査読者1

(Primary)レビューサマリ

4名の査読者によるコメントをまとめると,以下のとおりです.

肯定的な意見:
- 既存研究との差分があり,新規性があると判断できる.
- 提示された応用例もユニークで興味深い.複数人利用や公共空間での利用の可能性も含め,将来の発展が期待される.
- 技術的な説明や実験は概ね正しく,再現性を担保している.文章も全体的にわかりやすい.

否定的な意見:
- 導入のモチベーションと本文の技術的焦点がずれており,論文全体の一貫性がやや弱い.
- アプリケーション案について実装や検証・議論があることが望まれる.
- 投影結果が反対色になる理由や,プロジェクタでなければならない理由などの議論が不足している.
- 図や本文に誤りや不明瞭な点がある.

査読者全員が本研究の新規性や発想の面白さを高く評価しています.また,実装と実験によって一定の有用性も示されています.一方で,修正や加筆が必要な点も複数指摘されており,これらは論文修正によって改善可能であると考えられるため,条件付き採録と判定いたしました.以下は採録のための条件です.

1. 導入のモチベーション(複数人同時提示)と本文の技術的焦点(視線方向による提示)がずれていますので,論文全体で一貫性のある記述となるよう改善してください.
2. 提示画像にどのようなデザイン上の制約があるかについて追記してください.
3. 投影の結果知覚される色がCtの反対色となる理由について考察を追記してください.
4. 技術的にディスプレイでなくプロジェクタでないと実現できない理由があれば説明を追記してください.
5. 各査読者の改善コメントで指摘されている図や本文の誤りや不明瞭な箇所を改善してください.
6. UIST2025のデモでご発表された以下の貴論文につきまして,本文中にて言及し引用してください.
 
Ryusuke Miyazaki, Shio Miyafuji, Kyeongwan Kim, and Hideki Koike. 2025. A Display Method Visible Only During Gaze Fixation on Moving Objects using High-Speed Projection and Striped Pattern. In Adjunct Proceedings of the 38th Annual ACM Symposium on User Interface Software and Technology (UIST Adjunct '25).

※WISS2025の登壇発表の諸注意には「既発表または発表予定(採録済)である投稿者自身の関連発表については本文中にて言及し参照文献を掲載してください」との規定があります.

また,これは採録のための条件ではありませんが,もし可能であれば簡易的な実装でも構いませんので,発表当日までにアプリケーション案のうちどれか一つでも実装し,複数人での利用について考察していただけると,WISSでのよりよい議論が期待できると思います.ぜひご検討ください.

(Primary)採録時コメント

本研究は,高速プロジェクタを用いて,視線の移動方向によって異なる画像が知覚される映像提示手法を提案している.既存の視線インタラクションや多視点提示の研究と比べ,原理や効果に新規性が認められる.また,提案手法について実装とパラメータ調整の実験が行われており,その内容に正確性と有用性が認められる.応用例も大変興味深く,複数人利用や公共空間での利用の可能性も含め,将来の発展が期待される.一方で,記述内容の一貫性の問題や,原理や制約に関して追記が望まれる箇所,図や文章の誤りや不明瞭点などが指摘されている.以上の理由から,条件付き採録と判断された.

(Primary)論文誌として必要な改善点

- ユーザスタディ(ヒトによる観察,視認性の検証)
- アプリケーションの実装と実現可能性の検証

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

3

採否理由

■新規性
高速プロジェクタを用いて,視線の移動方向によって異なる画像が知覚される映像提示手法を提案しています.観測者の視線運動に応じて映像が表出する手法は前例はいくつかありますが,それらとは異なる新しい手法を提案しており,新規性があると思います.

■有用性・正確性
本論文の内容で,この手法が実現可能であることは示されており,一定の有用性が認められます.また,技術的な説明には一定の正確性を有していると判断します.提案されているアプリケーション案はいずれもユニークで面白いですが,同等の規模感での実装や検証が行われておらず,本当にそのような利用が可能かは少し半信半疑な部分があります.今後,実装と人間による検証を期待したいです.

■記述の質
おおむねわかりやすく書かれていますが,一部の図にわかりづらさがあるので改善の余地があります.

改善コメント

- 元画像は黒背景に白文字の前景があるデザインですが,埋め込み後の画像では,背景部分が白っぽい画像になっています.原理上,このような変質は避けられないのだと思いますが,ユーザが意図した色見の画像を提示するためには,どのようなデザイン上の制約があるのかを明らかにしておく必要があろうかと思います.
- 投影の結果知覚される色がCtの反対色となる現象については,図5で確認できますが,なぜそうなるかについては言及がありません.カメラでもそのように見えていることから,光学現象であることは間違いなさそうですが,考察がほしいところです.
- 図3:図中で拡大表示している個所がありますが,上下の画像で同じ位置をピックアップし,同じ位置でのCrの合成結果を示すべきだと思います.
- 図5:レイアウトが意味するところがよくわかりません.点線の区切りに対する元画像の配置がおかしいと思います.また,視線移動方向(左から右など)と視認画像の対応関係がわかりづらいので,注釈や図タイトルの書き方を工夫してください.

