査読者1

(Primary)レビューサマリ

スコアは 4, 4, 4, 3 とややポジティブでした。
以下の議論を踏まえ、本論文は条件付き採録(シェパーディング)と判定されました。

ポジティブな点
明確なコンセプトに基づいて妥当なシステムが実装されているという評価で一致しています。

ネガティブな点
- コーディングに対するAI活用の先行研究が多数存在する中で新規性が大きいとは言えない
- 内面的利益を向上させるという目的に対する有用性が十分に示されていない
- 論文の記述や図にわかりづらい部分が多い
点について指摘・議論がありました。

以下の通り、論文の記述を修正することを採録の条件とします:
(1) 4章と5章を1つの章として再構成・改善する
(1-1) 利用例を説明する中で、具体的な作品を示す構成とする
(1-2) 論文で示される各作品の制作者やシステム利用歴について明記する
(1-3) ビデオを見なくても各作品の特徴や改善について理解できるように追記を行う
(2) 「適用限界」を整理する
(2-1) 課題の種類や粒度ごとにグルーピングし、節などに整理する
(2-2) 「議論」や「今後の課題」など、より適切な章題をつける
(3) 図を修正する
(3-1) 図1 をより適切にコンセプトを表現できる図に修正する
(3-2) 図3, 7, 9 を字が読める程度に切り抜き方などを修正する

ほかの指摘事項については条件とはしませんが、各査読者からのコメントを確認して、論旨が大幅には変わらず短期間で修正が可能な点についてはあわせて修正していただくことを期待します。

(Primary)採録時コメント

試行錯誤や創造性が求められるクリエイティブコーディングにカスタマイズされた生成AIチャットを組み込んだプログラミング環境を実装した研究である.システム設計の妥当性や新規性については評価された一方で,論文の記述や図の視認性について問題が多く,内面的利益を向上させるという研究目的に対する有用性を読み取りづらいなど改善の必要性が大きかったことから,条件付き採録と判定された.

(Primary)論文誌として必要な改善点

- 内面的利益を向上させるという目的に対しての(従来手法との比較を含めた)評価

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2

採否理由

プログラミングの中でも、正解がなく試行錯誤や表現性が求められるクリエイティブコーディングにカスタマイズされた生成AIチャットを組み込んだプログラミング環境を実装した研究です。実装したシステムをクリエイティブコーディング経験者が用いた場合の2つの作品例と、その経験を通じての考察が示されています。

・提案されている内容の新規性、有用性、正確性
生成AIと創造性に関する先行研究や議論を踏まえ、直接コードを編集しない、複数の候補をコードではなくビジュアルとして提示するといった目的意識に対して妥当な機能を実装していることは評価できます。

一方で、直接明記はされていないものの、本システムはある程度のコーディング経験者を対象としたものとなっており、そのようなユーザであれば本システムで得られるような効果を自主的なプロンプトの工夫などによって得ることは難しいことではなく、そのような実践は少なくないのではないかとも思われます。また、本論文のテーマについてはWISSでも関心が強いことは想定できますが、無数に見られる生成AIの活用事例として、この論文があるからこその議論を生み出すほどの特段の新規性があるとまでは言えないと考えます。

・論文自体の記述の質
システムを利用した経験についての報告は最小限に留まっているものの、今後の展望も含めて論文はわかりやすく記述されています。

以上を踏まえ、「4:どちらかと言えば採録」と判定しました。

改善コメント

文書によるプロンプトを起点として動作する範囲内では、プロンプトエンジニアリングに毛が生えた程度に感じてしまい、物足りなさが否めません。論文中「AIによる能動的な介入機能」としてそれ以外のインタラクションが少し触れられていますが、ユーザのレベルや成長などをコードから読み取って振る舞いを変えていくことなどまでできると、経験者以外にも対応しやすくなるなど発展性があるのではないかと考えます。(初心者を質問攻めしたら心が折れると思います。)

査読者2

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2

採否理由

概要:
クリエイティブコーディング活動において,ユーザの内面的な能力(自己効力感等)を向上させるために,生成AIを用いて自動的にコードを生成するのではなく,敢えて改善案のヒントのみを提示するシステム(+改善案の表現の可視化機能)を構築し,作品例を紹介している.

コメント:
「敢えてコードを示さず,ヒントのみを提示してユーザに考えさせる」という明確なコンセプトがあり,しっかり実装されたシステムや制作事例に基づいて議論されているので,全体的には採択してWISSで議論したい論文だと思いました.

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- 先行研究は適切に引用されており,研究の新規性も分かりやすく述べられています.
- 制作例と議論を通して一定の有用性が示されています.
- 論文は基本的には明瞭に記述されていますが,後述するように一部分かりにくい点があります.
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やや物足りない点としては,この「コードを示さない」という方針は短期的にはユーザの満足度を下げる可能性が高いと思われるので,定性的でもよいので従来手法と比較した議論があった方が良かったなとは思います.(査読者も,特にビデオを見たらじれったいなと感じてしまいました.)
著者らの主張は論理的には理解できるのですが,結局ユーザの自意識(コードを直接示したとしても,そこで満足せず調べるようなユーザもいる)が絡むのではないかと思うので,万人向けとはいかないのではないかなと感じました.

改善コメント

- 図1のコンセプト図がやや分かりにくいです.これだと単にAIと対話的にコーディングしてるだけに見えるので,本研究の特徴(例: コードは書き換えずに問題のコードを指摘してユーザの調査を促す質問を返す)が分かるように工夫されるとよいと思います.

