲げて活用するような事例はない」「ユーザテストも行われていない」とありますが,まだ行われていないということだけを取り組むべき理由とするのでは弱いと感じます(本当にやる必要があるのかが不明瞭).よって,2段落目の末尾に,これらをやることによりどのようなメリットがあるのかを明記いただくと読者も本研究のインパクトを明確かつスムーズに理解できると思います.②6章の実装が基本動作を示すものに寄っているので,実用する場合にどのようなユースケースが考えられるか,各節の末尾に少し記述いただけると本研究の説得力が上がると思います
- 意味が不明瞭な箇所:5.4章の間隔1mmの毛構造で重い印象が感じられなかった理由として「毛の間に指を入れることが難しい ためだと考えられる」とありますが,こちらの意図することがよくわからなかったため,もう少し詳述していただけると良いと思います - その他細かい部分:①1章末尾のインタラクション・UISTデモの発表論文は引用記号をつけて引用してください②5.4章3行目「なめらか」→「なめらかさ」