査読者1

(Primary)レビューサマリ

提案手法は球面ディスプレイ上での波紋表示によるポインティング位置推定を扱っており、
新規性は限定的だが、有用性と実装・評価について一定評価されています。
他方で、関連研究との比較不足、用語や表記の不統一、パラメータ説明の不十分さ、考察の浅さなど、完成度に課題が指摘されています。
特に、タイトルにある「遠隔コミュニケーション支援」については文脈の論文としては有用性や新規性が本研究では読み取れないため、採録するためにはタイトルの変更や再検討が必要であると考えています。

【新規性について】
・限定的ではあるものの、球面ディスプレイでの波紋表示について新規性がある、という意見は全査読者が一致している

【有用性・正確性について】
・効果や活用場面の一般性は不明瞭で限定的であるものの、球面ディスプレイでは反対側が見えにくく、ユーザテストで検証していることから、波紋型ポインティングはその課題解決に有用であると考える。
・FocusBox自体の説明や定義が不足しており、位置づけが不明瞭なため新規性や有効性の主張が十分に整理されていない。
・波紋生成に関するパラメータ(伝播速度・透明化速度・太さなど)の説明が不十分である。

【記述の質】
・用語の使い方をHCI分野標準のものに改める必要がある。
・今回提案している同心円状の波紋の画像がなく、実際にどのような視覚性・視認性を持つかが確認できない。
・表記揺れや誤記が散見される。

【その他】
「遠隔コミュニケーション支援」というタイトル、観点での研究と捉えると今回の提案では有用とは言い難く、タイトルの変更や再検討が必要であると考える。

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上記を総評して、条件付き採録と判定します。条件は以下になります。

【条件】
・ 論文タイトルの修正
 複数の査読者のコメントにもあるように、現状の論文内容では、「遠隔コミュニケーション支援」を主題とするまでは言い難いため、現在の論文タイトルは不適切であると考えます。そのため、トーンを弱める、用語を言い換える、状況に応じて削除する等、適切に修正してください。
・表記の修正・統一
 査読者の採否理由・コメントにもあるように、論文内での表記揺れや誤字、表現の不足などを修正し論文の可読性を上げてください。

【改善コメント】
・球面ディスプレイ上に表示された画像の掲載
 査読者のコメントにあるように、実験の様子の画像はあるものの、実際にどのような視覚性・視認性を持つ波紋が映されていたのかが確認できないため、球面ディスプレイ上に表示された画像、あるいは元となるソフトウェアの制作画面上の画像を掲載してください。

(Primary)採録時コメント

本研究では, 球面ディスプレイ上での波紋表示によるポインティング位置推定を扱っている.先行研究から続いているものであり,今回の論文のみでの新規性は限定的だが,有用性と実装・評価について一定評価されている.定義や位置づけが不明瞭であることや,将来的な目的への議論が不足している点などの懸念はあるものの,WISSで議論することで研究の発展が期待される.以上の理由から,条件付き採録と判断された.

(Primary)論文誌として必要な改善点

遠隔コミュニケーションという観点で進めるのであれば、ポインティング情報のみならず、そのポインティングから遠隔者に対してどのような行動を促すことができるのか、どのような伝達が可能なのかを丁寧に分析し議論することが必要不可欠だと思います。
他方で、インタラクションやアートという観点や、VRでの応用など、技術的な観点で新規性・有用性を示していくのであれば、よりポインティングの精度や技術的貢献を主としてまとめられるといいかと思います。

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

3

採否理由

球面ディスプレイ上の波紋型ポインティングのシステムとしては、論文中にも述べられている通り既存の先行研究があり、今回の提案が十分な差分があるとは言い難い。
他方で、今回の提案手法が先行研究と比較して適切なポインティングが可能となっている点については、有用性があると考える。
議論の章で今後の展望について述べられているが、球面ディスプレイによる遠隔コミュニケーションが果たしてどれほど効果的なものなのかについては現状の記載ではクリティカルな回答ではないと考えられ、検討の余地があると考える。

