査読者1

(Primary)レビューサマリ

■論文概要
ビデオ(01:00)に示されるような、弱視者がグラフをよみとりやすくするために、グラフのカーソル付近を拡大しつつ、そのすぐ周囲に視野外にある文脈的要素(例:軸や凡例)を常に表示させる表示手法を提案しています。また3条件(None、Minimap、提案手法)を比較するユーザテストを行っており、提案手法が良好であったと報告しています。

研究全体としては、まず弱視者5名が参加した予備実験を実施し、要件を抽出しています。この要件に基づいたGraph Guideというシステムを実装しています。Graph Guideのユーザはユーザ毎の必要性に応じて4.1節に示されている様々な機能とそのパラメータを、ビデオ(01:11)に示される「個別ニーズ適合的設定」UIを使って設定・調節することができるようになっています。例えば、カーソルの周囲に文脈情報を表示するための領域である「フォーカスボックス」の幅、高さ、枠線の可視性、色、太さを調整したり、フォーカスボックスの周囲を暗くする機能をON、OFFしたり、十字線太さ、色、不透明度、大きさなどを調節できます。なお、Graph Guideの現実装では、凡例や軸などの要素は、著者らが事前に手動で切り出す必要があります。その後、6人の弱視者にMini-VLATクイズに回答するというタスクを3条件(None、Minimap、提案手法)で行って貰い、提案手法が他に比べて、低いeffort、高いinformation access、高いSUSスコアを示したことが報告されています。

■査読結果
査読者4人のスコアは全員5(採録)と揃っています。査読者からのコメントをまとめると以下の通りで、スコアをサポートするものとなっています。

ポジティブ面:
- LVI支援のための、非常に重要な研究(R70)
- 元のグラフを保持しつつカーソル周辺に意味的要素(軸・凡例)を投影するアプローチは新規性がある(R145)
- 6名のLVIによる予備的評価では、SUSスコアの向上と情報アクセス性の改善が確認されており、実用的意義が示唆されている(R145、R146)
- 最優秀論文の候補(R11、R70)
- 論文誌推薦(R11、R70)

ネガティブ面:
- 提案手法をfocus+context手法と主張しているがcontextとは何かの定義がない(R11)
- 説明不足が幾つかある(R11、R146)
- 論文内に実際のUIスクリーンショットがなくて手法を理解するのが難しい(動画を見ればわかる)(R11、R70、R145)
- 論文には推敲が必要(R11、R146)

ただ、4人の査読者の確信度は2、2、2、3です。特に提案手法はシンプルであり技術的には難しいものではないため「もしかしたら似たシステムや解決方法はあるのかもしれない」(R145)という不安があります。しかしながら、本論文には弱視者6名の協力を得ての実験結果も報告されており、本研究の貢献は十分にあると判断されます。

採録条件に関しては、論文の記述を改善することは必須ではあるものの、改善後に改めて採否の判断を要する懸念点はないので、特に条件を設ける必要は無さそうです。

以上を踏まえて総合判定を5(採録)としました。

(Primary)採録時コメント

本研究は,弱視者がグラフをよみとりやすくするために,グラフのカーソル付近を拡大表示しつつ,そのすぐ周囲に文脈的要素(例:軸,凡例)を常に表示する,いわばfocus+context表示手法を提案している.本研究の進め方は堅実であり,まず弱視者5名が参加した予備実験から要件を抽出した上で,この要件に基づき提案手法を設計している.また,弱視者6名が参加した3条件(None、Minimap、提案手法)を比較するユーザテストを通じて,提案手法がグラフの読み取りに役立つことや手法に関する方向性が報告されており,この点でも本研究の貢献は大きい.以上の理由から,本論文は採録と判断された.

(Primary)論文誌として必要な改善点

(特にありません)

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

5

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2

採否理由

■提案されている内容の新規性(先行研究との差分が十分にあるか)
弱視者がグラフをよみとりやすくするために、グラフのカーソル付近を拡大しつつ、そのすぐ周囲に視野外にある文脈的要素(例:軸や凡例)を常に表示させる表示手法を提案して、6人の弱視者の協力を得て3条件(None、Minimap、提案手法)を比較するユーザテストを行っており、提案手法が良好であったと報告しています。

■有用性(実際に役に立つか),正確性(技術的に正しいか)
とても役立ちそうです。将来的にR、SPSS、Excelなどが出力するグラフに本機能が使えるようになると良いと思いました。

