査読者1

(Primary)レビューサマリ

■新規性
(+) 頭部と胸部の回旋リダイレクションの同時適用を検討している点に新規性がある(RevID: 86, 87, 88, 126)

■有用性
(+) 幅広い応用が見込まれる(RevID: 88),今後のVRコンテンツ開発に有用(RevID: 126)
(+) 閾値調査には学術的意義がある(RevID: 88),興味深い(RevID: 126)
(-) タスク完了時間には有意差がなく有用性を示せていない(RevID: 86)
(-) 適用可能性や非対称ゲインの探索などの課題が残っている(RevID: 87, 88)

■正確性・記述の質
(+) 実験は適切に実施されている(RevID: 87)
(+) 論文の記述は概ね明瞭(RevID: 88),構成が明快(RevID: 126)
(+) 図表が有効に活用されている(RevID: 88)
(-) 仮説やその支持・不支持に関する記述が明瞭ではない(RevID: 86)
(-) 実験結果に関してオーバークレイムがある(RevID: 87)
(-) 関連研究との比較や今後の展望部分は深掘りの余地がある(RevID: 88)

以上のように,査読者全員が新規性を認めている一方で,有用性や正確性・記述の質に関するいくつかの点において懸念が示されています.これらの懸念点は,短時間で改善可能な範囲内と考えられることから,「4: 条件付き採録(シェパーディング)」といたします.

採録のための条件は,以下の通りです.下記以外にも,各査読者から有益なコメントをがありますので,ぜひ今後の研究のご参考にしてください.
■条件1:実験結果に関するオーバークレイムを改善してください(RevID: 87ご参照)
■条件2:4章の評価実験について,タスク完了時間の指標の実験における位置づけ(何のために測定したのか,本研究の目的にどのように関わるか)について明確化したうえで,提案手法のタスク完了時間にベースラインとの差が見られなかった要因について考察を追加してください(RevID: 86ご参照)

(Primary)採録時コメント

本研究は,座位環境での物理的な制約を緩和するために,頭部と胸部の回旋を同時に知覚閾値内で増幅するリダイレクション手法を提案し,その有効性を検証したものである.回旋ゲインを頭部と胸部へ同時適用することの新規性に加え,物理的制約の緩和とVR体験の質の保持を両立するための設計指針を提供していることの有用性が高く評価された.一方で,一部主張のオーバークレイムや,一部評価指標の位置づけの不明瞭さが見られたことから,条件付き採録と判定された.

(Primary)論文誌として必要な改善点

- 実験参加者の多様化または数の増加
- 非対称なゲインの決定に関する考察の追加
- リダイレクションの結果,本来の体験がどの程度損なわれたかに関する知見(定性的でも良い)
- 他の関節への適用可能性の議論の追加

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

3

採否理由

これまでにも頭部回転のリダイレクション手法は検討例が多数ありますが,本研究は頭部と胸部のそれぞれの回旋リダイレクションの同時適用を検討している点に新規性があると考えます.

論文では,頭部回転ゲインと胸部回転ゲインの組み合わせに対する知覚閾値の調査,および,体の回転によりターゲットを獲得するタスクにおけるユーザ体験の調査をそれぞれ目的とする2つのユーザ実験が報告されており,いずれも概ね適切に実施されているように見受けられます.2つ目の実験では,頭部の回転量と手の移動量のいずれも少なく抑えられる手法であることが示されており,興味深い知見であると思います.

一方で,実験結果に関してややオーバークレイムが見られます.例えば,概要や5.1節では「提案手法は,認知負荷と酔いを抑制しつつ,(中略)が示唆された」との主張が見られますが,認知負荷や酔いが抑えられたかどうかは実験結果からは明らかになっていません(まず,NASA-TLXとSSQは,それぞれ「主観的な」作業負荷と酔いを測定するための指標で,この結果のみから認知負荷や酔い全体の結果へと一般化するのは適切ではありません.また,有意差が見られなかったことは,「差がない」という帰無仮説が棄却されなかったことを意味しているにすぎず,「差がない」ことを示せたわけではないことに注意が必要です).全体的に表現を改める必要があると思います.

また,「サイバー酔い」「VR酔い」の2種類の表記があり,どのように使い分けられているのか(または表記が揺れているだけであるのか)わかりませんでしたので,補足または修正が必要です.

改善コメント

1点気になったのは,頭部ゲインと胸部ゲインのそれぞれがどれほどの割合で回転量の削減に寄与しているかが明らかになっていないという点です.1つ目の実験では,頭部の回転量と胸部の回転量は個別にトラッキングされているはずですので,ターゲットとなる回転量を達成するために頭部・胸部がどれほど回転していたかがわかれば,(1.43・1.43と等しい値を用いるのではなく)最終的な回転量の削減を最大化するゲインの組合せを決定できるのではないかと思いました.
また,ターゲットの回転量の大きさによって,この頭部ゲイン・胸部ゲインの寄与の割合は異なること(例えば,大きな回転量だと胸部ゲインが優位であるが,小さな回転量ではそうではない,など)が予想されるため,このあたりも調査してみても面白いと思いました.