改善コメント

球面ディスプレイを用いたインタラクティブなコミュニケーションを実現する、という観点ではとても興味深い研究であり、今後の発展も様々な方向性が期待できると考える。
他方で、この遠隔コミュニケーション支援という観点で見たときに、この球面ディスプレイがどれほど効果的なものなのか、研究が進んできたからこそ今一度このフェーズで再検討してもいいかもしれない。

査読者2

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2

採否理由

新規性・有用性:
波紋エフェクト自体は既存のUI研究で一般的に利用されており、完全に新規とは言えない。ただし、本研究はそれを球面ディスプレイに応用し、自遮蔽問題の解決を試みた点に限定的な新規性がある。

既存の「FocusBox」との比較を行っているが、FocusBox自体の説明や定義が不足しており、位置づけが不明瞭なため新規性や有効性の主張が十分に整理されていない。

実装努力は認められる。一定人数を対象とした評価実験を行い、SUSスコアやWilcoxon検定で有意差を示している点は評価できる。

一方で、波紋生成に関するパラメータ(伝播速度・透明化速度・太さなど)の説明が不十分であり、手法を定義するパラメータとして十分に明示されていない。

信頼性:
関連研究について、既存の波紋的エフェクトを利用したポインティング研究に触れておらず、偏りが見られる。これらを引用した上で本研究の位置づけを明確化する必要がある。

波紋パラメータの系統的な検証が不足しており、実装記述もコードレベルに偏っている。再現性を担保するには、数式や変数を用いたパラメトリックなモデル化が求められる。

実験は複数条件で定量・定性的に議論している点は一定評価できるが、定量評価の解釈が不足している。例えば、Wilcoxon検定で有意差が出た事実は示されているが、なぜ差が出たのかという考察が欠落している。SUSスコアに関しても15ポイント程度の改善が見られるが、その要因を具体的に議論すべきである。

記述の質:
「5min(スペース抜け)」「Googleformとgoogle formの表記揺れ」「図中ラベルの頭文字の大文字化抜け」など初歩的な表記揺れや誤記が散見される。有効数字も桁数が統一されておらず、全体として細部の詰めが甘い印象を与える。

論旨は明確な主張に基づいて構成されているというより、実装過程の羅列に近く、研究日誌的な印象が強い。「本研究ではこれを提案手法とした」といった記述は、論旨が整理されていない日誌的な印象を与えて、論文としての完成度を損なっている。

コードのファイル名など、研究の本質に関わらない冗長な記述が多く、可読性を下げている。本質的にはアルゴリズムやパラメータのモデル化を提示すべきである。

引用不足が目立ち、特に「波紋エフェクト」「球面ディスプレイ研究」に関する関連研究が挙げられていない。また「FocusBox」については説明がなく唐突に登場しており、詳細に記述する必要がある。

最後に提示される買い物ユースケースの記述は不十分で、読者に正確に伝わりにくい。ユースケースが容易に想起できるよう、図やシナリオ記述を追加することが望ましい。

改善コメント

改善コメント:

自遮蔽問題の解決手法は波紋以外にも考えられる。例えば、映像の歪み処理や反対側ポインタの透過表示などとの比較を行えば、提案手法が「波紋ありき」ではなく、他方式との相対的な位置づけとして議論できる。

マルチユーザ環境で複数波紋が干渉する場合に備え、色や形で区別する設計を検討すべき。

評価実験を拡張し、波紋パラメータがユーザ認知や操作性に与える影響を定量的に検証すると、説得力が一層高まる。

査読者3

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2

採否理由

■提案されている内容の新規性(先行研究との差分が十分にあるか)

提案表示方法に新規性があるとは思われないのですが、ユーザテストにより提案手法の効果を示したことに貢献(新規性と有用性)があると思いました。

■有用性(実際に役に立つか),正確性(技術的に正しいか)

