査読者1

(Primary)レビューサマリ

本論文は、査読者4名の評価は (4, 4, 3, 4) で平均 3.75 となっており下記の理由から、「条件付き採録」と判定しました。

本研究では、鉄分添加されたシリアルを砕いた粉末を、皿に入れた液体(牛乳)上に浮かせ、皿の裏側から動的なアクチュエータ付き磁石を用いて、
5×5の特定パターンに磁力吸引しディスプレイ化する手法を提案している。
食品自体をピクセルとして用いており、そのままの飲食が可能な点で新規性が認められる(後述のように食べたいかは別)。
日常食ではなくレストランやイベント等における表現への活用ができそうである。

一方、
・鉄分添加されたシリアル自体が磁石に引き寄せられる現象は既知であり、それ自体に新規性はない。
・ダイナミック(動的)なディスプレイであることを主張しており、そのための実装になっているが、パターン変化時の応答性に触れられていない。
 さらに、ダイナミック性に対する説明が不十分である(既存手法として泡やプロジェクタを用いた手法もダイナミックであるが何が差分になるのか?)
・目標とするディスプレイ要件が示されておらず、これで十分かが読み取れない。
 特に、パターン(WISSの各文字)がハッキリと再現できいるように見えない点は複数の査読者が指摘している。
・シリアルの粉砕を必要とし、食品としてそれでよいのか(食感などが変わるのではないか、受容性なども議論すべきでは?)
・再現性を担保するためのパラメータ(磁石、皿などの情報)が示されていない

などが指摘されている。

上記懸念がある一方、WISSで議論できる実装はされており、アイデアの面白さ自体は査読者らによって認められることから
条件付き採録と判定しました。

条件は下記の通りです。
====
1. ダイナミック性(応答速度、フレームレート)の追加実験を行い加筆してください。
 ただし、小規模な予備実験や、過去の実験の録画データ等の分析等でも定量的に議論頂ければ構いません。
2. 再現性を担保するためのパラメータ(磁石、皿などの情報)を示してください。
3. 食感などが変わることの議論を追加してください。

(Primary)採録時コメント

鉄分添加されたシリアルおよび可動磁石マトリクスを用いて,液体に浮かぶシリアル粉末をコントロールできる,動的かつ可食であるユニークなディスプレイ技術の研究である.
有用性では議論があるもののアイデアの面白さは査読者全員の認めるところであり,ディスプレイとしての性能等を追記することを条件とし,条件付き採録と判定した.

(Primary)論文誌として必要な改善点

論文誌へ推薦しない。

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

3

採否理由

・新規性:鉄分含有量の多いシリアルを磁石吸引によりディスプレイ化している。既存のHFIとは異なるアプローチであり、食品自体は市販の牛乳やシリアルであるため安全性を考慮する必要はなく容易に入手できる。

・有用性:解像度の問題や、液量が多くなるとコントロールが難しくなる。シリアルを砕く必要があるなどはデメリットであるが、例えばレストランやイベントでの提供であればコントロールできる範囲に思える。また、様々なパラメータでの検証は行われているので再現性が担保されている。

・正確性:実装は十分に説明されている。

改善コメント

動的な磁石を用いたコントロールだが、ただの磁石を粘着シートなどに並べたものでも再現ができそうと感じた。また、牛乳のような液体であれば既存手法のようにプロジェクションを組み合わせることも考えられる。
また例えば磁性体のスプーンとのインタラクションもあり得そうである。

粘性の低い牛乳などはあるのでしょうか?(低脂肪のものなど。)

査読者2

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2

採否理由

本研究では、鉄分(還元鉄)を含有したシリアルが磁石に反応することを利用した可食ディスプレイを提案しています。提案システムは、平皿を乗せた台座の内部に磁石を搭載したリニアアクチュエータを並べたもので、GUIからの操作によって特定の位置の磁石を上昇させ、その周囲にシリアルを集めるという仕組みです。提出された動画から、シリアルが磁石に反応して水面を移動する様子が確認できます。

鉄分を含むシリアルが磁石に引き寄せられる現象はよく知られていますが(初等教育の実験教材などに用いられることもあるようです)、磁石を用いてコンピュテーショナルに制御することには新規性があると思います。一方で、提案した手法の面白さを正しく伝えきれておらず、手法の再現のための情報が十分に提供されていない印象を受けました。システムの実装はできており、WISSでの議論に足るものになっているという点を鑑みて、「どちらかと言えば採録」と判定しました。

・新規性
手法の目的として、著者らは「情報提示のダイナミック性」と述べています。しかし、このダイナミック性について十分な説明と定義がなされておらず、泡やプロジェクタを用いた先行手法と差分がわかりませんでした。

・有用性
論文中の図や実験結果などを見る限り、ディスプレイとしての有用さには疑問があります。たとえば、図2cの「W」と「I」などは好意的に見たとしてもそのように読み取るのが難しいように思います。本研究の目的あるいはシステムを述べる際に、ディスプレイとしての要件を整理されると良かったのではないかと思います。たとえば、提示できる(提示すべき)情報や必要な解像度、体験者に求める行動(シリアルの散布、攪拌、飲食)などです。また、文字やパターンではなく、シリアルの動きで情報を伝えるディスプレイという方針もあったのではないかと思います。

