査読者1

(Primary)レビューサマリ

査読者一同、VR空間でのポインティングの成功率を推定する数理モデルは有用であり、将来性がある研究であることを認めています。一方で、現状のモデルの限界や、システムの評価の内容に問題があるため、これを改善する必要があると指摘しています。また、評価実験の記述が誇大であったりするので、それは修正が必要だと思います。

このため本論文は条件付での採録と判定します。特に、以下の部分に関して論文を修正してください。
- 論文の項目のタイトル(セクション名)を再検討してください。
- システムの評価の内容を再検討してください。具体的には、
-- 「本スタディは,事前アンケート,提案ツールのチュートリアル,評価タスク,そして半構造化インタビューの流れで進行した.」とありますが、具体的な内容は示されていません。WISSの論文の紙面上、これらを示すことは無理だと思いますので、本評価は簡易的なものであると明言し(実際2名であれば簡易的だと思います)、「7 システムの評価」についても網羅的・一般的なイメージがありますので、より焦点を絞ったものに変更してください。
-- 「アンケートの結果,ツールは高く評価された.」とありますが、アンケート内容が不明なため、具体的に何が評価されたのかが不明です。簡易的な評価では「高く評価された」ことは重要ではなく、どのようなことが観察されたのかが重要なので、そのように修正してください。
-- 2つの事例どちらも、今回の実験で得られたデータと構築されたモデルで網羅的に扱うことができるとは確認できていないので、より限定的な記述に留めるべきかと思います。
- 「8 議論」においても「被験者数が限られていることや,ある程度の経験を有する参加者に対象を絞っていることは制約ではあるものの,本システムは選択成功率を指標としたUI 改善を可能にし,高い評価を得た.」というのは言い過ぎです。ユーザスタディを実施したと言っていますが、現時点では小規模なユーザテストという段階だと思いますので、これも誤解がないか確認してください。

(Primary)採録時コメント

査読者一同,VR空間でのポインティングの成功率を推定する数理モデルは有用であり,将来性がある研究であることを認めている.一方で,今回モデル構築のために実施された実験から得られたデータは,本研究で提案しているVR環境でのUI構築時のオブジェクト成功率の推定に利用するには限定的なデータであり,実験計画を含めて再検討の余地がある.大規模なデータによるモデル構築を含めて,今後の発展が期待される.以上の理由から,条件付き採録と判定された.

(Primary)論文誌として必要な改善点

論文誌や国際会議での論文採択に向けては、現在得られているデータによるモデル構築には限界があるため、より網羅的な実験による大規模なデータ収集が必要になると考えます。

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

3

採否理由

本研究はVR環境中におけるオブジェクトの選択時の選択成功率を推定するツールの提案です。総じて興味深い研究であって、将来的にも有用なシステムであると思います。

しかし、本研究で実施した調査実験と開発されたツールのあいだには大きなギャップがあると思います。つまり、「3 実験」で実施した実験は,ISO9241-411の多方向タッピング課題を採用していました。これは良いと思うのですが、しかしこの実験で得られる知見は「ユーザから100m(cmの間違いだと思いますが)の距離の円周上に配置されたオブジェクトを、移動距離A(30°、35°、40°)離れたターゲットを選択する場合の精度の推定ができるようになったこと」だと思います。これはこれで有用な知見であると思いますが、一方で提案されたツールは2次元平面上で構成されたインタフェースの選択精度を推定するものでした。この観点では「円周上に配置されたターゲットの選択精度のデータが、ユーザからの距離が常に変わる2次元平面上のオブジェクトの選択精度に直接的に応用できるのか」は自明ではなく、またユーザからの距離が変わるため、推定精度は大きく変化していくものであると思います。さらには、視野中心と周辺では選択精度が大きく変わっていくものですので、同様に円周上に配置されたオブジェクトの選択精度を2次元平面のオブジェクトの選択精度の推定に応用するためには、さらに多くのデータが必要になります。