本研究成果にどれだけの一般性(活用方法)があるのかは怪しいですが、ユーザテストにより提案手法の効果を示したことに貢献(新規性と有用性)があると思いました。
正確性については恐らく問題無いと思うのですが、ユーザテストの記述にやや不安を覚えます。具体的には各実験での1人あたり試行数(推定して貰った数)まで書かれれているとその不安が解消されます。
- 実験1:「目印16個 x 繰り返し2回 = 32試行」でしょうか。
- 実験2:「回数6 x 目印2個 = 12試行」でしょうか。
- 実験3:「目印16個 x 繰り返し2回 = 32試行」でしょうか。

■論文自体の記述の質(分かりやすく明確に書かれているか)

用語の使い方をHCI分野標準のものに改める必要はあります(最初は大混乱しました)が、それに慣れれば分かりやすいと思いました。

■採録の条件
1. タイトルでもそうなのですが、用語の使い方をHCI分野標準のものに改める必要はあります。第1節に「球面ディスプレイ上に「波紋表示」を行い,ユーザーが球面上のどこを見ていてもポインティング箇所を推定できる手法を提案する.」とありますが、この説明での用語の使い方は正しいと思います(提案しているものはポインティングされた位置を分かりやすくするための表示方法だと思います)。
2. 5.4.2節に「中にはそれを活用し,1回目のポインティングで大体の位置を認識し,2回目でその周辺を注視することで詳細な位置を把握する,といった方法を確立している人もいた(P4).」とあります。ということは、実験2において2回目は1回目と異なる箇所が指示される設計になっていることにP4は気づいて、そのことを利用して(つまり波紋表示以外の情報を活用して)回答したことになります。すなわち実験2の設計には不備があることを意味します。したがってこのことをlimitationとして記載してください。

改善コメント

是非、研究を進めて、提案手法が遠隔コミュニケーションを支援しているかどうかの検証も行ってみてください。

■その他
1. タイトルに「遠隔コミュニケーション支援」とあるのですが、本論文はそこまでを扱っていはいないので、タイトルも改めた方が良さそうです。
2. 5.3節で「店員」という語が使われていますがここでは「被験者」ですよね。
3. H_2がH_1と同じに見えるので改。H_2の説明に「視野外の」を追記すると良さそうです。
4. 図5〜図7に示されている結果を比較できるように縦軸を揃えるべきです。
5. 全角数字と半角数字とが色々と混在しているようです。
6. 実験1,2のにおいて → 実験1,2において

査読者4

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2

採否理由

新規性:
本研究では、球面ディスプレイ上に「波紋表示」を行い,ユーザが球面上のどこを見ていてもポインティング箇所を推定できる手法を提案しており、本表示手法自体が新規と言える。

有用性、正確性:球面ディスプレイの場合、球面に対して自身と反対側は見えることができないため、このような手法の開発には動機・必要性があると考えられる。実際ユーザ評価も行い、波紋を用いない従来手法に対してポインティングの認識精度、ポインティング場所の推測に関して有意性があることが報告されており、評価できる。
一方で、球面ディスプレイを用い、かつ本論文では球面ディスプレイと遠隔のモバイルデバイスとを組み合わせた非対称的なコミュニケーション場面を想定しており、本手法のニーズ、インパクトに関しては、関連する場面がどの程度現れるかに依存し、現状では不明である。

記述の質:論文の技術的な説明に関しては概ね明快で問題ない。一点のみ、画像も含めた説明に関して、今回提案している同心円状の波紋の画像が本文中になく、実際にどのような視覚性・視認性を持つかが確認できないため、球面ディスプレイ上に表示された画像(や元となるソフトウェアの制作画面上の画像)の掲載が望まれる。

改善コメント

本論文の手法のニーズ、インパクトをより説得力を持って主張するために、可能であれば、何らかの定量的あるいは定性的な説明によって、今回想定している球面ディスプレイと遠隔のモバイルデバイスとを組み合わせた遠隔コミュニケーションが、現在、また今後どのように使用されていくかを記述してはどうか。

また、今回提案されている波紋が実際い球面ディスプレイ上に表示されている画像がなく、実際にどのような視覚性、視認性を持つかが確認できないため、論文中によくわかる球面ディスプレイ上に表示された画像(や元となるソフトウェアの制作画面上の画像)の掲載が望まれる。