査読者1

(Primary)レビューサマリ

タブレット上に特定の溝パターンをもつ透明シートを載せることで,ペンタブレットでなぞった際に異なる筆圧変化を生じさせその溝の種類を読み取るという技術自体には新規性があります.また論文自体の記述の質はよく評価できました.

一方でこのような技術により,どのような有効性があるかは論文中の6つのアプリケーション例から伝わりませんでした.
例えば,ペンで異なる溝をなぞることで異なるメニュー操作などができるとありますが,既存の技術(例:異なるタップジェスチャ,画面上に表示されたツールパレット,物理的なダイヤルやボタンなど)で容易に実現できるものばかりに見えます.またシート利用時にはユーザが入力時にシートがずれないように手でしっかり固定しながら入力する必要がありため不便のように見えます.発表の際には提案システムの有効性についてより深く議論することを推奨します.

他にも,認識精度(平均78%)の低さや,筆圧の個人差に対する頑健性の欠如,一次元の溝パターンのみで二次元へ拡張できてない点,実装の詳細(リアルタイム認識の仕組み,実験条件,ソースコードなど)が不足している点などネガティブな要素も目立ちます.この辺りはワークショップである点を考慮して減点対象にはしていません.

以上の理由から,下記の修正を条件とした条件付き採択と判断されました.
− 2.2 シート作成:レーザカッターのパラメータと加工された溝の深さに関する追加をお願いします.
− 3 精度検証:学習データの次元数の追記をお願いします.
− 4 アプリケーション例:ペンタブレットのみを使う場合に対し,提案手法を利用した場合のメリットを追記してください.
-- 4.2 「また,教育現場でスタイラスペンを用いることは一般化されつつある [18].」で引用している[18]が不適切であると指摘があります.他の適切な論文へ変更できますか.
-- 4.3  鍵盤は叩いて音を出すというのが直感的で自然ですが,なぞって音を出したいモチベーションと良さを補足してください.
-- 4.4 「個人性の高い認証ができる可能性がある.」と記載があるが,顔認証・指紋認証・PINと比べるとむしろ低いと思います.記述を削除するか,説得性のある説明を追加してください.
− 参考文献:フォーマットの修正( p. -> pp., [20] jul-> July)

(Primary)採録時コメント

本技術は溝パターンによる筆圧変化の読み取りに新規性があり,論文の質も高いと評価した.一方で,提案技術の有効性が既存操作との比較で不明瞭な点,および認識精度や個人差への対応など技術的な課題も残る.以上の理由から,条件付き採択と判断された.

(Primary)論文誌として必要な改善点

レビューコメントを参考にしていただきたいです.

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

3

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2

採否理由

凸凹したシートをつかい、タッチペンでタブレットをなぞる際に特有の振動パターンを生じさせ、ユーザに振動を知覚させながら、振動しているシートを認識します。電池レスかつ単純なセンシングでシートを認識できる点、凸凹の大きさによる検知率の評価をしている点が評価できます。

懸念点として、
ーシートをユーザがしっかり押さえてないとペンでなぞる際にシートがずれ認識率が下がりそうだが、わざわざ両手を使ってまで本システムを利用したいかどうか
ー凸凹が一次元しか対応しておらず二次元へ拡張できない点、
ー4種類の溝の幅の凸凹シートの溝の幅を認識できると評価しているが、溝の幅の許容範囲(あまりに短いと全く認識できないなど)、溝の数、一つのRFで認識できる溝の幅の種類の議論がなく、どのように凸凹シートを設計すればいいか判断しずらい。
ー提案システムがなければできないアプリケーション例を挙げれない点
が挙げられます。

論文自体の記述は問題ないです。

改善コメント

採否理由を参考に改善して欲しいです。

査読者2

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

3

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2

採否理由

ペンタブレットにおいて、微細な溝の上で筆記した際に筆圧変化が検知でき、それによって溝のパターンを記録した板を識別できるという発想は新規性が高い。
ただ、現時点での実装は一次元バーコードをスキャンするしくみを反転させたものに過ぎないという見方もでき、インタラクション設計としてどのような新規アプリケーションが実現できるかという実用性の面での説得力が重要となる。