これらの制約については3Dインタラクションを検討する場合には必須であると思いますが、本論文においては特に言及がありませんでした。さらには「本研究ではユーザスタディを行い,ツールの有効性を調査した.被験者数が限られていることや,ある程度の経験を有する参加者に対象を絞っていることは制約ではあるものの,本システムは選択成功率を指標としたUI 改善を可能にし,高い評価を得た.」とありますが、さすがに実験の参加者が2名で、何の数値的指標も検討していない状態でこのような記述は過大評価であると考えます。著者の想像の域を超えないものです。

「8 議論」においては他にも様々な制限について議論されています。それは良いことだと思いますが、それ以上に本質的なモデル上の制限があることは明白ですが議論されていません。WISSという議論の場であることを考慮すれば、現時点で発表して頂くことには反対はしませんが、適切なトーン(つまり過大な評価はしない)は必須であると考えます。

改善コメント

検討するべきパラメータが多いことと、それらについてはまだ十分には検討されていないことから、本研究の制限については十分に言及されることが必須であると思います。

査読者2

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

5

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2

採否理由

■概要
VR空間でのポインティングの成功率を推定する数理モデルを構築し、VRアプリの開発ツール内でUIの形状による選択成功率を表示するツールを提案している。
実験の上で、十分に精度を維持したシンプルな数理モデルに落とし込み、それを用いた実用的な支援システムを実際に作成し、ユーザスタディによる評価まで実施していることが特徴である。

■新規性
先行研究として2DのUIに対しては同様にタップ成功率を可視化するUI分析ツール「Tappy」が公開されているが、
それをVR版に拡張し、VRのUI選択成功率の数理モデルを構築したことが新規性である。

■有用性
実験を元に、シンプルな数理モデルを導き、ユーザースタディで有用性を示した。
実際に、人数は少ないが、実際にVRアプリの開発経験のある人物から高く評価されていることは注目に値する。
VRは操作への習熟の度合いにより選択の精度に差が出やすく、
VRに熟練した開発者の基準でUIを制作すると、初心者に操作しにくいものになりがちであるため、
数値で開発者に目安を示せることは、感覚によらない一定品質を保てるという有用性もある。

■正確性・記述の質
全体的に大きな問題はないと思われる。
強いて言えば、数理モデル構築用の実験では球状ターゲットを元に行っているが、実務上、UIは矩形のボタンであることが多い。
今回の実装システムにおいては、シンプルな検討で矩形にも応用できると仮定して成功率を表示しているが、
議論にも書かれているとおり、数理モデルが矩形のボタンでも適用可能なのかについては慎重な検討が必要である。
また、数理モデルを構築する際の実験の被験者が20歳前後に固まっており、加齢に伴う傾向の変化が存在する場合、考慮できていない。

■WISSで議論する価値
2Dで行われていた先行研究を3Dに応用したという研究ではあるが、
実験をした後に、数理モデルを適切に少ないパラメータに落とし込んでいく過程や、
実務経験者にユーザースタディを行っていることなど、
進め方としても丁寧な研究であり、WISSの場で議論することに価値があると考える。

改善コメント

VRは経験年数によっても操作の精度が変わっていくため、
数理モデルの構築時は、VR経験の有無や、年齢層など、実験対象者を広げて実施したほうが良いと思われる。
その際に、経験の有無による選択成功率の数理モデルの変化も含めて知見が得られると、
初心者に向けたVRアプリでのUIサイズの基準をツールでサポートでき、
より実用的なツールになることが期待できるので、検討していただけると幸いである。

査読者3

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

3

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2

採否理由

本論文は、VR 環境におけるレイキャスト選択の成功率を推定する数理モデルを構築し、それを Unity 上の開発ツールとして実装・評価した点に新規性と有用性がある。2DではTappy、VRではEDModel などがあったが、開発者が直接利用可能な「VR選択の選択成功率推定ツール」として統合した点が貢献である。18 名による8640の試行サンプルが収集され、それを用いたモデル構築と精度検証を行った。またUnity ツール実装と2名の開発者による評価を通じて、研究と実開発のギャップを埋める応用的意義が確認された。

