査読者1

(Primary)レビューサマリ

スコアは 5, 4, 4, 3 とややポジティブでした。
以下の議論を踏まえて,条件付き採録(シェパーディング)と判定されました。

ポジティブな点
- 歩行記録を組み合わせて絵を作るという発想の新規性
- 完成度の高いアプリが実装されている

ネガティブな点
- GPSアート制作手法としても歩行促進手法としても大きな効果は発揮できていない
- 2つの狙いがうまく整理できていないために論文の主張がわかりづらくなっている

以下の通り、論文の記述を修正することを採録の条件とします:
(1) 奇数ページヘッダのタイトル(~歩行促進手法)と表題(~アート制作手法)を一致させる
(2) 歩行促進手法として求められる・評価すべきこと、GPSアート制作手法として求められる・評価すべきことを示して、実装・評価・議論に軸を通す

そのほか各査読者からの細かいコメントについても可能な限り対応されることを期待します。

(Primary)採録時コメント

日常生活中の歩行ルートをGPSで記録・収集し,集めたルートの地図上の軌跡形状をストロークとして組み合わせたアート作品を制作できるシステムを提案した研究である.GPSアートを手軽に取り組めるようにする発想の新規性はポジティブに評価された一方で,歩行促進・アート制作の2つの狙いがうまく整理して記述されていないこと,どちらの狙いに対しても大きな効果が見られていない点がネガティブに評価された結果,条件付き採録と判定された.

(Primary)論文誌として必要な改善点

歩行促進につながる動機づけとしては弱いということがわかってしまった状態だと思われます。シェアできるとしても自己満足できなければやはり動機づけとしては弱いのではないかとも危惧されます。焦って論文を書くのではなく、研究目的に立ち返ってアイデアを練り直し、試行錯誤を重ねる必要があると考えます。

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

3

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2

採否理由

日常生活中の歩行ルートをGPSで記録・収集し、集めたルートの地図上の軌跡形状をストロークとして組み合わせたアート作品を制作できるシステムを提案した研究です。事前の計画と一度の歩行で作品を完成させるGPSアートと比較して、より手軽に取り組めることが特徴です。

・提案されている内容の新規性、有用性、正確性
GPSアートに必要な事前計画の労力や一度の歩行で作品を完成させる大変さを軽減することで、より手軽に取り組めるアクテビティとしている点には新規性がありそうです。

しかしながら、論文中で示されている作品例を見る限りでは特段の作品性は感じられず、利用者の声でもいつも通りの歩行を記録しただけにほぼ留まっているように見受けられることから、楽しさ・歩行促進の効果の両面でGPSアートやポケモンGOなど従来手法に大きく劣っている状態だと思われます。この方針が妥当なのか本論文の記述からでは十分に説得されませんでした。

論文は全体的にわかりやすく記述されていますが、本システムではストロークの拡大縮小はあえて実装していないのに、なぜ回転だけは許すのかなど、アプリケーションの設計で疑問が残る点もありました。

以上の観点から、強く採録を推すことはできないと判断しました。

改善コメント

ルートをバラバラにしてしまうことで、GPSアートの持つストーリー性のような価値がほとんどなくなってしまっているのが最大の課題だと思います。GPSアートは、完成した絵だけで「すごい」となるものではなく、労力をかけてそのように歩いた、そのような絵になる道が存在したことなどがすごい・おもしろいわけで、日常生活の歩行を寄せ集めた絵を見ておもしろいと思える気がしません。単純にシェアされても魅力を感じられ無さそうです。

ストーリー性が失われてしまったのはGPSアート制作を簡単にしすぎてしまったせいではないでしょうか。何らかの制約を設けることで魅力があるコンテンツになる可能性があると思います。ソーシャル機能で議論されていることなどは近そうです。地域限定、ある決まったお題をみんなで描く、複数人でリレーする等々。

制約とおもしろさのバランスや設計方法などをさらに広く議論することができれば深い研究になりそうです。

査読者2

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2

採否理由

本論文は,歩行の軌跡を保存し,その組み合わせによって絵を描けるアプリを用いて歩行促進を図る手法を提案している.歩行促進を創作活動と結びつける取り組みは独自性があり興味深い.また,実験的な検証や利用者からのフィードバックを通じて議論を行っており,研究全体はよく構成されていると評価できる.
一方で,関連研究については,2.3章で本研究の位置付けが示されているが,2.1-2.2章は説明の羅列にとどまっており,論文の位置付けを十分に明確化できていない.他研究の分類や比較を通じて違いや特徴をより具体的に明らかにすることが望まれる.
また,評価方法についても改善の余地がある.歩行促進を目的とする以上「歩行量が実際に増加したか」は,本人の感じ方ではなく,定量的な測定が望まれる.もしくは,主観的評価を行うのであれば,「歩行を増やそうと意識したか」「普段と異なる道を選ぼうと意識したか」といった動機付けや行動変容の観点からの評価が適切に感じられる.
さらに,本論文は技術的な説明,もしくは議論が足りていない.例えば,6.1 章で示されている新機能はとても魅力的であり,本研究の発展性を感じさせる.ここにもう少し技術的な工夫や実装上の独自性が盛り込まれると,研究の貢献が一層強調されるであろう.
以上より,本研究の評価は5とする.