- 4章~5章の論文の構成が分かりにくいです.特に4章の「結果」という章題は不適切だと思います.(「作品例」等では?)また,4章で作られた作品の具体的な話を5章で書いているように見えたので,もしそうなら,この二つは一つの章として,関連を明示して説明された方が良いと思います.

- 「但し,ユーザの過去の経験や記憶に基づく内省を促す際には,プライバシーや心的外
傷(トラウマ)に関わる情報に触れる可能性がある点に留意する(図8).」
→この文章は図8を見ても何が言いたいのか理解困難でした.個人情報が含まれるので,データの取り扱いに注意する必要があるという意味でしょうか?あるいは,システムがあえてその内容を刺激しないような設計が必要であるということでしょうか?

- 4章の「制作者」は著者の一人なのか,あるいは別人なのでしょうか?このシステムの利用歴を明示したほうがよいと思います.

- 図5の「作品例」は興味深いのですが,まずアニメーション作品であることがビデオを見るまで分かりませんでした.その点明示したほうが良いと思います.また,aとbのどちらがよいのかは作者以外には何とも言えないと思うので,ユーザの視点でどのように改善されたのかを5.2節等に記載されるとよいと思います.(ビデオの説明を見たら何となくbが設計意図に近いのだと理解はできましたが)

- 「適用限界」の章は,将来の展開から本質的な課題,細かい問題までを同じレベルの箇条書きにしているように見えるのが少々気になりました.細かい問題はまとめるなど工夫された方が可読性が上がると思います.

- ユーザの内面の影響を,(内在的な能力,自己効力感,自己内省,感情的なウェルビーイング)と記載されていますが,この4項目が本研究の焦点に入っているのか少々疑問です. 例えば感情的なウェルビーイングの話はほとんど出てこないと思うので,適切な用語を選定して記載されてはどうでしょうか.(概要と背景で用語が少しぶれているのも統一したほうが良さそうです)

-細かいですが, 「ユーザが入力したプログラムコードは即座にコンパイルされ」とありますが,これは1文字単位で処理するのか,word単位/行単位で処理するのかもう少し説明があるとよいと思いました.

査読者3

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2

採否理由

提案されているアイデアは大変興味深く、有用性もあり価値のある論文であると考える。
デモの動画からも実際にAIと対話しながら創作している様子が見受けられ、クリエイティブコーディングをする際に有用なシステムであると考えられる。
他方で、タイトルにもあるような「ユーザの内面的利益を向上」させる根拠となる、このAIによる対話がユーザにとってどのような影響を与えているのかについての具体的なユーザからの意見が不足していると考える。

改善コメント

4章の結果や5章の利用例と記載されているが、「ユーザの内面的利益を向上させる」ということが主目的であるならば、ぜひユーザにとってどのような影響を与えているのかについての具体的なユーザからの意見を記載していただきたい。
特に、クリエイティブな作業については出来映えの評価よりもユーザの満足度についての評価が重要であると考える。
提案されているシステムはとても有用であると考えるため、具体的な評価をするまではいかなくとも、複数人にシステムを利用してもらい、このシステムを利用した結果どのように感じたのかユーザの意見が追記されるとより良い論文になると考える。

査読者4

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

3

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

1

採否理由

本論文では、クリエイティブコーディングにおける生成AI技術の活用に向けて、ユーザの内面的利益向上に向けたインタラクション手法やそれを統合したプログラミング環境を提案しています。アドバイスや、それに基づく改善案の提示を通じて、ユーザに思考を促すことで、目的とする内面的利益の向上を目指しています。

- 新規性について
クリエイティブコーディングを題材として、内面的利益向上を見据えたAI活用を目指すというコンセプトには一定の新規性があるように思われました。ただし、コーディングに対するAI活用には多数の先行研究が存在し、また、直接的な答えの提示や、創造的活動における内省についても、著者らが取り上げるように多数の先行研究が存在します。

- 有用性、正確性について
著者らの提案するコンセプトの有用性自体は、先行する直接的な答えの提供の弊害に関する研究[17]や、内省についての研究[6]等によって一部示されています。ただし、より具体的な各インタラクション手法や実装したプログラミング環境の有用性については十分に示されていないように思われました。現段階では、プロトタイプ実装とその利用事例の限定的な紹介にとどまっており、著者らが適用限界の節で述べるような、今後のより詳細な評価や実験なしには、システムの有用性を十分に判断することはできないように思われました。

- 論文の記述の質について
全体としてよく構成されていますが、図については改善の余地があるように思われました。図1のコンセプト図や図2以降の各手法の説明について、実際に実装したプログラミング環境のスクリーンショットが用いられていますが、特に図3や図7、図9など文字が小さく読みづらいように感じました。説明している内容にフォーカスして切り取る場所を限定したり、より抽象的な図で表現するなどして、伝えたい情報がスムーズに理解できるよう工夫できるように思いました。

改善コメント

論文中で挙げられている今後の課題についてはよく整理されており、現状挙げられているものの解決に取り組むだけでも十分に良い論文へと改善が進んでいくように思われました。他の論点としては、似たコンセプトの先行研究の存在する文章生成や楽曲生成と比較して、クリエイティブコーディング特有の課題や特有のインタラクションがどのようなものか、より詳細な議論が見てみたいように思いました。抽象的な発想を数理的・手続き的に落とし込む必要があったり、コードと実行結果に明快な対応関係があるなどといった特有の試行錯誤のプロセスによって、他のタスクと比較したときにどのように適切なインタラクション手法が変わっていくのか、ということが気になりました。