いくつかアプリケーションが例示されているが、いずれもタブレット上にシートを導入しないとならないロジックが不明瞭である。
また、操作効率や認知負荷がどの程度改善されるのかといった使用性の側面については十分に検証されていないし、認識精度もそれほど高く思われず、有用性の点で疑問符がつく。

論文は分かりやすく書かれており、関連研究なども含め完成度は高いが、その分、上記の実用性・有用性に関する懸念が目立って気になってしまう。

興味深い現象を発見したことは高く評価できるが、HCI研究としては、もう一歩踏み込んだ貢献が必要なように感じられ、採録を強く推すには至らなかった。

改善コメント

前述のとおり、実用性・有用性に関する記述を改訂いただけると、研究としての魅力がより増すように思われる。

査読者3

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

2

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

3

採否理由

■提案されている内容の新規性(先行研究との差分が十分にあるか)

提案手法には新規性があると考えます。特に、筆圧検出機能がついており、かつペンの位置をリアルタイムに取得できるハードウェアを凸凹によってエンコードされたIDの読み取りに使うという着眼点は極めて鋭いです。

■有用性(実際に役に立つか),正確性(技術的に正しいか)

論文の「4 アプリケーション例」に示されている例は面白そうです。

ただし研究目的が「追加デバイスを必要としないシート型TUIの実現を目的とし」としている一方で、提案手法が(何を前提とするか次第ではありますが)筆圧検出機構を有する液晶タブレットという大きめの追加デバイスを必要とするという見方もできます。また「教育現場でスタイラスペンを用いることは一般化されつつある[18].」とありますが、教育現場で普及しているスタイラスペンは、タブレットPCのスタイラスペンであり、筆圧検出機構を持たないもののはずです。そう考えると、提案手法の有用性はやや低そうです。

なお、[18]は「教育現場でスタイラスペンを用いることは一般化されつつある」ことを示してはいません。[18]は大学講義における手書き、キーボード入力、タブレットペン入力の3方法間で、講義内用の記憶、理解、様相(文字数、記号数、図形数など)を比較した結果を報告しています。ということで本論文の記述の信頼性も低目です。

実装に関する記述として「本研究で用いたピーク検出および特徴量算出の詳細な実装は,GitHubリポジトリ1に示す.」とありますが、リンク先を見てもソースコードとデータが置いてあるだけでどのようにピーク検出および特徴量算出を行っているのかの説明は無く、またソースコードからも読み取れませんでした(ソースコードも拝見したのですが、ストロークデータを取得・保存するプログラムに見えました)。

■論文自体の記述の質(分かりやすく明確に書かれているか)

論文は分かりやすく明確です。

■サマリー

本手法は着眼点が鋭くかつ面白くとてもWISSに相応しいと思いました。一方で手法の有用性と論文の実装面の記述が荒い(実装されていないとは思っていませんがGitHubからは読み取れなかったということです)、記述に怪しい箇所がある、という点から総合評価はややネガティブです。

改善コメント

1. 本研究に一番似ているものとして思い浮かんだAcoustic barcodesが参考文献として挙げられているので問題は無いのですが、見た目が似た研究として以下を思い出しました。
- Funakoshi, M., Fujita, S., Minawa, K., Shizuki, B. (2020). SilverCodes: Thin, Flexible, and Single-Line Connected Identifiers Inputted by Swiping with a Finger. In: Kurosu, M. (eds) Human-Computer Interaction. Multimodal and Natural Interaction. HCII 2020. Lecture Notes in Computer Science, vol 12182. Springer, Cham. https://doi.org/10.1007/978-3-030-49062-1_24

2. 参考文献の情報を見直した方が良さそうです。以下に気づいた点を挙げます。
- 複数ページある論文に「p.」が使われている。
- [17]の著者リストのet al.の使い方が正しいかどうか怪しい(著者11人の最後の著者だけ略している)。
- [20]のjulは妙。