査読者2

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

5

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

1

採否理由

新規性:
リフレッシュレートの高い映像提示機材において、視線方向によって人間が認知する映像を変化させる手法を提案しています。
手法は大変おもしろく、革新的であると言えます。

有用性・正確性:
サッケードでこの提案手法が有効でないのは残念ですが、リミテーションについても記述しています。
ただし、サッケードが発生しないように提案手法を使用できるユースケースについては、案を上げる程度に留まっていて、実装がされていないように感じます。

記述の質:
とても良くかけていると思います。実装に割かれている文面も適切で、再現性を損ねていません。

改善コメント

プロジェクターを用いている理由が読み取れませんでした。
技術的にディスプレイでなくプロジェクターでないと実現できない理由などがあれば、記載したほうが良いような気がします。(単純に現在の技術だとディスプレイでは実現できないのか、そもそも原理的にディスプレイで実現できないのか、などの記載がほしいです。)
アプリケーション案についても、幾つかプロジェクターではなくディスプレイのほうが適していそうなものがあります。(トラックのユースケースなど)

また、現状は2方向に限られているようですが、3方向以上に対して変化させることの実現可能性について触れると読者に親切かもしれません。

査読者3

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

3

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2

採否理由

• 新規性
提案手法は高速投影と時間方向の色分解を組み合わせて、視線移動方向に応じて画像を切り替える。既存の視線インタラクションや多視点提示の研究と比べても差分がある。

しかし、論文全体では「複数人同時提示」というインタラクションの意義を強調する導入に対して、技術的検証に終始しており、実際に複数人で利用した場合の考察がほしいところ。

• 有用性・正確性
技術的には正しく実装されており、パラメータ調整の実験も行われている。ただし、応用例がアイデアレベルにとどまり、現状の性能で何が可能か・どの程度見えるかといった議論が欠けている。案のデモや簡易応用実装が一つでもあれば、論文の説得力が大きく増す可能性がある。

• 記述の質
導入のモチベーションと本文の技術的焦点がずれており、論文全体の一貫性がやや弱い。イントロでは「複数人同時提示」を強調している割に、図1は1名のみ視線の話となっている。また、その実証が行われていない点も読者に違和感を与える。

改善コメント

1)導入と論文全体の一貫性
導入では「複数人同時提示」「公共空間での利用」が強調されていますが、本文は技術的手法の説明に寄っている。狙いを「複数人・非トラッキング環境で異なる情報を提示できる技術」と明確に位置づけると、読者が研究の意義を理解しやすくなるだろう。

2) 複数人利用に関する議論の深掘り
複数人が同時に閲覧した際の課題(距離・角度による視認性差、視線移動のタイミングが異なる場合の干渉など)を整理すると、今後の研究や実装指針に役立つ可能性。

3)応用例の具体化と簡易実装
7章の応用例は魅力的ですが、どれか一つでも簡易デモや写真を示すと説得力が増す。現状の投影周波数・分割数nでどの程度実用的か、どのような場面なら成立するかといった議論もあると良い。

4) 図やタイトルの改善
図1に複数人が同時に異なる画像を見ているイメージを加えると、研究の面白さや特徴が視覚的に伝わる。

査読者4

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

5

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

1

採否理由

[新規性]
視線移動方向に応じて異なる画像を知覚させることができる映像表示手法として、同等の先行事例があるのかどうかは専門外のために判断が困難だが、2章の関連研究の記述は充分に信頼感があり、新規性があると判断した。

[有用性]
もしも実際にアプリケーションが実現されていたら有用性が判断しやすくて望ましかったが、実現はされていない。しかし、7章の4つのアプリケーション案は大きく紙面が割かれていて説得力はあり、有用性はあると判断した。

[正確性]
実験結果で有効性が確認されていて、技術的には問題がないと判断した。

[記述の質]
全体には比較的わかりやすい記述が多かった。ただし、3.2節や4.1節の説明はややわかりづらく改善の余地がある。図2でCtとCrが具体的にどこを指しているのか、図3でなぜ1×nピクセル領域に分割するのかも、もっとわかりやすく説明できるとよい。図中では「1×nピクセル」なのに、本文の「視線移動方向が長辺となるようにn×1ピクセルの長方形領域に分割」では「n×1ピクセル」なのも混乱する。「領域の代表色を領域内の色の平均で定める」のがなぜなのかも、もっと明確に説明して欲しい。

以上から、「5: 採録」と「4: どちらかと言えば採録」で迷ったが、記述の質は改善されることを期待して、「5: 採録」と判断した。

改善コメント

- 「上下左右のうち異なる2方向」と述べられているが、「上」と「下」の組み合わせは選べないはずで、誤りである。本来は「上下から1方向と左右から1方向を組み合わせた最大2方向」と書くのが正しいと思われる。もし「上」と「下」の組み合わせも選べるなら、それがどうして可能になるのかも明記する必要がある。

- 3.2節で、「0 ≦ Rr, Gr, Bt ≦ 256」のBtは、Brと書くのが正しいと思われる。

- 5.1節で、「埋め込む画像の枚数x」が、どの場合にxの値がいくつで、それがなぜなのかを明記した方がわかりやすい。

- 6.1節で、「視線移動方向の数については,2方向埋め込み時は1方向埋め込み時と比較して視線移動時画像の視認性が低下しており,また投影周波数も倍となるため」とあるが、投影周波数は倍にはならないはずなので、誤りではないか。

- 6.2節で、「投影の結果知覚される色はおよそその反対色となった」のはなぜなのか、理由の考察が欲しい。