査読者1

(Primary)レビューサマリ

4名の査読者のスコアは4, 5, 4, 5点(平均4.5点)と高く、採録に値する論文であるという結論に達しました。
撮影者が光学レンズフィルタの効果を簡単にデザイン、また試作可能にすることにはどの査読者からも一定の新規性、また有用性があると評価されています。

一方で、客観性に欠ける表現があることや、デザインツールの説明不足の問題、コンセプトと実装・評価の整合性のブレの問題が指摘されており、改善の必要があると考えます。
そこで議論の結果、最終的に次にまとめる採録条件を採録条件とする「条件付き採録」と判定しました。

・「ユーザが自身の求める表現のために最も適した1枚をデザインをすることができる」「実用レベルの光学品質」など、論文中に客観性に欠ける記述が散見されるとの指摘については記述の修正の必要があると考えます。
・「ユーザ自身が求める表現」, 「求める効果」などの表現も散見されますがこれも同様で、「ユーザが意図を持ってデザインする」、「(表現意図を持った)プロ・ハイアマチュア向けのツールである」という論文のコンセプトに沿ったものだと思いますが、プロ・ハイアマチュアといってもどの程度の表現意図を持ってデザインに挑むかは様々あると思うので、この意味(範囲など)を明確にしてください。

上記の改善は採録条件ですので、可能な限り改善をお願いします。

また以下の指摘についても、これは採録条件ではありませんが、可能な限り改善を行ってください。

・ 「ユーザが意図を持ってデザインする」、「(表現意図を持った)プロ・ハイアマチュア向けのツールである」などのコンセプトと対応付けながら、デザインツールの設計意図(UIデザイン・基本図形・設定可能なパラメータ・操作方法についての設計意図や詳細)を論文中で可能な限り具体的に述べてください。

・評価についても同様で、「意図を持って設計する」というコンセプトに沿った分析になっていないという指摘があり、「意図を持ってデザインできていたのか」についての視点での分析・考察を可能な限り行ってください。

その他の指摘があった点についても可能な限り修正をお願いします。

(Primary)採録時コメント

本論文では,ユーザ自身が求める光学効果をデザインし,3Dプリンタとスピンコーティングを用いて実用的な光学品質をもつレンズフィルタを製作できるシステムLightMorphが提案されている。個人レベルでレンズフィルタの光学効果を自在に設計・実現できるという発想は一定の新規性があり,また実際の写真・映像制作の事例を伴うワークショップを通じて有用性を示している点は評価できる。論文全体の構成や記述も明瞭であり,完成度は全体的に高い。一方で,一部論文中に客観性に欠ける表現や,デザインツールの操作方法や操作可能なパラメータ等を含む詳細の記述や設計意図の記述が不足している点などの指摘もあった.
以上の理由から,条件付き採録と判断された.

(Primary)論文誌として必要な改善点

該当なし。

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

3

採否理由

本論文は、写真撮影者が光学レンズフィルタを簡単に設計可能なツールと、3Dプリンタとスピンコート技術により質の高い試作が可能な手法が提案されています。
スピンコート技術を使い高い完成度の試作を実現した点など新規性もあり、レンズフィルタを身近な材料を加工して制作する試みは写真の一つの楽しみ方としてかねてから行われてきましたが、3Dプリンタを使って表面形状をより自在にデザインできるようにしようという試みはその表現可能性を広げる研究としてとても面白いため、採択に値すると思います。

改善コメント

一方で、提案されているデザインツールについては、シミュレーションなどを盛り込むことで視覚的に効果を確認できる点などは良いのですが、デザインツールの設計意図などについて、以下のような疑問があります。

・基本形状が5種類しかない点について、なぜこの5種類にしたのでしょうか?

・12種類のパラメータは具体的にどのようなパラメータでしょうか。その設計意図は?

・「求める表現を持つ」、とはどういうことでしょうか。こういう絵にしたい、というのがすでに具体的に頭の中にあるということでしょうか。

・デザインツール(のUI)の設計方針が明確にかかれてないので書いた方が良いと思います。
特に、今回のツールが「求める表現を持つ」人がその表現を達成できる設計になっているのかは疑問です。一見ツールの設計の自由度は限定的な印象で、既に頭のなかにある表現をつきつめられる設計というより、むしろツール内のテンプレートや設定可能なパラメータを色々動かしてみて、その場でできそうな効果を探しながらデザインし、実際に使ってみて予想外の効果もあるなかこれらを活かす撮影対象を探すような使い方に適した設計のようにも思えます。

以上のように、設計ツールの設計意図を明確にすることで、有用性が明確になると思います。
またツールの設計意図について、以下のような疑問点も感じました。

・このようなコンセプトでも十分有用だと思うのですが、表現意図が明確にあるプロ向けというよりは、これはライトユーザも想定したツールのようにも思えます。

・実験においても、被験者が当初どのような表現意図をもっていたか、それをもとにどのように設計を行ったか、その結果どういう作品ができあがり、それは製作者的にどうであったかを調べる必要があると思いました。

