査読者1

(Primary)レビューサマリ

本論文は偏光フィルタレンズを回転させるデバイスを実装し,人間に偏光を知覚させるという新しい人間拡張の方向性を提案している.
査読者全員が着眼点について一定の新規性を確認している.しかし,論文内容は偏光知覚そのものを拡張する研究ではなく「偏光を利用した機能実装」であり,既知の偏光発生の再確認にとどまっている点が懸念されている.
また,実装及び技術妥当性に関しては,Rev91が指摘する通り,偏光カメラやディスプレイを用いず光学的アプローチにこだわる理由や実装に関する議論の不足が指摘されている.
有用性に関しても,複数の査読者から.実験から得られた知見や議論が十分でなく,得られた結果に新規な発見生が乏しいと指摘された.
ただし,提案の内容はWISSで議論するに相応しい論文である,と判断された.
採択にあたり,以下の3点を条件とする.

1.研究の目的とビジョンの整理・明確化
現状の論文では,「人間への偏光知覚能力の付与」という未来ビジョンと「偏光の活用による機能実装(検出・提示)」という実際のゴールが混在している.両者の関係性を整理し,論文中で明確に書き分けること.
2.技術的実装と光学的アプローチの位置づけの明確化
なぜ偏光カメラやディスプレイなどの既存手法を用いず,光学的な回転フィルタ方式を採用したのか,その必然性と技術的意義を明確に説明すること.また,デバイス構成・実装上の工夫について,工学的な説得力を補強する議論を加えること.
3.偏光の見せ方および応用方法に関する議論の拡充
議論章で,偏光箇所が明滅して見える提示方法の妥当性や限界,今後の応用可能性について具体的に論じること.特に,使用感(装着時の印象や見え方の評価)や,今後の偏光情報提示のデザイン指針などを示すことが望ましい.

(Primary)採録時コメント

本論文は,偏光フィルタレンズを回転させて人間に偏光を知覚させる新しい人間拡張を提案している.着想の新規性は認められるが,偏光知覚の拡張ではなく既知現象の再確認にとどまる点が懸念される.また,偏光カメラを用いない光学的手法の必然性や実装に関する議論も不足している.有用性についても知見の新規性や議論の深さが不十分であると指摘された.ただし,着想自体はWISSで議論する意義がある.以上の理由から,条件付き採択と判断された.

(Primary)論文誌として必要な改善点

新規性の明確化.(人間拡張の方向性を明確に)
実装手法の妥当性の議論.(なぜこの実装を選んだのか,実験後の議論,等)
実験で得られた結果に関する詳細な分析・議論

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

3

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2

採否理由

本論文は偏光フィルタレンズを回転させるデバイスを実装し,人間に偏光を知覚させるという新しい人間拡張の方向性を提案している.
特に,動物が持つ偏光知覚能力を人間に付加するという発想は先行研究との差別化につながっており,新規性がある.
しかし,現段階では「偏光が観察される場面を収集した探索的調査」に留まっており.従来研究と比べてどのような新しい知見が得られたのかがやや不明瞭に感じる.
実験により,偏光可視化の利用可能性を探索する試みは有意義だが,現状では具体的なアプリケーションや応用シナリオが提示されていないため,詳細なシステム評価を行うのは難しいと思われる.
また,実験は7名の参加者によって行われたものの,誰がどの程度偏光を感知できたのかといった詳細な分析が不足しており,結果の正確性や一般化可能性が限定的である.
以上,デバイス自体の技術的実装については概ね妥当と考えられるが,その有効性を裏付ける評価が不足しているため,全体的な評価は3とする.

改善コメント

実験結果の記述が列挙的で,分析の深みや読者への説得力に欠ける部分がある.また,生物の特性を人間に付加した場合に期待できる拡張の方向性についての議論があると,研究の意義が伝わりやすくなると考えられる.

査読者2

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

3

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

3

採否理由

偏光板を回転させ偏光を明滅させることで偏光を知覚可能にする装着型デバイスを用いて、日常にある偏光の利用可能性を探索的に調査した研究です。

偏光を「人が知覚できるようになる」とどうなるか、というビジョンは面白いと思います。
しかし、論文を読むと、「人に偏光を知覚させる」というより、「偏光を使って何かを検出しよう(検出する機能を実現しようとしている)」ように感じました。このような偏光を使ったカメラ・センサ等による検出技術は来技術として様々存在し、この検出結果を知覚させるには提案デバイスを用いるより直接偏光カメラ等を用いて検出した結果を視覚化してやディスプレイ装置(眼鏡型にこだわるならARゴーグル等も含む)で提示する手法の方が良いと思います。

また偏光と非偏光の区別だけでなく、例えば振動方向(角度)や位相のずれ、振動面の時間変化(円偏光か楕円偏光か、またそれぞれ右回りか左回りか)なども偏光の応用には重要であるため、提案デバイスだけで見える偏光の要素は限られ、将来的な拡張可能性は高くないのではないかと思いました。また提案デバイスによる偏光の知覚が「直接的な偏光の知覚手法」であるとする主張には無理があると思いました。