査読者2

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

5

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

3

採否理由

1. 新規性
VR空間におけるリダイレクション技術を活用し,ユーザの体験を損なわずに身体的負荷や環境制約を軽減する閾値の探索を行っている.
従来のリダイレクション研究が頭部のみに着目しているのに対し,頭部と胸部(上肢)の回旋動作に同時にリダイレクションを提供している.

2. 有用性・正確性
VR体験の質を維持しつつ、身体的負荷や空間制約を軽減できる設計指針を提供しており、今後のVRコンテンツ開発において非常に有用である.閾値として頭部のみ,胸部のみ,両方におけるゲインの閾値(75%正答率を基準)が導出されていて興味深い
これらの値も,実験により有意な差が確認されており信頼性の高い結果と評価できる

3. 論文の記述の質
構成が明快で,背景・問題設定・手法・実験・考察が論理的に展開されている

改善コメント

基本的には将来の展墓や今後の展開を期待するものですが,参考になれば幸いです.

対象ユーザの多様性
実験参加者の属性(年齢、VR経験、身体能力など)が多様になったり,実験参加者が増えるとさらに知見が高まると思います.個人的にも大変興味があります.

体験の主体性
体験者が,リダイレクションの効果(増幅,減衰)に気が付いたかどうかの視点はあるのですが,その結果体験を損なっていたかどうかという点は定性的でもいいので何か知見が得られるとよいのではと思いました.展示デモが実施できるようであれば,実際に体験してみたいと思いました.

査読者3

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

5

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2

採否理由

本研究は、座位環境での物理的な制約を緩和するために、頭部と胸部の回旋を同時に知覚閾値内で増幅するリダイレクション手法を提案し、その有効性を実験的に検証している。既存研究は頭部回旋のみを対象としたものが多く、胸部・上肢を含めた増幅操作を検討した点は新規性が高い。有用性についても、実験結果から認知負荷やサイバー酔いを増大させることなく、動作遂行コストを削減できる可能性が示されており、VRエンターテインメントやリハビリテーションなど幅広い応用が見込まれる。また論文の記述は概ね明瞭で、研究目的から設計、評価までの流れが整理されている。したがって、全体として採択に値すると判断した。

新規性:
既存のリダイレクション手法を「頭部のみ」から「頭部+胸部(上肢)」に拡張した点に独自性がある。知覚閾値を実験的に導出し、その結果に基づいて実装・評価を行っている点も学術的意義がある。

有用性・正確性:
- 評価実験により、認知負荷・サイバー酔いを増大させずに動作遂行コストを改善できることを示しており、応用可能性が高い。ただし、適用可能性や非対称ゲインの探索など今後の課題も残されている。

論文の記述の質:
実験設計や分析手法は明確に記述されている。実験参加者数は12名と標準的ではあるが、75分間の実験で負荷も高いため妥当な数字である。 図表(例:図5の比較結果)も有効に活用され、結果の解釈を支えている。一方で、関連研究との比較や、今後の展望部分はさらに深掘りできる余地がある。

改善コメント

-非対称ゲイン条件の検討やより多様な動作への応用可能性を、議論で触れるだけでなく補足実験や考察を加えると説得力が増す。

-実験条件数が多いため被験者間の差の影響をさらに検証できるとよい

査読者4

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

3

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2

採否理由

■概要
座位でVRを操作した際に身を捩って後方のオブジェクトを視認したり操作すると、操作者の物理的な制約でやりにくい。
これを、知覚できない範囲で動作を大きくするリダイレクション手法を用いて、頭部と上半身の回転量を増幅させることで改善する提案である。

■新規性
頭部と一緒に胸部も回転量の増幅を適用することが新規性である。
先行研究で、着座でのVR体験時に頭部の回転にリダイレクション手法を適用する研究は存在している。

■有用性
座位でも後方のオブジェクトを操作しやすくなるというのが提案の主張であるが、
実験結果で、タスク完了時間で有意差が出ていないため、有用性を示せたといえるのかが不明瞭である。
移動量・旋回量は移動量に倍率をかければ自ずと低減されるのは自明である。

■正確性・記述の質
実験の内容についての記述は多いが、どういった仮説を検証することを目的として実験を計画し、
実験結果はその仮説を支持したのかの記述が明瞭ではない。

■採録の条件
仮説が何で、実験結果はそれに対してどうであったのかについて、
記述を明瞭にしていただけることを希望する。

改善コメント

頭部の回転増幅率と、胸部の回転増幅率を独立した実験を行ったことは、
本研究の貢献となりうるポイントであるので、
この実験結果に関しての考察を膨らませて、新たな知見が生まれることを期待する。