新規性
- 既存の EDModel を再検証しつつ新しいパラメータ検討やモデル簡略化を行った点に学術的貢献がある。
- 特に Tappy の概念を VR UI に拡張し「成功率推定ツール」として実装した点はユニークであり、研究と開発をつなぐ価値が高い。
- 一方で、基礎となる理論モデルは既存研究に依拠しており、新規性は「統合と応用」に位置づけられる。

有用性・正確性
- 実験モデルの推定精度は高く、実務上有用であると予想されるが、18名の被験者によるデータ、特に属性のばらつきが大きいサンプルでは十分とは言い難い。
- ツールは Unity エディタ上で即座に UI 要素の選択成功率を表示でき、開発者の設計改善に直結する点で有用。
- 開発者を対象とした実験は限定的なため、N数を多くした追加実験が望まれる

記述の質
- 論文構成は明快で、背景 → 実験 → モデル構築 → ツール実装 → 評価 → 議論 と整理されているが、セクションの名前は再検討の余地あり(特に3.5実験->モデル構築や、推定モデル用データ収集、など。)
-趣旨からすると、開発者による評価、とくに7.2の結果が重要であるが、結果がまとまっていない印象。読者にとって有用な情報をまとめてほしい。

改善コメント

本研究はTappyの思想をVRレイキャストに拡張し、Unity統合で実務適用性を高めている点が強みです。一方、HMD/入力条件の機材依存性が大きいため、Tappyよりも校正・一般化(装置間移植性)の検証が重要になります。条件横断の外部検証と、3D特有因子(距離・照準角・手ぶれ)の寄与分解を追加すると説得力が増します。現状の章立てだと誤解を招く可能性があるため、モデル構築とツールの評価をわかりやすくするような改善が必要です。ツールの評価のN数は多いほうがよいですが、現状の報告でも十分に知見があるので、内容を整理し読者に届きやすくすると論文の意義が高まります。

査読者4

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

3

採否理由

1. 新規性(先行研究との差分)
・HMDを用いたVRコンテンツのUI設計において,UI配置の初期段階で操作(選択)の成功率を予測できるツールを提案した点
(従来の研究はポインティング操作の時間やエラー率のモデル化は進んでいたが,開発者が実装段階で直接活用できる形で「選択成功率」を定量的に推定し,エディタとして提供している点)
・ターゲットサイズや距離、座標系の違いなど複数のモデルを比較し、実用性・簡便性の観点からも検討している点
2. 有用性・正確性
・VRコンテンツのUI設計の初期段階で,HMDを装着せずともUI要素の選択性を定量的に評価・改善できる点
・モデルの正確性において実験データとの比較で高い推定精度が示されている点
・ユーザスタディでも肯定的な評価が得られている点
3. 論文自体の記述の質
分かりやすく構成されている.ユーザスタディの規模などは今後拡大していく必要があるが,展望は書かれている

改善コメント

いずれも展望的内容としてですが下記の点をコメントさせていただきます
・選択手法・入力デバイスの多様性
今回はコントローラーによるレイキャスティングのみを対象としています.バーチャルハンドやアイトラッキングなど多様な入力手法に関する展望などがあるとよいと思います.

・ユーザスタディの規模
ユーザスタディの被験者数が2名(うち現在も実務に携わる方は1名)と少ない.経験者への調査は人数を増やすとよい.また,経験の少ないユーザーに対して実験してもよいのではと思いました.

・本システムによって開発されたUIの評価
実際に本システムを使って作ったUIと利用せずに作成したUIの差やUI設計までの時間の比較などもあると面白いと思いました.将来の展望などでもいいので言及してもらえると面白いと思いました.