探索調査も行われていますが、すでに偏光フィルタや偏光カメラ等を使った手法で検出でき、過去に実用化されている検出例を再発見したにとどまっていると思います。これをもとにした議論についても特に目新しさを感じませんでした。

改善コメント

未来ビジョン的な内容とこの論文の実際のゴールをもう少しわかりやすく書き分けると良いように思えました。
偏光現象(光の振動方向など)そのものを人に知覚させたいのか、それともデバイス側で偏光を使って何かを検出し提示したいのか、
タイトルや論文の冒頭部分、また未来ビジョンなどを読むと前者について述べているように思えるのですが、
実験、議論や今後の展望は後者(偏光の有効活用)の方向に流れていたと思うので、
両者の関係性(偏光知覚のビジョンの最初のステップとして偏光の有効活用性の調査をやる、など)を
はっきりさせると読み手が混乱しないと思います。

また、以下細かい指摘なのですが、第1章に以下のような記述があります:
1. 「光は電磁波であり,光の進行方向に対して電場と磁場が互いに直交するように振動している.」
2. 「太陽光や蛍光灯の光などの一般的な光は電場と磁場があらゆる方向に振動しており,これを無偏光という.」
3. 「これに対して反射などの特定場面では,電場と磁場の振動する方向が規則的な光が生じることがあり,これを偏光という[3].」
1については単一の光波のことなのでいいのですが、2と3については複数の光波(の集合)の話なので、1と同様に1つの光波のように解釈されると「偏光では電場と磁場がそれぞれ独立して振動している」かのように誤解されかねないと思います。
1の通り電場と磁場ベクトルはつねに直行しているので、一般的(慣例的)には光(偏光)の振動方向は、電磁ベクトル側の振動方向が基準とされています。

査読者3

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

3

採否理由

本論文では,眼前に配置した偏光子を回転させることで偏光のみが明滅して見えるようにしたウェアラブルシステムを構築し,偏光が日常生活のどのような場面で生じているかを探索的に調査しています.

「もしヒトに偏光を知覚する能力が備わっていたら,どのような応用が可能か」という大変興味深いテーマを扱っています.関連研究のサーベイも十分に行われており,全体として読みやすく,記述の正確性も高いと感じます.

活用可能性を見出すための初期的なステップとして,丁寧な観察と考察が行われており,現時点で即座に実用化に結びつく知見は得られていないものの,今後の展開に向けて掘り下げる価値のある複数の着眼点が提示されています.特に,自動車の傷やへこみの検出,物体の材質推定,人の肌状態の推定といった方向性は,さらなる検証に十分値すると考えられます.

まだ初期検証の段階ではありますが,WISSの場で発表する意義のある内容であり,今後の発展が期待されます.

改善コメント

今回の実装はあくまで検証用だとは思いますが,ウェアラブルデバイスとして,使用感(参加者の感想)がどうだったのか気になりました.例えば,偏光箇所が明滅するという見せ方の是非など.

査読者4

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2

採否理由

本論文では、人間に本来備わっていない 偏光知覚能力をウェアラブルシステムで付与し、それを通じて生活空間における偏光の活用シーンを探索しています。プロトタイプ実装と実験により様々なシーンを発見し、それぞれにおける適切な偏光の提示手法についても議論を与えています。

- 新規性について
偏光という通常知覚できない現象を、ウェアラブルデバイスによって直接的に体験可能にすることで生活空間における活用シーンを探索する試みは独創的であり、新しい研究領域を切り拓く可能性があるように思われました。既存の偏光応用研究は多いものの、生活空間での偏光の活用を見据えた研究は少なく、十分な新規性を有していると判断しました。

- 有用性,正確性について
液晶ディスプレイの調整や、太陽位置の把握など、偏光を活用できる具体例を提示しており、潜在的な有用性は高いように思いました。ただし、本稿の評価は探索的観察にとどまり、実用性やユーザビリティを示す定量的な裏付けには欠けています。著者らも述べるように、今後それぞれの活用例に応じた適切なデバイスの開発とその評価が必要であるように思われます。

- 論文の記述の質について
全体としてよく構成されていますが、初期検討段階ということもあり実験や議論の章については調査結果が雑然と並んでいる印象がありました。各偏光の内容と偏光の見せ方の対応について、もう少し構造的に分割したり対応関係を明示することで議論が追いやすくなるように思いました。

改善コメント

人間が直接偏光を知覚することが重要でありカメラやディスプレイを介した間接的な表現に頼るものではない、といった偏光知覚の定義の限定と、まとめなどで述べられるような日常生活の様々な場面での偏光の活用、という目的との関係性が十分に理解できず、(なぜ偏光カメラとディスプレイを使うのではいけないのでしょう?)このあたりの整理が必要であるように思われました。