■論文自体の記述の質(分かりやすく明確に書かれているか)
分かりやすく明確に書かれています。

改善コメント

内容面(重要度順、一番上が最も重要)
1. ビデオを見なくても提案インタフェースが分かるようにするために図を挿入すべきように思われます。
2. タイトルや本文にfocus+contextとあります。古典的なfocus+context手法では、拡大された部分が全体を覆い隠さないように、拡大された部分以外をscaleしたりdistortしていて、その部分がcontextに対応します。一方で本手法でのcontextはそれとは異なるようです。したがって、本論文でのcontextとは何かを明示すると良いと思います(概要で説明されている凡例と軸でしょうか?)。
3. ワークロードに関する質問紙とは何かを明記してください。
4. 5.2節において各条件のワークロードのスコアを示すべきように思われます。
5. 図4に「5 (negative) ... (positive)」とありますが「1 (negative) ... 5(positive)」ではありませんか?そうでないと「μ=3.83」にはらないと思いました。
6. ビデオの01:15から示されている「個別ニーズ適合的設定」というのはいつ使うものなのでしょうか?グラフ毎に使うのでしょうか?あるいは個人が1回行っておくだけで良いものでしょうか?
7. スペースに余裕があれば、Minimap条件でのインタフェースを示すと良いと思われます。

その他
1. 脚注が本文にくいこんでいるので修整してください。
2. 誤字を見つけました。
- 「4.1 昨日とパラメータ」→「4.1 機能とパラメータ」
- 「グラフに直面すると」とは?
3. 「提供されるインタフェースは表示が一貫しており,元のグラフの視覚的アイデンティティを保持している.また,設定項目によって利用者のニーズに合わせた調整が可能である.」が2回あります。
4. 表1と表2のキャプションにある「拡大機能はスクリーン拡大ソフトの使用を示す.M=男性,F=女性,FoV=視野.」は不要に思われます。

査読者2

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

5

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

3

採否理由

・提案されている内容の新規性(先行研究との差分が十分にあるか)

- 新規性があると思います。ただ、「この研究をよりよくするためのコメントを入力してください.」のところに書いたように、先行研究との違いが具体的にイメージしづらいです。

・有用性(実際に役に立つか),正確性(技術的に正しいか)

- 弱視の方からの予備的調査をもとに弱視のユーザーにとって非常に有用なツールであると思います。実験の結果からも裏付けられています。

・論文自体の記述の質(分かりやすく明確に書かれているか)

- 論文の論理構造としてわかりやすく書かれていますが、日本語として不自然なところが多くみられます。
- ピンチズーム, 身体的な画面位置の調
整の文章の「身体的な画面位置」とはどういうことでしょうか。

改善コメント

- しかし, これらのツールは時間を要するグラフ再構築に依存していたり, LVI に新しいナビゲーション方法を強いるものであったり, あるいは視覚に基づくナビゲーションを省略してしまうことが多い. 後者はLVI にとって必ずしも望まれる方法ではない[32].
- こちらの文章は先行研究に対して本論文を位置付ける重要な文章だと思います。もう少し噛み砕いた説明が必要だと思います。例えば、「時間を要するグラフ再構築」はユーザーが何分くらい待たないといけないのでしょうか。「新しいナビゲーション方法」というのは、どういうことでしょうか。今回の提案手法も新しいナビゲーション方法と言えなくもないと思うので、差をはっきりさせたいです。
- おそらくAIツールで日本語に翻訳されたのではないかと思います。もう一回もとの言語に戻してみて、意味がわかりやすいかをチェックしてみてください。そうでない場合はもとの原稿を修正すると、日本語の方もわかりやすくなると思います。最終的にはネイティブチェックがあるのが望ましいと思います。
- 4.1 昨日→機能
- 3ページ目のfootnoteが変なところに入っているので、修正してください。
- 採択された場合、WISSの参加者に弱視+提案装置でデモをすることができれば、非常に有用性が伝わりやすいと思います。

査読者3

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

5

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2

採否理由

・新規性
本論文は、低視力者がデータ可視化グラフを読む際の「細部と文脈の同時把握の難しさ」という既知課題に対して、Focus+Contextのパラダイムを応用した Graph Guide を提案している。既存研究では音声化や表形式変換など文脈情報の提示手段はありますが、元のグラフを保持しつつカーソル周辺に意味的要素(軸・凡例)を投影するアプローチは新規性がある。

・有用性・正確性
Graph GuideはReactベースで実装され、実際に動作するシステムとして提示されている。6名のLVIによる予備的評価では、SUSスコアの向上と情報アクセス性の改善が確認されており、実用的意義が示唆されている。

・記述の質
基本的には読みやすくモチベーションもわかりやすい。課題認識と設計意図が明確で、参加者コメントも適切に引用されており説得力があります。ただし、論文内に実際のUIスクリーンショットがなく、Graph Guideの見た目や動作を初見で理解するのがやや難しい点は惜しいです。(添付された動画と画像を見ればわかるが論文内で提示してほしい)

改善コメント

図1はシステムのアイデア・コンセプトを伝えるために使ったほうがよいと思います。もしくは図2以降で加えるとよいと思います。

査読者4

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

5

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2

採否理由

LVI支援のための、非常に重要な研究です、関連研究との比較により新規性も示され、論旨も明確で、研究目的、実験手順、実験結果がわかりやすく記述されています。

改善コメント

動画を見れば自明ではありますが、どのようなグラフにおいてどのように拡大表示されるかを、論文でも図示するとよいかと思います。