査読者2

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

5

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

3

採否理由

新規性:個人が狙ったレンズ効果を実現できるようなカメラレンズのファブリケーションを実現している。従来は狙った効果にあった既製品を選ぶしかなく、個人が狙った効果が可能なレンズ自体を製造できる手法は新しい。3Dプリンティングでレンズを作る手法はあるが、カメラ用にユーザの表現拡張を目指すものは前例がないと思われる。

有用性、正確性:カメラ経験者によるワークショップが実施され、システムの有用性が評価されている。システムも正確に実装されている。

記述の質:全体的に読みやすく書かれていた。ワークショップの章については、半構造化インタビューを行ったとあるのに対し質問項目が明記されていなかったなど、もう少し記述の工夫の余地があると感じた。

以上の通り、多少の改善点はあるものの全体的に完成度が高く新規性もあるため、採録判定とした。

改善コメント

デザインツールのユーザビリティについての評価が欲しい。
採否理由にも書いたが、半構造化インタビューとあるので、どのような質問項目があり、それに対しどのような回答があったのかをわかりやすく記述してもらえると理解しやすい。
特に「意図通りの効果を実際に発揮できたか」のような質問項目とこれに対する回答をまとめてもらえると、本研究の貢献が明確化されて良さそうである。

これは単なるコメントだが、タイトルに"Morph"が含まれるがどのあたりが"Morph"なのだろうか。"XXMorph"というタイトルはShape-Changing Interfaceの研究につくことが多い気がするので、少し混乱するかもしれない。

査読者3

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

5

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2

採否理由

デジタルファブリケーション技術を用いて、カメラマンの表現活動を広げる、非常に興味深い研究です。
論文は、研究目的、手法、対象ユーザ、制作手順が明瞭に示され、全体を通してとてもわかりやすく書かれています。文章での説明が難しい箇所も、図を交えて工夫してわかりやすく記述されています。6ページという限られた紙面を最大限活用した、非常に洗練された論文です。ワークショップを通じた評価が実施され、制約についても整理されて記述されています。
惜しいところとしては、デザインシステムの提案論文であるので、デザインプロセスの肝であるデザインソフトウェアのUIについての情報がやや不足しているように感じました。図1(A)や3.3節に記載があるものの、ユーザが調整する12種類のパラメータの内訳や、それをユーザがどのように調整していくのか等、もう少し詳細な解説が欲しかったです。

改善コメント

シミュレーションの精度が気になりました。市松模様などの評価用の被写体画像を用意して、シミュレーションと実物の比較があると良いと思います。

査読者4

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

3

採否理由

概要: 様々なレンズフィルターのデザイン(+シミュレーション)システムを開発し,
光造形式の3Dプリンタ+スピンコーディングによる後処理を用いて造形手法を実装した.
さらに,システムを用いたワークショップを通してその利用可能性を示した.

コメント:
レンズのシュミレーションや設計,及び光造形+スピンコート後処理という要素技術としてみると新規性は限定されますが,カスタムレンズフィルターとして実用できるレベルに仕上げつつ,ワークショップを通して具体的な作品例を示しており,登壇発表として採択・議論可能なレベルの論文だと思います.

論文の記述の質も基本的に問題ありませんが,数点気になる点があるため後述します.

改善コメント

まず,論文の記述として気になった点は以下の通りです.

- 図3に示す5種類の基本形状を選んだ意図が簡潔に説明できるとよいと思います.(例: カスタムレンズフィルターとして市販されるものから,技術的に製作可能なものを選んだ等)

- 「12種類のパラメータ」は何を調整できるかの重要な指標なので,表などで分類して示せるとよいです.

- 「LightMorph でデザイン可能な形状は全10 万通り以上であり,ユーザが自身の求める表現のために最も適した1 枚をデザインをすることができる.」
→この説明は「最も適した1枚をデザインできる」根拠にはなっていないため,この文章は削除した方が良いです.

- 図6は,派手なエフェクトが掛かりすぎていて,元々どのような画像なのか理解しにくいのがやや残念です.もしフィルターなしの画像があるなら,その写真と比較して説明できると効果が分かりやすいと思います.

研究の本質的な問題として気になった点は以下の通りです.

- 制作例を見ると,派手な飛び道具的な事例を中心に紹介されていますが,よりさりげない効果を加えるものが製作可能なのかは気になりました.(さりげない効果の方がレンズの品質が問われるとため)現在の事例だと,フィルターで絵作りがかなり決まってしまいそうで,用途が限定されそうに感じます.

- デジタル的な画像処理技術も進んでいるため,一般的にはフィルターなしで撮影してから後処理をした方が有利なケースが多そうです.ハイアマチュアが趣味で作品を作る時ならよいのですが,「仕事」用の写真で使うには手戻りができないのはリスクが高いように思います.この点は本研究の本質的な課題だと思うので,その場でフィルターを使うからこそ表現できる要素等を整理/強調できるとよいと思います.