査読者4

総合点 (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4

確信度 (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2

採否理由

本研究では、ペンタブレット上に等間隔の溝を設けたアクリル板を重ね、その上をペン先でなぞることによって生じる筆圧変化を用いてパターンを識別する手法を提案しています。追加のセンサを要せず、ペンタブレット内蔵の筆圧センサのみで実装できる点が特徴であり、筆圧波形のピーク間隔や振幅などの特徴量を抽出して、平均精度78%で溝間隔を識別できると報告しています。この手法を用いた応用例として、カラーパレットの表示やID認証、アプリケーション呼び出しのショートカットなどを紹介しています。

論文は良く書かれていますが、HCIの伝統的なテーマであり、数多ある関連研究と比較すると新規性や有用性にやや疑問が残ります。よって「4: どちらかと言えば採録」と判定します。

・新規性
提案手法に関連する研究はこれまでも数多くなされており、調査が不十分であるような印象を受けました。また、TUIに関する関連研究の課題として、「電子回路の組込みを前提としている」ことや「設置環境や製造コストの面で,普及や導入の障壁となる」ことを指摘しています。この点について、提案手法においても、筆圧検知が可能な入力サーフェスとペンデバイスなどが求められる点について公平な比較が必要かと思います。

・有用性
筆頭著者によるデータで構築された識別器の平均識別精度が78%と報告されていますが、これは決して高い精度とは言えず、手法の汎用性や精度に疑問があります。たとえば、非常に筆圧の強い(弱い)ユーザが使用した場合、溝によって生じる筆圧差が変化しそうですが、これは問題なく検出できそうでしょうか。また、開始・終了時点の溝しかなく、識別精度も良いNoneを含めるべきかどうかにも注意が必要です。

・論文の記述の質
論文全体はとても良く書けていますが、いくつか説明が不明瞭な点があります。

はじめにで述べられている先行研究の課題、「しかし,対象物の認識は可能であるものの,それと絡めた操作は困難である」における「それと絡めた操作」について具体的に説明してください。

実装に使用した機材などの情報を記載してください。シートの作成時に用いたレーザカッターのパラメータや加工された溝の深さは同じシートを作成するために必要な情報です。また、使用したペンタブレットの筆圧感度やレンジなども記載されると良いと思います。

学習に使用された特徴量の次元数はいくつでしょうか。また、ストロークはx座標の280~520pxの範囲を取得しているとのことですが、シート(溝の方向)が縦を向いている応用例はどのように実装していますか。また、シートが斜めになっている場合、移動距離(ピクセル)に僅かな差が生まれるかと思いますので、シートの固定方法などについても説明が必要です。

改善コメント

関連研究について、著者らが参考にされているAcoustic Barcodesはもちろんのこと、タッチスクリーンの押下圧を活用する手法(たとえば、"Forcetap", MobileHCI 2011)やリズムを入力に応用した研究(たとえば、"Using rhythmic patterns as an input method", CHI 2012)なども関連すると思います。また、ファブリケーション技術の発展で、溝やテクスチャなどのパターンのある表面をもったインタフェースの制作も容易になっています。こうした先行研究を網羅的にまとめながら、提案手法がどのような点で新規であるかが主張されているとさらに良い論文になると思われます。

より現実的な場面を想定すると、誤認識率について議論がある良いと思います。たとえば、ペンタブレットの画面を点描のようにつついたり、ハッチングのような線を連続して描いたときにシートへの入力と検出されてしまうことはないでしょうか。

レーザカッターを用いてシートを作成されている点が非常に興味深く、さまざまな発展が考えられそうです。たとえば、移動方向に合わせてレールのように溝を入れればペン先のガイドになるかと思います。移動方向と垂直に交わる溝と深さを変えることで、描画パスと筆圧を組み合わせた特徴量を作ることができのではないかと思いました。研究としては、Touchplates(ASSETS 2013)やEdgeWrite(UIST 2003)などが参考になるかと思われます。