改善コメント

採否理由にあるように,本研究は新規性と実践性を兼ね備えた有意義な取り組みであるが,関連研究の整理・比較,評価方法の精緻化,および技術的な工夫の追加が望まれる.

査読者3

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2

採否理由

新規性:断片的な歩行軌跡を組み合わせてGPTアートを作成できるシステムは他にはないと思われる。

有用性、正確性:システムの実装が正確に書かれているのは評価できる。ただ、GPSアートを日常生活に気軽に取り入れられることでどんな嬉しいことがあるのかを1章で明記してほしい。それに基づいて運用評価の評価項目は決められるべきである。5章を読む限り歩行促進効果を狙っているのかと考えられるが、その場合GPSアートを日常生活に気楽に取り込むことと矛盾するのではないかと思った(例えば、いつもの買い物ルートを組み合わせたらアートが完成してしまうため。実際の実験結果でも歩行はあまり増えてないように見える)

記述の質:5章において、情報の抜けが見られる。加筆してほしい(コメントに詳述する)

以上の通り、有用性や記述の質について疑念が残るものの、システムが確かに実装されており、WISS会場で本システムの意義について議論される余地があると判断したため「どちらかと言えば採録」とした。

改善コメント

採否理由にも書きましたが、GPSアートを日常生活に気軽に取り入れることで何が嬉しいのかを1章で明記してほしいです。

記述について:
- 5章: 「5段階評価」とはいわゆるリッカート尺度で1が「全くそう思わない」で5が「強くそう思う」みたいなものですか?具体的にどのような尺度なのかを明記してください
- 図8:平均点であることを明記して欲しいです
- 2.3:先行研究では後から軌跡を繋いで作るアートがないことを明言して欲しいです。
- [9]は以下の方がいいかもしれません→https://link.springer.com/article/10.1007/s41095-019-0146-z
- typo: 3.2末尾「記録されてのか」

査読者4

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

5

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

3

採否理由

■概要
日常の歩行の軌跡を手軽に記録し、それを用いたGPSアート作品を制作するスマートフォンアプリの提案である。

■新規性
GPSアート自体は一定の歴史がある分野であるが、アプリで記録した歩行軌跡をパーツとして自由に組み合わせて絵を作るという発想には新規性がある。
同一テーマで同一著者がWISS2024でのデモ発表を行っているが、そこからは、実際に利用してもらってのアンケートや、そこから検討した今後の展開についての議論が加わっている。

■有用性
歩行活動への動機づけには、さまざまな試みが行われてきている。
しかし、単純に何処かに行くとか、歩数がポイントに換算されるなどの手法とは異なり、
自分の歩いた軌跡で絵が描けるという試みは、歩行活動自体に対する工夫を誘発し、より長期に継続しうる動機付けとなりうる。
また、事前に広域の地図を見て、どのように歩ききるかを厳密に計画してから実行する通常のGPSアートと異なり、細かいストロークごとにパーツを蓄えていく発想の本提案は実行するハードルが低く、より広い層に訴求しうる。

■正確性・記述の質
大きな問題はないと思われる。
4人からのアンケートであるので、5段階評価の数値よりも、自由記述での内容が重要であり、そこから議論につなげていることは良い。

■WISSで議論する価値
人々の日々の行動を技術の力を借りてエンタメ化することは、インタラクティブソフトウェアの持つ大きな力の1つであり、本提案にとどまらない日常のエンタメ化のアイデアや試みがWISSでの議論を通じて生まれてくることを期待する。

改善コメント

GPStroke に関して、大きく2つの課題があると思われる。
1つは、作品を作る動機づけ。手書きですら絵を描く人間は少数派であるので、自分が歩いた軌跡とはいえ、ヨレヨレの線を使って頑張って絵を作ろうという動機が生まれづらい。これはアプリを利用し続ける動機に直結する。
2つは、歩行活動を工夫する動機づけ。議論でも触られていたとおり、日常の歩行活動は固定化されており、変える動機がない。しかし、本アプリを楽しく使い続けるには、特定の軌跡を作りたいという動機を持ち、実際に計画して歩いてみて、そして、うまくいった、いかなかったという結果を得るというサイクルを作り出す必要がある。ルート提案機能も大事かもしれないが、まずはある形の歩行軌跡を作りたいという動機を設計することが重要である。
この2つの課題は、同一のアイデアで同時に解決する可能性も高いが、一方で、ただ漫然とソーシャル機能を入れただけで解決するものではないので、サービス設計として計画し、何度も実際に作ってみて試行錯誤する必要がある。
登壇発表時に、こうした動機づけについても、いくつかアイデアが提案されることを期待している。