・正確性および論文の記述の質
提案手法の調査に関して説明不足な点があります。
- 実装に用いた機材の情報を示してください。たとえば、ネオジム磁石の詳細(グレードや磁束密度など)、皿の厚みや大きさ(液体を含めた磁石との距離など)、シリアルの前処理の詳細や具体的な鉄分含有量などです。これらが示されていないと実験が再現できません。
- 4.2.6で「外部振動を与えた場合(中略)類似度に顕著な変化は見られなかった」とある一方で、6章では「精度実験で効果が示唆された外部振動」とあります。これらについて修正を行ってください。

改善コメント

採否には影響しませんが、いくつか修正していただくと良いと思われる点があります。図5のヒートマップにおいて、「Cereal 0.5g」と「Liquid type milk」の2つが、類似度が下がった結果としてハートの模様が表れているように見える可能性があります。誤解を与えないような見せ方や説明が必要です。また、実験結果と考察は分けて記述されると良いと思います。図4にグラフが示されてはいますが、「顕著な変化は見られなかった」といった著者の解釈が先行しているように読めます。

本手法は、食品を動かしている原理を悟られないところに面白さがあるのではないかと思いました。また、スプーンに磁石を埋め込む実装も可能そうです。スプーン磁石に食品が近づいていくようなディスプレイはもちろん、提案システムによる制御との組み合わせでスプーンから逃げていくような演出も可能かもしれません。

査読者3

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

3

採否理由

本論文では、鉄分の添加された食用シリアルが磁石に引き付けられる性質を用いた新しいドットマトリクスディスプレイが提案されています。シリアルを液体に浮遊させ、マトリクス状に配置した磁石を下から近づけることで磁力を加え、シリアルを任意のドットパターンに再配置させる手法がとられています。

磁力を用いたドットマトリクスディスプレイはいくつかあるなか、食品をピクセルに用いた例として新しく、食べられるピクセルを動的に動かせる、また文字などのパターンをお皿の上に表現可能にする点など、食事体験を拡張する技術として(場面としては祭事やイベント等の機会に限定される、また他の種類の食品への一般化は難しいとは思いますが)有用性も高いと感じます。プロトタイプの実装もできており、技術の再現性などの論文の記述の質についても問題ないと思いました。

一方で、実験においてはいくつか気になる点がありました。
まず提案システムの「動的性」について、最終出力結果(出力された模様)のみに着目している点が気になりました。実装されたシステムでは、5x5という荒い解像度ではありますが、各ピクセルを独立制御可能であるため食べられるピクセルを「動的に」動かすことができます。つまり、模様なし/ありの2値的な変化ではなく、その変化の過程まで表現要素として活用できるということです。これがこの装置の大きなメリットだとおもいますが、評価では動き(模様の変化過程)についてはあまり着目されておらず、最終出力結果(模様)に影響するパラメータのみに評価の焦点が当たっている印象です。これを評価するのであれば、小型の磁石を並べるなどでより高い解像度でドットパターンを構成できる(模様は固定的ですが)ので、これを用いて実験を行った方が各パラメータの(低解像度時では困難な)模様のディテールへの影響などのディスプレイとしての本質的な性能を評価できるように思えました。

改善コメント

上記で述べた通り、提案手法の持つ動的性について、複数のパターンが表現可能というより、その変化過程についても改めて着目してみると、本研究の面白さがより増すように思えます。

査読者4

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

3

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

3

採否理由

新規性:シリアルに含まれる鉄に着目し,液体中のシリアル片を磁場により動かして動的ディスプレイを実現する試みには前例がないと思われる。アイデアも面白い。

有用性、正確性:システムの実装について細かく書かれている。また、表示精度の定量的な評価も行われている。
一方で、写真を見る限りあまりデザインしたパターンを再現できているように見えない。用いるシリアルも程よく粉砕したものでなくてはならず、かつそれを水に浮かべる必要があり、そのようなものを実際に食べるという場面がイメージしづらい。また、動的表示ディスプレイの研究であるのにも関わらず、応答速度に関する評価が無いのが気になった。このように、正確に目標を達成できているかがやや疑問である。

記述の質:全体的に問題ないが、情報不足の部分やtypoがいくつか見られる。

以上の通り、アイデアは面白いと思うものの、正確性(有用性)に若干の疑問がある。よって、「どちらかと言えば不採録」とした。

改善コメント

動的なディスプレイの研究なのに応答速度(シリアルが動く速度)の技術評価が無いのが気になりました。
シリアルを細かく粉砕する必要があるとのことですが、具体的にどの程度のサイズでなくてはならないのか気になりました。
外部振動というのは具体的にどのような振動を与えたのでしょうか?(皿を揺らす感じでしょうか)

記述に関して:
- 1章3段落目「依然として表現力や制御性に制限がある」の具体例に軽く触れていただけるとイメージしやすいです
- 4.1 いきなり項目1で「撮影」と出てくるので、撮影することで評価するということを前もって書いておいて欲しいです
- 4.1 項目2「液体添加量」は(80 ml,120 ml,160 ml)では無いですか?
- 図4(f)と(g)に「シリアル量」と書いてもらえると理解しやすいです
- 「概要.」と概要文との間に改行は入れないでください